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1 業務内容、戦闘。




 俺は今、何のために、何をして生きているんだろう。

 今、何をしているのか。その答えは簡単に出てくる。

 それは手段だったはずだ。けれど、何時の間にかそれは手段から目的に摩り替わり、俺をがんじがらめにしている。

 そのためだけに、俺は今生きている。

 俺はそんな俺が嫌で嫌でたまらない。



 あたりは暗い。そして狭い。横幅五メートルくらいのそこに、俺はいた。

 俺の目の前には敵がいる。一言であらわすなら、化け物だ。

 成人男性と同じくらいの背丈をしているそいつは、蟷螂(カマキリ)のような外見をしていた。全身は黄緑色。頭部は蟷螂のそれで、両腕には巨大な鎌が一つずつ。そのまま蟷螂を巨大にして二足歩行させている感じだ。太股の太さは人間の倍以上。膝の関節は人間のとは違い、逆関節。よくもまあ、それでバランスをとっているよな、と感心する。

 そんな事を考えている俺だって、中々に奇妙な格好をしている。

 俺を一言で表すなら、変身ヒーロー。幼い頃によく見ていた、等身大の特撮ヒーローのようだ。

 俺はスーツを装着している。世間には公にされていない、出回れば世間の常識が覆るほどの、高度なテクノロジーの結晶だ。

 全身を覆うそれは赤をベースとしている。頭のヘルメットにはサーモグラフィーやら赤外線スコープの機能が取り付けられている。光の全くない場所でも戦えるように、だ。

 ここは、地下の下水道。地上から水が滴り落ちてくる。外は小雨なんだろうか。

 俺は膝の上まで汚染水にどっぷりつかっている。洗剤や雨水だけなんかじゃなくて、排泄物なんかも混じっている。一年前までは嫌で嫌で仕方がなかった。少しは慣れたが、まだ嫌悪感がある。

 蟷螂が跳躍すると同時に、汚水が飛び散る。俺のスーツに数滴降りかかった。

 天井スレスレを滑空する奴を追う。水の抵抗を無理矢理振り切る。地面を蹴り、蟷螂に飛びついた。

 黄緑の身体を掴む。重さに耐え切れず、蟷螂は落下していった。水飛沫を上げて、俺たちは汚水に突っ込む。

 水中で蟷螂が暴れ、二つの鎌がスーツを切り刻もうと襲い掛かってくる。俺は咄嗟に左右のそれを掴んだ。蟷螂は力ずくで押し切ろうと、全体重を乗せてきた。水中だから大した重さにはならない。

 蟷螂の腹を蹴り上げる。奇妙なうめき声が聞こえ、直後天井に蟷螂の身体が激突した。

 起き上がると同時、蟷螂が俺に向かって突進してくる。襲い掛かる鎌を回避し、バックステップ。鎌が下水に叩きつけられた。水飛沫で視界が遮られる。

 視界をサーモグラフィーに切り替える。水飛沫を跳ね除け、蟷螂が突進してくるのが見えた。上から振り下ろされる鎌を紙一重で回避する。

 大振りな動作には隙が伴う。鎌を振り下ろしたことによって、蟷螂は体勢を若干崩していた。

 間合いに力強く踏み込んだ。

 蟷螂の顔面に思いっきり右拳を叩き込む。拳を振り切り、吹っ飛ばす。蟷螂の身体は十五メートル吹っ飛んだ後、コンクリートの壁に激突し、めり込んだ。

 チャンスだ。

 足に意識を集中させた。頭部のヘルメットは俺の思考を的確に読み取り、スーツに指令を下す。右脚部にエネルギーがたまっていく。

 一気に十メートル以上を跳躍し、とび蹴りを蟷螂の腹に叩き込こんだ。やりすぎるほどに。

 渾身の蹴りは、蟷螂の腹部を貫通してコンクリートの壁にめり込んでいた。

 ――あ、やっべ……。

 ほんの一瞬、暗い下水が光に包まれる。

 足の裏に籠められた全てのエネルギーが、コンクリートの壁にぶちまけられてしまう。

 発光を伴った爆発がコンクリートを破壊した。まぶしい光が下水の中に差し込む。

 蟷螂の身体は四散し、あたりに散らばっている。敵は倒した。

 それはいい。いいんだけどよ。

 貫通した穴は川原にそのまま繋がっていた。下水の水が漏れ出していく。

 ――また、やっちまった。

 今月一回目のヘマだ。まだ今月は二十日間もあるのに。

「給料、減っちまうかもしれないなぁ……」

 俺は深くため息をついた。






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