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クロニクル・ファンタジア  作者: clover
第1章 リーシア村編
11/19

夢は覚めて少女は現実へ歩を進める

 ファイアリザードを倒した私たちはさらに奥に進んだ。

 魔物の出ない安全地帯について休憩することにした。

 そこまでの道中でなんどか戦いもした。

 怖かったけれど取り乱すことはなくなったと思いたい。


 休憩中にクロウェルとゆっくり話すことにした。

 正しくはクロウェルがなんとなくで話し始めただけだったが。

 この時の会話は嫌でも忘れることができないだろうなと、

 後になって思うことになるなんて私は気付かないで話を聞いていた。


「戦うことを怖いと思うのは罪じゃないよ。僕だって怖いって思ってるから。

 怖いって思えなくなる事の方がよほど恐ろしいと僕は思う。

 だから、取り乱したりさえしなければ、慣れようなんて思わなくてもいいよ。」


 あんなに強いのに戦うことを怖いって思うんだ、という点で意外だったのと、

 戦う事への忌避感や恐怖をなくすことの方が恐ろしいっていう事には納得できたのと、

 それを伝えてくれたのは、私が取り乱してたから、心配してなんだと感じたのとで、

 複雑な気分になった。


「……クロウェルでも怖いって思うんだ。」


 ホントに意外だ。壁とか使って飛び回ってるのを見るとそうは感じられない。

 平然としているように見えるだけだったんだと、思った。


 私はどう見えてるんだろう。

 さっき取り乱した時以外はほとんど怖いとも感じていなかった私は。


「戦って傷付くことも傷付けることも、怖いことには変わりないよ。

 僕だって、戦っている相手だって、生きることに必死だからね。

 それに、冒険者はいつ死ぬかわからないし、死ぬことは怖いって思うよ。

 僕は家から飛び出してここに居るからなおさらね。」


 こいつ、なんでこんなところでダンジョンに潜ってるんだろう。

 奥に行けば行くほど魔物も強くなるのに、なんでこのダンジョンを選んだんだろう。

 疑問は沢山あるけれど、

 この人も私と同じで戦うことを怖いって思うんだなって、納得できた。


「そっか、そう、だよね。」


 だからだろうか、少し‘目が覚めて’はっきりと現状を認識できた。

 私だって虐めを受けていたとはいえ馬鹿じゃない。

 命の危機に瀕したり、自分の手で命を奪ったりした。

 だから、この世界に来たことは実感していたはずだった。

 それでも、どこか夢見心地だった部分があったんだと思う。


「ラティエ、どうかしたの?」


 それをクロウェルの言葉で自覚した。

 無意識のうちに逃げていた部分があって、それを自覚するのは怖い。

 意識するとこの場から逃げ出してしまいたくなる。

 馬鹿なことをしていた、そのことにやっと気づいた。


 この世界はゲームや夢じゃなくて現実だってことに。

 俺はもう‘俺’じゃなくて、‘私’なんだってことに。

 どんなに辛くても当たり前だった日常は戻ってこないってことに。


「ごめん。私、馬鹿だった。これまで夢を見ている気でいた。

 今いるこの世界は現実なんだって今更気づいた。」


 そのことに気づいて、途端に恐ろしくなった。

 もう後戻りは決してできない。

 この世界で生きることを選んだ時点で自覚していなければいけなかったんだ。

 それを今更気づかされて、足元が見えなくなった気がした。


 だって、今の私は俺とは全く違う姿で、知り合いのいない世界にいるんだ。

 もとの世界に行けたとしても、今の私を知っている人なんて誰もいないし、

 それが‘俺’だなんて信じる人なんて決していないだろう。

 そう考えただけでどうしようもない孤独感に襲われた。


「だから、凄く不安になっちゃった。

 本当の意味で私と同じ境遇の人はいやしないんだって、怖くなっちゃった。」


 混ざり者であることに、不安を覚えた。

 自分の知らない誰かの身体と混ぜ合わされて、

 知らない知識もあるかも知れなくて、

 無意識のうちにそれを当たり前かの様に受け入れていたことに。


「見ないふりをしていたものに気づいて、初めて怖くなった。

 自分の変化に気づこうともしないで、後戻りできなくなってた。」


 異世界人であることに、不安を覚えた。

 知らない言語で書かれた書物が沢山あって、

 魔術やスキル、武器、魔物が当たり前にあって、

 見知らぬ世界で一人になってしまったことに気づかないまま、

 ゲームみたいだって、それを受け入れていたことに。


「‘俺’が‘私’になっていくことが怖くなった。

 見ないふりをしていた時は平気だったのに、意識したら駄目になっちゃった。」


 今の自分の行動は、本当に自分の意思なのか怖くなった。

 助けてくれた人に胸を張れるようになりたいって思って、

 戦うことを受け入れて、恐怖に向き合って、

 少しでも人を信じようとしている自分がいることに。


「私は本当に‘此処’にいていいの?生きていていいの?って。」


 ルディアさんに命を救ってもらう価値はあったの?

