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12 採血と真実とエリクサー。検査室にて。

これから終盤です(予定)。

トンデモ設定投下します。

果たしてこの詰め込み方は大丈夫なんだろうか……

 何がなんだかわからなかった。

 滅茶苦茶だった。全てが歪んでひん曲がっているように感じられた。

 気持ちだけで一歩も動けなかった俺。

 死にかけた乃木さんと源さん。

 オリジナルと言う敵。

 そして、その正体。

 あの顔は紛れも無く父さんだった。見間違いなんかじゃない。髭も髪も伸びていたけれど、アレは絶対に、父さんだった。

 そして何より、あの、父さんの顔をしたあいつは、俺の名前を呼んだんだ。

「アレは敵だよ。早瀬正輝」

 福地さんが淡々と告げる。その横には数人の科学者と、井出さん達数人の技師がいた。桂木もいる。

 源さんや乃木さんはいない。二人とも、今はこの施設の中にある集中治療室にいる。

 あの後、オリジナルは何もせずに意味不明なことを喚き散らしながら、去っていった。記憶の混乱だ、と福地さんは言っていた。オリジナルに父さんの記憶が逆流したんだそうだ。

「かつての第二次世界大戦中、日本は当時の最先端医学、生物学、機械学、あらゆる手段で新型兵器を開発しようとしていた。既存の確立された技術だけではなく、錬金術や果てには民間伝承や神話までもを視野に入れ、研究がなされていた。時には非人道的な実験も行っていたようだ。結局、そのほとんどが実装配備を待たずに、敗戦となって闇に葬りさられたがね」

 俺の腕にはいくつかのチューブが刺さっていた。俺に適正(・・)があるかどうか、再度検査をしているらしい。

 廃棄されたはずの研究資料。しかしそれは、秘密裏に保管されていた。

「だが、敗戦後も実験は続けられていた。目的はただ一つ、未知なる兵器の完成。アメリカに対抗しうる力を手にいれる、それだけのために」

 その結果、生み出されたのが二つの兵器――最初のビースト、つまりオリジナルであり、コアの元となった、今俺の目の前にある赤い石であるという。

「ビーストとは元々、宿主に寄生し脳を乗っ取る一センチにも満たない生態兵器だったんだ。元はアマゾン奥地に生息していた寄生虫らしいが。脳を乗っ取られた生物は思考能力を失い、身体のコントロールを奪われ、本体の手足となる。オリジナルとは厳密にはその寄生虫の事を言うんだ」

 今まで現れていたビーストは、オリジナルの産えつけた卵から生まれた幼虫に寄生されたものだという。幼虫が成虫になるのには十数年を要するそうだ。

「今君の目の前にある、赤い石。エリクサーというんだが、これは錬金術の賜物でね。賢者の石とでも言えばいいのか。正直、こんな非科学的なことは言いたくもないし、信じたくもないんだが、これは人間の魂をそのままエネルギーに変換する装置なんだよ」

 刻み込まれた適正者以外、その全ての他者の生命を吸い取り、自らのものに変換する石。現代科学では立証不可能な、錬金術の賜物。

「四十年以上も前になるか。その当時の日本はアメリカへの反撃をもくろんでいてね。君の祖父にあたる、富豪だった早瀬醍貴(はやせだいき)に研究を秘密裏に依頼していたんだ。そして、完成してしまった。オリジナルは実験動物のうちの一体に寄生して施設破壊し、逃亡。エリクサーはそのまま施設の瓦礫の中に残された。実験結果は全て燃えて消滅してしまったがね」

 俺が産まれるずっと前の話だ。父さんがまだ小さかった頃の話でもある。

「エリクサーは政府に回収された。生き残った研究者の証言を元に、エリクサーの成分を解析した。その結果、エリクサーに刻まれた適正者というのは早瀬家の血統――つまりは、君の父親に当たる、早瀬光輝さん以外にはいなかったんだよ。オリジナルが逃亡の際に、早瀬家の人間は彼以外全員殺されていたからね。君の祖父は、早瀬醍貴は、自分の息子を対アメリカの兵器にしようとしていたんだよ。自らが英雄として祭り上げられる為に」

 だから、父さんはこんなヒーロー紛いの事をやっていたんだ。父さんがやるしかなかったから。

「数年後、オリジナルが寄生した生物を発見した。というか、エリクサーを求めて向こうからやってきたんだ。当時、オリジナルは死滅したものだと思われていたからね。騒然としたそうだよ」

