第八十四話:敬語
専務:
だからね、対外アピールが弱いんだよキミのチームは。
パンフも誤字がある有様だし、まったく…
私:
は、はい。誠に申し訳ありません……
専務:
いやいや "申し訳ありません" じゃないよ? 君は甘い。甘すぎる。もっとアグレッシブにチャレンジしなきゃダメだよ。で、さっきの話なんだけど─
男性社員:
(同じ話3回目だ…)
イタリア:
専務さん、お話がループしていますよ。少しお疲れでは?
よろしければ温かいお茶でも。
専務:
横から何だねキミは?わたしが同じ話を繰り返してるとでも?
年寄り扱いするんじゃない、失礼だな!
ムスリム:
(…コレは、アカン奴デス)
MtF:
イ、イタリア、下がって。すみません専務、うちの彼が余計な事を…
専務:
全くもう。部下の教育の方も頼むよ。それじゃ私は本社に戻るけど、車を用意しとくくらいの気遣いはあるんだろうね、この部署は?
男性社員:
す、すみません!すぐ準備します!
イタリア:
ああ、僕が行くよ。ご高齢の方を待たせるわけにはいかないからね。
ご安心ください── "専務さんにはすぐ、お迎えが来ますので"
女性社員:ちょ
ムスリム:
ゴフッ(盛大にむせる)
専務:
き、貴様!それはどういう意味だ!!
イタリア:
ああ、いけないいけない。日本語は難しいね。
正しくは── "すぐにお迎えに参ります" でしたね
敬語はまだ完璧ではなくて、申し訳ありません。
韓国さん:
……(確実にわざとですね)
私:
ああもう、どうしろと(´・ω・)
・敬語
日本の職場では、目上の立場の人間と円滑に関係を保つために、敬語を使いこなすことが半ば必須とされている。敬語は単なる丁寧表現ではなく、上下関係・距離感・責任の所在を曖昧にしつつ調整するための、社会的な安全装置だ。
しかし日本語学習者にとって、この敬語体系は極めて高難易度である。
すでにひらがな・カタカナ・漢字という複雑な文字体系を越え、文脈依存の多い会話表現を身につけた上で、さらに尊敬語・謙譲語・丁寧語を使い分け「誰を上げ、誰を下げ、誰の立場から話しているのか」を瞬時に判断しなければならない。
しかも敬語は、文法的に正しくても「空気」を外すと致命傷になる。
敬意を払ったつもりの表現が、相手の年齢・立場・自尊心に触れれば、それは配慮ではなく侮辱として受け取られることすらある。敬語とは相手を敬うための言葉であると同時に、使い手の社会的感覚(しかも日本の空気を読む文化というものに対して)を試される装置でもある。
一歩間違えれば礼儀は地雷に変わる。だからこそ日本語話者であっても敬語を恐れ、日本語学習者にとっては最後まで攻略が困難な難関として立ちはだかり続けるのだろう。敬語は難しい。




