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異文化理解したいのに、なぜか全員が多様性の地雷を踏み抜き、私の胃だけが死んでいく件  作者: めるのすけ
第十五章:ルールという多様性

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第八十三話:残業

第八十三話:残業

~~ 夜のオフィス、蛍光灯の下 ~~


男性社員:

ポテチとコーラは正義っすよ。脳が回らなくなったら終わりですし。


女性社員:

ちょっと待って。ポテチは終わってからにして下さい。

顧客の手に渡るパンフレットに油汚れが付いたら大惨事ですよ?


男性社員:

えー、箸使って直接触らなければ…良くない?


女性社員:

油の匂いが移るだけでもダメでしょ。


イタリア:

まあまあ。こういう作業は、気を張りすぎると逆に効率が落ちるよ。

ビールでも飲みながら、まったりやろうじゃないか。


(全員の視線が集まる)


ムスリム:

……仕事中に酒、デスか?


イタリア:

一本くらいなら集中力も上がるさ。イタリアじゃ普通だよ?


韓国さん:

普通ではありません。喋っている時間が無駄です。

作業を分担し、手早く片付けるべきです。


男性社員:

うわ、修羅場の空気になってきた気がする……


ムスリム:

仕事には誠意をもって取り組むべきデス。

酒も、油汚れも、どちらも不適切デハ。


イタリア:

誠意って、苦行のことじゃないだろう?

終わり良ければ総て良しって、日本でも言うじゃないか。


韓国さん:

集中力を削ぐ行為を許容する気にはなれませんね。


MtF:

はいストップー。今ここにいる全員、自分が正しいと思ってる。


(沈黙)


MtF:

食べるなら汚さない、酒はNG、でも多少の雑談は許容って

折衷案になるんでしょうけど……上司さん、どうかしら。


ムスリム:

妥協の文化、デスネ。


イタリア:

中途半端とも言うな。


韓国さん:

効率は落ちますね。


男性社員:

でも、一番揉めないレベルじゃないっすか?


私:

うっ、決めるのは私か。じゃあこうしよう。

飲み物はお酒以外で、食べ物は手を拭いてから。

作業しながらの雑談くらいは可としようよ。


(全員、微妙な顔)


私:

誰も満足してない顔だね!?


女性社員:

まあ、納得はできます。


ムスリム:

完全ではありませんが、受け入れ可能デス。


イタリア:

仕方ない。今はオレンジジュースで我慢しよう。


韓国さん:

……では始めましょうか。


私:

残業一つでこの有様か。

ほんと多様性って奴は、どうしろと(´・ω・`)




・「合意」というもの

複数の人間が寄り集まれば、全員が100%満足する「正解」を見つけることは、ほぼ不可能である。

そしてそのような、価値観が異なる者同士をまとめる際に提示される折衷案 ―― いわゆる落としどころとは、誰にとっても最善ではないが、辛うじて全員が受け入れ可能な地点であったりする。政治学や経営学ではこれをコンセンサス(合意形成)と呼ぶが、その実態は「全員の不満を均等に分配する作業」に近い。


誰も満足していない状態こそが、物事が中道で進んでいる証拠とも言える。

もし誰か一人が心から満足しているのなら、その裏では別の誰かの価値観が完全に切り捨てられている可能性が高いからだ。


「誰もが少しずつ我慢し、顔をしかめながらも共に在る」。

そんな不格好な調和こそが、多様な正義が衝突する社会における現実的で誠実な到達点なのだろう。ままならないものである。

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