14 解説終了、再来と出撃。
ミーティングルームが明るくなる。黒いスーツとオリジナルの説明が終わったんだ。
「民間人の避難は一部地域を除き、ほぼ完了した。世間にはテロリストの爆破予告と公表している。今日いっぱいは人目を気にしなくてもいいだろう」
福地さんがノートパソコンを閉じた。数人の科学者が他のパソコンで街中に備え付けられた監視カメラを確認している。そのほとんどは風景だけ。
「どうして朝から避難させなかったんすか? 」
わざわざ俺たちが戦っている間なんかじゃなくて、もっと早くからそうさせなかったのか。
「オリジナルがどういう手を打ってくるか、どう行動するのか、大量のビーストを使って何をするか、パターンが全く読めなかった。それが判明するまでは彼らが必要だった。民間人に対する被害は捕獲装置を使えば最小限で抑えられる。最大の理由はエリクサーを補給する為の対象が必要だったってことになるが」
「そっすか……」
「不満かい? 」
「いえ、そんな事は」
ぶっちゃけて言えば不満だった。最小限に抑えられると言っても、それはゼロじゃないんだ。人を守る事に使命感や気概を感じているわけではないが、やはり、気分のいいものじゃない。もしかしたら、伝えられていないだけで俺たちが闘っている間に誰かが死んだのかもしれない。
「フルではないが、お陰で消耗したエリクサーのエネルギーを八割がた回復させることができた」
淡々と告げる。けど、この人だって本当は悪い人じゃない。エリクサーのエネルギーがフルじゃないってのが何よりの証拠だ。さっきの話だったら、補給に最適な方法と言うのはエリクサーの出力を上げて、人一人の生命エネルギーを致死量まで奪うことだ。でも、そうしなかった。避難してその後も普通に暮らせる程度のエネルギーしか奪わなかったんだろう。この人だって、人の命を投げ捨てようとしているわけではない。完全に救おうとしているわけでもないが。
「スーツの性能はそのデータ通りだ。君が普段使用しているスーツよりも、性能がずば抜けて高いわけではない。決定的に違うのは動力源に、エリクサーをつかっているということだ。エネルギー切れというものがほとんどないに等しいから、常にフルパワーで稼動できる。いざとなったら、ビーストの生体エネルギーを奪ってしまえ。オリジナルは適正者の身体を乗っ取っているから、不可能だが」
早瀬光輝、とは言わなかった。多分、福地さんなりに気を使っているんだ。
でも、あれはオリジナルだ。寄生虫だ。父さんじゃない。父さんを殺して、源さんや乃木さんを病院送りにした、俺の敵だ。それで全部だ。他には何もない。
「福地さん! 」
科学者の一人が叫ぶ。ミーティングルーム内の、全員の視線が集まった。
「オリジナルが現れました」
そういう科学者の声は若干震えていた。
心臓の鼓動が早くなった。敵がきたんだ。
「地点は? 」
福地さんが冷静に聞き返す。
「ポイントC-29……総合病院です。まだ避難が完了していません」
まさか、と思った。なんでそこなんだと。どうして、よりによって。しかも、まだ避難が完了していないだって? ふざけてんのかよ。
「すんません、俺、もう行きます」
待て、と制止する福地さんの声を振り切って、俺は駆け出した。ミーティングルームを飛び出し、街の外に出る。偶然目に入った公園の時計に目をやると、時間は午後四時だった。駅と俺の住んでいる住宅街の中間であるここは、この時間なら普段は学校帰りの学生とか、買い物帰りの主婦なんかが横行している。しかし、道路にも建物の中にも、誰も人はいない。信号だけが点滅している。これなら人目を気にしなくていい。
俺はブースターを全開にし、地面を強く蹴った。エネルギー切れの心配はほとんどない。思う存分使うことができる。
十数メートルを一気に跳躍し、三階建て住宅の屋根の上に着地する。そのまま跳躍を繰り返し、建物の上をかけていく。下水を使ったり道路をそのまま走るより、こっちの方が早い。最短コースで目的地までいける。
なんでだ。なんで、病院になんかでてくるんだよ。
あそこには、母さんがいるんだ。
俺は歯軋りをしながら、再び強く屋根の上を蹴った。
なんだろう、これ、読者おいてけぼりになってないでしょうか。ちょっと心配です。
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