第一幕 我孫子
そうだ、故郷に帰ろう。
そう思い立ったのはつい先日のことだった。今は仕事の関係で長野に住んでいるのだが、不意に両親が心配になった。そんなことで私は今電車に揺られている。私は我孫子と言う自然豊かで適度に発展していると言う好立地に育った。家庭は少し複雑であったが、すくすくと育ち、今はこうして芸術家としてある程度の名を残すまでになった。
地元に何か美味しい店でもないかと探していると、アナウンスが鳴く。
「まもなく終点我孫子。」
そう聞くと無駄にコンパクトにまとめた荷物を身に寄せ、降りる準備をしました。
降りてすぐにタクシーを捕まえ、家へ向かった。
何も変わらない実家、しかし周りは外人ばっかであり、我孫子もいつの間にかグローバルになったな、なんて変なことを思いつつ家のドアを開いた。
「ただいま。」
「俊人帰ってきたの。疲れたでしょ。」
「まあ、そこそこ疲れた。それより父さんにも帰ったって伝えたいんだけど。」
「父さんなら今は上でテレビ見てるでしょ。行ってきな。」
「そうじゃあ行ってくる。」
そう言うと荷物の大半であるおみやげを机に置いて2階に登った。父親の部屋は階段を上がってすぐのところにあり、心の準備もしないまま、ドアをノックした。
「どうした。まだご飯には早いんじゃないか。」
「俊人です。帰ってきました。」
「ああそうなのか。まあ入りなさい。」
そう言われて私は中に入って座布団に座った。そうすると父親も体を起こし、もう一つの方に座る。
「いつ帰ってきたんだ」
「さっき」
「いつ帰るんだ」
「分からん。当分いるかも。」
「もういい人は見つかったか」
「まだ影も形も」
そうそっけない質疑が繰り返される。父さんもう少しボケてるのか、そんな事を思っていると最後に一言こう言った。
「まあ自立して生活できててよかったよ。」
そんなことを言われてどの父親も言うような事を言われて小っ恥ずかしくなった。
降りてすぐに仕事のメールが来ており、それに目を通していたが、とにかく華美にあしらった備前の大皿と言われ、あまりやる気にはなれなかった。
夜になり飯を済ませ、少し休んでから靴を履いた。
「少し散歩してくる」
「今は治安も悪いから気をつけなさいね」
そう話して外へ出た。少し歩くとふるさと公園に着いた。行くまで街は馬鹿みたいにキラキラ光っていたがここはまだライトアップがされてなく、一面に染まった彼岸花も幻想的に見えた。少し奥に入り、ベンチに腰掛けた。
やはり我孫子は変わっている。俺の好きだったあの自然はもうないのだなと済ました事を思いカッコつけたのは良かったが結局恥ずかしくなった。そんな風にたそがれていると、急に後ろに気配を感じた。さっきまで足音すら聞こえなかったのに、そんな事で恐る恐る振り返ると、大和撫子とでも言わんばかりの女性が立っていた。
名前は叶恵と言うらしく、歳は同い年らしい。彼女は猿ヶ京の出身で旅館をしてるのだというが縁あって我孫子に旅行に来ているのだという。
「この辺なんてなんの面白みもないでしょう。」
「いえ、ここも素晴らしいところです。ご飯は美味しいですし、綺麗な沼もある。」
「でも猿ヶ京も素晴らしい湖がありますよね。僕も猿ヶ京によく行くのですが、あそこまで素晴らしいところは無いですよ。」
「故郷を褒められるととても嬉しいですね。」
そんな当たり障りのないような話に盛り上がり、30分近く話していた。
「そろそろ、ホテルに戻らなくてはいけないのでこの辺で。」
「引き止めて悪かったですね。楽しい話ができました。夜中は危ないので送っていきましょうか。」
「大丈夫です。良かったら私の宿にも泊まりに来てくださいね。それでは。」
その後すぐに家に帰り、次の日には仕事ができたから帰ると言い、すぐに家を出た。




