表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10 撃破後帰還、整備と通信。





 これで、七体目のビーストを倒した。半魚人と猫のビーストを倒した後は、一体ずつ、離れた地点に現れるようになった。こちらの消耗を誘っているのだろう。実際、相当に疲れた。休む暇がないのだ。源さんはオリジナルとやらとの対決に備えてか、動かない。俺と乃木さんで出現するビーストの全てを相手にしなければならなかった。

 今、複数体でこられたらやばいだろう。どうしてオリジナルってのがそうしないのかわからない。そこまで知能が回らないのだろうか。それとも、何か他の目的があるのか。

 ともかく、一度本部に戻らなければならない。コアも新しいものを補給しなければ。

 ――コア、か。

 エネルギー体。兵器。錬金術の賜物。そのどれもしっくりこない。

 このスーツの動力源であり、つまるところの必殺技を繰出せるのはこいつのお陰だ。ただ、使い捨ての電池のようなものかと言われたらそうではない。一度に使えるエネルギーの総量はある程度決まっているみたいだが、何度も使いまわしているみたいだ。充電式なのか?

 かれこれもう、四時間は闘っているだろう。疲労はピークに達していた。できる事なら、もうこのまま眠ってしまいたい。

 ただ、下水のど真ん中で眠り込むと言うのは心情的に勘弁したい。せめて、控え室に戻ってからだ。

 ブースターで加速し、惰性で身体を走らせる。

 本部の真下へとたどり着く。壁に擬態してあるパネルを操作した。低い音を立てて天井が横にスライドする。五メートルくらいの高さを跳躍し、下水から通路へと移る。今度は通路の壁にあるパネルを操作して、下水に繋がるドアを閉めた。

 ヘルメットを上げ、一息ついた。下水の匂いがしたが、気にしてられない。蒸れて暑かったんだ。インナーは汗まみれだ。

「……戻りました」

 待機室の扉を開いた。

 部屋には誰もいない。源さんが出撃している。

 ……オリジナルってのが現れたのか。

 俺に与えられた命令は補給を済ませ、待機することだ。待機室を出て整備室に向かった。コアを取り替えてもらう為にだ。

 源さんは俺に何かを隠している。多分、どんなに聞いても教えてもらえないだろう。

 オリジナルのことだってコアの事ことだって、父さんのことすらも、俺の知らない所で物事が進んでいた。俺は生きていくので精一杯だ。金を稼いで家族に人並みの暮らしをさせるのが限界。俺は俺を殺して、目的と目標がごちゃごちゃになって生きている。

「ご苦労様です。どうぞ座っちゃってください」

 廊下に桂木の顔が見えた。ひらひらと手招いている。桂木に言われるがまま、そちらへと向かい、整備室に入っていった。そして、自分のボックスの中に入り、座る。

「こんなに多く出撃したのは初めてですね。大丈夫ですか? あ、コアの前に右腕の修理やっちゃいますね」

 俺が口にする前に、どうやらスーツの故障に気がついたらしい。相変わらずメカの事に関すると鋭い嗅覚をしている。

「微妙……いや、正直限界だわ」

 弱音を吐いた。自分でもわかる。

「早瀬君がそんな事言うなんて珍しい。敵もそれだけ本腰入れてきているってことなんですかね」

 桂木はスーツの内部に収納されているコアを取り出した。新しいコアがその手に握られている。

「ああ、そういえば二階堂さんが出撃したみたいですね。おやっさんが言ってました」

「そうみたいだな」

 オリジナルってのはどんな奴なんだろうか。これだけの数のビーストを束ねることのできる敵。それくらいしかわからない。

「本当に疲れてますねぇ」

 まあな、と返事を返すのすら億劫だった。

 それにしても、源さんは大丈夫なんだろうか。俺や乃木さんより経験があるし強いことは間違いない。ベテランというやつだ。あの黒いスーツは秘密兵器かなにかなんだろうし、勝算があってのことなんだろう。

「終わりました。こっちのコアは回収しておきますね」

「サンキューな」

 さっき、桂木は俺のことを疲れていると言っていたが、桂木の顔だって十分に疲れて見えた。それもそうだろう。俺と乃木さんがかわるがわるにやってくるんだ。今、整備を担当してるのは多分、桂木一人だけだ。井出さんを含んだベテランの人たちはコアの整備に追われている。

「ああ、そういえば。コアの事、ちょっと聞けましたよ」

「マジか?」

 本当にちょっとだけですけど、と桂木は前置きしてから言った。

「やっぱりこれは、ただのエネルギー体みたいです。というか、これ自体には多分、適正なんて関係ないです」

「……何だって?」

「おやっさんたちが予備のスーツでテストしているのを見ましたから。多分、適正云々ってのはないんじゃないでしょうか。予測ですけど、ほぼ確実だと思います」

 どういうことだ? 俺は始めてここにきた時、「君には適正がある」と言われたんだぞ? あれは才能とか素質とか、そういった類の意味じゃなかったはずだ。

「あと、これはコピーみたいなものらしいですよね。元となった石があるみたいです。聞けたのはこれくらいで、申し訳ないんですが」

「いや、十分だ。悪いな、忙しい時に」

「いえいえ。私も気になってたことですから。それに、愛しい早瀬君のためならこれくらいなんてことありません」

 桂木がわざとらしく身体をくねらせる。恥じているつもりなんだろうか。

「そういうジョーク、いらねーから」

「あれ、やっぱりバレました? 」

 ふふふ、と桂木が笑う。普通にしていればこいつだって可愛いのに。

 ちょっと喋ったことで気が楽になった。疲れは残っているが、それでも少し和らいだ気がした。

 このまま戦いが終わってくれればいいと思う。これ以上戦いたくはなかった。

 けど、そう簡単に物事が運ぶわけがない。そして、こういうときは最悪のパターンになるんだ。

《早瀬正輝! 聞こえるか!? 》

 突然、耳元ででかい音がした。福地さんだった。音の発信源はヘルメットだ。

「なんですか、いきなり」

 福地さんが通信をしてくるってのは珍しい。いつもは部下の科学者に適当にやらせている。

《今すぐポイントB-05に向かってくれ! 今すぐにだ! 》

 相当、切羽詰っているみたいだ。福地さんの声以外にも、罵声が飛びかっているのが聞こえた。でも、一体何が?

《二階堂源が危ない! このままだとオリジナルに殺される! 》

 一瞬、頭が真っ白になった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