 クロウェルに助けてもらう価値はあったの?

 不安でどうしようもなくなって自分の体を抱きしめた。


 泣きたくて、でも泣けなくて、そんな自分に嫌気がさす。


「此処に居てもいいよ。生きてたっていいんじゃないかな。

 それを決めるのは誰でもなく自分自身なんだと思うよ?」


 クロウェルはそういって苦笑した。心配、だったんだと思う。


 初めてあった時は恐怖で逃げ出して、そのあとには盗賊に襲われていた。

 異世界人で、しかも混ざり者にされたのに平気な態度でいた。

 怖い目にあったのに、それでもダンジョンに入ることを決めた。

 それなのに不安の一つも零してなかった。


 ファイアリザードとの初戦闘で初めて取り乱した。

 それなのに私からは何も言わなかった。

 声をかけられるまで何も言わないでいるばかりだった。

 そんなんじゃ、心配して当然だ。


「同じ境遇な人なんて、どんな人にもいやしないよ。

 だって同じ人生を歩む人なんて誰もいないんだから。」


 落ち着かせるように、ゆっくりと話してくれる。

 接触恐怖症だって言ったからか、触れないように気を付けて隣に座ってくる。


「自分が変わっていくことを自覚したら、僕だって怖いって思うよ。

 見ないふりをしていたことに気づいたら、そのことから逃げたくなる。」


 ちゃんと目を合わせて、一つ一つ言葉を確かめるように紡いでいく。

 そんな彼はやっぱりお人よしで優しいんだろうなって、改めて感じた。


「僕だって冒険者になったときは夢見心地だった。

 そうじゃないって気づいたときには手遅れだった。

 それでもたくさんのことを僕は学ぶことができたよ。」


 やっと、目の前にいる人について、わかった気がした。

 彼だって、私と同じで怖いって思うし、不安もある。

 喜びもするし、失敗もしてるし、すごいところもある。

 それでも、此処に生きているひとなんだと、実感できた。


「僕たちがどんなことを思っていたんだとしても、

 それでも、今、一緒に‘此処’にいることは確かだよ。」


 クロウェルはそう締めくくって、私の言葉を待つことにしたらしい。

 穏やかな表情で言い切るあたり、大物なんじゃないだろうか。

 肝が据わっているというか、なんというか。


 この人はきっと、沢山冒険者としての経験を積んだし、

 失敗や成功をしてきたんだと思う。

 そのうえでこのダンジョンを一人で探索し続けることを選んでいた。

 それを変えたのはきっと私なんだと思う。

 私が自覚しないままに、巻き込んだんだと思う。

 そうなることを選んだのは彼自身の意思だとしても、だ。


「そう、だね。私はクロウェルと一緒に‘此処’にいる。」


 私の不安に対して真剣に答えてくれたんだと思う。

 だから、そのことに対して、ちゃんと答えを出したい。

 今、思っているこの気持ちがなんだってかまわない。

 ただ素直に言葉にする。きっと後悔はしないから。


「ねぇ、こんな私でも、迷惑をかけるかもしれないけれど、

 それでも、このまま、貴方と一緒にいてもいいですか?」


 好きとか、大切とか、そういう感情はあまりわからない。

 でも、一緒にいたいっていう気持ちに嘘はないから。

 出てきた言葉は震えていて、とても弱弱しい。

 でも確かに伝えることはできたって思いたい。


「………いいよ。僕なんかで構わないのなら。

 いつか、関係性が変わるかもしれない。それでも一緒にいるよ。」


 そう言ってそっぽを向いた彼の耳は赤く染まっていた。

 今更ながらに思うが、結構照れくさいこと言いましたね、私。

 なんか申し訳なくなってきた。

 あと、返事の時、少し微笑んでませんでしたか。


 私の中に芽生えたこの気持ちがなんなのか、知ることができたらうれしい。

 今はまだわからないけれど、それでも大切にこの気持ちを抱え続けていくから。

 だから、この想いがなんなのかわかるその時に、傍にいるのが彼であればいい。

 ふと、そんなことを思った。

……これ、ダンジョンの中の休憩エリアでの会話なんだぜ?

と、冗談は其処までにして、シリアス回でした。


ラティエはやっと現実と向き合うことにしました。

これまでは無自覚のうちにゲーム感覚でいたのですが、

それをしないようになったというところですね。


そして、2人が互いに抱いている感情がなんなのか、

それはこの先の展開次第で変化していきます。

友情に行くか、恋愛に行くか、

それはまだ未定なので今後の展開を楽しみにしていてください。

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