10 撃破後帰還、整備と通信。
これで、七体目のビーストを倒した。半魚人と猫のビーストを倒した後は、一体ずつ、離れた地点に現れるようになった。こちらの消耗を誘っているのだろう。実際、相当に疲れた。休む暇がないのだ。源さんはオリジナルとやらとの対決に備えてか、動かない。俺と乃木さんで出現するビーストの全てを相手にしなければならなかった。
今、複数体でこられたらやばいだろう。どうしてオリジナルってのがそうしないのかわからない。そこまで知能が回らないのだろうか。それとも、何か他の目的があるのか。
ともかく、一度本部に戻らなければならない。コアも新しいものを補給しなければ。
――コア、か。
エネルギー体。兵器。錬金術の賜物。そのどれもしっくりこない。
このスーツの動力源であり、つまるところの必殺技を繰出せるのはこいつのお陰だ。ただ、使い捨ての電池のようなものかと言われたらそうではない。一度に使えるエネルギーの総量はある程度決まっているみたいだが、何度も使いまわしているみたいだ。充電式なのか?
かれこれもう、四時間は闘っているだろう。疲労はピークに達していた。できる事なら、もうこのまま眠ってしまいたい。
ただ、下水のど真ん中で眠り込むと言うのは心情的に勘弁したい。せめて、控え室に戻ってからだ。
ブースターで加速し、惰性で身体を走らせる。
本部の真下へとたどり着く。壁に擬態してあるパネルを操作した。低い音を立てて天井が横にスライドする。五メートルくらいの高さを跳躍し、下水から通路へと移る。今度は通路の壁にあるパネルを操作して、下水に繋がるドアを閉めた。
ヘルメットを上げ、一息ついた。下水の匂いがしたが、気にしてられない。蒸れて暑かったんだ。インナーは汗まみれだ。
「……戻りました」
待機室の扉を開いた。
部屋には誰もいない。源さんが出撃している。
……オリジナルってのが現れたのか。
俺に与えられた命令は補給を済ませ、待機することだ。待機室を出て整備室に向かった。コアを取り替えてもらう為にだ。
源さんは俺に何かを隠している。多分、どんなに聞いても教えてもらえないだろう。
オリジナルのことだってコアの事ことだって、父さんのことすらも、俺の知らない所で物事が進んでいた。俺は生きていくので精一杯だ。金を稼いで家族に人並みの暮らしをさせるのが限界。俺は俺を殺して、目的と目標がごちゃごちゃになって生きている。
「ご苦労様です。どうぞ座っちゃってください」
廊下に桂木の顔が見えた。ひらひらと手招いている。桂木に言われるがまま、そちらへと向かい、整備室に入っていった。そして、自分のボックスの中に入り、座る。
「こんなに多く出撃したのは初めてですね。大丈夫ですか? あ、コアの前に右腕の修理やっちゃいますね」
俺が口にする前に、どうやらスーツの故障に気がついたらしい。相変わらずメカの事に関すると鋭い嗅覚をしている。
「微妙……いや、正直限界だわ」
弱音を吐いた。自分でもわかる。
「早瀬君がそんな事言うなんて珍しい。敵もそれだけ本腰入れてきているってことなんですかね」
桂木はスーツの内部に収納されているコアを取り出した。新しいコアがその手に握られている。
「ああ、そういえば二階堂さんが出撃したみたいですね。おやっさんが言ってました」
「そうみたいだな」
オリジナルってのはどんな奴なんだろうか。これだけの数のビーストを束ねることのできる敵。それくらいしかわからない。
「本当に疲れてますねぇ」
まあな、と返事を返すのすら億劫だった。
それにしても、源さんは大丈夫なんだろうか。俺や乃木さんより経験があるし強いことは間違いない。ベテランというやつだ。あの黒いスーツは秘密兵器かなにかなんだろうし、勝算があってのことなんだろう。
「終わりました。こっちのコアは回収しておきますね」
「サンキューな」
さっき、桂木は俺のことを疲れていると言っていたが、桂木の顔だって十分に疲れて見えた。それもそうだろう。俺と乃木さんがかわるがわるにやってくるんだ。今、整備を担当してるのは多分、桂木一人だけだ。井出さんを含んだベテランの人たちはコアの整備に追われている。
「ああ、そういえば。コアの事、ちょっと聞けましたよ」
「マジか?」
本当にちょっとだけですけど、と桂木は前置きしてから言った。
「やっぱりこれは、ただのエネルギー体みたいです。というか、これ自体には多分、適正なんて関係ないです」
「……何だって?」
「おやっさんたちが予備のスーツでテストしているのを見ましたから。多分、適正云々ってのはないんじゃないでしょうか。予測ですけど、ほぼ確実だと思います」
どういうことだ? 俺は始めてここにきた時、「君には適正がある」と言われたんだぞ? あれは才能とか素質とか、そういった類の意味じゃなかったはずだ。
「あと、これはコピーみたいなものらしいですよね。元となった石があるみたいです。聞けたのはこれくらいで、申し訳ないんですが」
「いや、十分だ。悪いな、忙しい時に」
「いえいえ。私も気になってたことですから。それに、愛しい早瀬君のためならこれくらいなんてことありません」
桂木がわざとらしく身体をくねらせる。恥じているつもりなんだろうか。
「そういうジョーク、いらねーから」
「あれ、やっぱりバレました? 」
ふふふ、と桂木が笑う。普通にしていればこいつだって可愛いのに。
ちょっと喋ったことで気が楽になった。疲れは残っているが、それでも少し和らいだ気がした。
このまま戦いが終わってくれればいいと思う。これ以上戦いたくはなかった。
けど、そう簡単に物事が運ぶわけがない。そして、こういうときは最悪のパターンになるんだ。
《早瀬正輝! 聞こえるか!? 》
突然、耳元ででかい音がした。福地さんだった。音の発信源はヘルメットだ。
「なんですか、いきなり」
福地さんが通信をしてくるってのは珍しい。いつもは部下の科学者に適当にやらせている。
《今すぐポイントB-05に向かってくれ! 今すぐにだ! 》
相当、切羽詰っているみたいだ。福地さんの声以外にも、罵声が飛びかっているのが聞こえた。でも、一体何が?
《二階堂源が危ない! このままだとオリジナルに殺される! 》
一瞬、頭が真っ白になった。