 他者の生命を吸い取り、自らのものにするエリクサー。それをもしも取り込むことができれば、それは不死身の、完全な生物の誕生を意味する。オリジナルはエリクサーを求めていた。より、自らを完璧な生命体として進化させるために。そう、福地さんは言った。

「ただ、通常の兵器ではどうしてもオリジナルを倒せなかったんだ。生命体の脳内分泌をコントロールして尋常ではない回復力を見せてくる。一瞬でも隙があれば、周囲の生命体に寄生して逃げてしまう。エリクサーの凝縮されたエネルギーを直接叩き込む事でしか、オリジナルは倒せないんだ」

 オリジナルは成体となり、別のビーストを生み出すようになった。成体自らが動物に寄生して脳をいじくり、異形のものへその姿を変容させ、幼虫を寄生させる。

「大量のビーストは、もはやエリクサーの力を使わなければ倒せない。そして、エリクサーを使えるのは当時、君の父親だけだった。初期型のパワードスーツが開発され、その動力にはエリクサーの欠片が採用されたよ。開発及び実験の過程で、数百くらいの命を使う羽目になったそうだけど」

 そのパワードスーツを着て、父さんは闘った。エリクサーを狙うビースト共と。そして、オリジナルと。

「それから十数年経過して、スーツは幾度も改良された。エリクサーのレプリカも作られた。これは君らがコアと呼んでいるものだ。エリクサーのエネルギーを溜め込むことができる。それ以外は特に何もできないが、早瀬家以外の人間でも闘えるようになったんだ。二階堂源、乃木功治といった人材を採用できるようにもなった」

 それでも、あくまでも動力源はエリクサーの生み出すエネルギー。いや、この場合は奪い取ると言った方が正しいか。

「効率よくエリクサーのエネルギーを補給する為に、エリクサーは街の地下に保管される事となった。ビースト共はエリクサーを求めてこの街に現れる。それを迎撃すればいいわけだから、都合がよかった。これだけ人間が近くにいれば、日々少しずつエネルギーを分けてもらうだけで十分な力が得られる。少し離れた場所には巨大な駅もあるし」

 数年が経過し、その間も父さんたちはビーストたちと闘い続けた。

 人知れず、その命の力を僅かにも奪っていきながら。

「そして、一年前。誤算が起きた。あの日、オリジナルたちはここから離れた場所に出現したんだ。それまでも数回、そのような行動パターンはあった。恐らく、めぼしい寄生対象を見つけるのはこの付近だけでは不便なのだろう」

 俺もそういうのは何回か経験している。下水で闘えない場合は、こちらから出向くのだ。幸いにもそういうときにビーストが出現するのはここから離れた山の中だから、人目はあまり気にせず闘える。

「あの時、早瀬光輝の体調は万全ではなかったが、オリジナルを殲滅する絶好の機会だったんだ。前日には致命傷に近い傷を与える事ができていた。一年前までは、エリクサーのレプリカでもオリジナルにダメージを与える事ができたから、二階堂源と乃木功治の二人がいれば、問題ないと判断したんだ」

 実際、その判断は間違ってなかったのだろう。戦闘は上手くいっていたようだ。戦いの最中に、民間人さえ現れなければ。

「瀕死の重傷を負ったオリジナルは、偶然現れた人間に襲い掛かった。早瀬光輝はそれを庇い、そして、寄生された。スーツのほんの僅かな隙間からオリジナルは早瀬光輝の身体を乗っ取り、逃亡したんだ」

 俺は父さんは死んだと告げられていた。でも違う。本当は、父さんは死んだんじゃない。父さんが父さんでなくなったんだ。

 検査が終わる。俺の腕からチューブが引き抜かれた。一瞬痛みが走る。血の滲む右腕を、科学者の一人がガーゼで被ってくれた。

「それからというもの、オリジナルは現れなかった。これは推測に過ぎないが、早瀬光輝の意識が抗っていたのだと思う。だが次にいつ現れるかわからない。欠片とはいえ、エリクサーを手に入れたオリジナルに対抗するには、こちらもエリクサーで立ち向かうしかなかった。だから君が誘われたんだよ、早瀬正輝」

 源さんは多分、この事実を俺には知らせたくなかったんだ。それでも、俺を巻き込まずにはいられなかった。それでも、父さんの事だけは隠そうと、だからオリジナルの事やコアのことを俺に言わなかったんだ。嘘までついて、誤魔化して。

「やはり、君にはエリクサーに対する適正がある。二階堂源にはなかった適性がね。あの二人が倒れた今、君にエリクサーを使ってもらうよ。君は、そのためにここにいるんだから」

 

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