第七十七話:血統
男性社員:
まあ、うちはそこまで大きな会社じゃないですし。
国際問題になりかねないエグゼクティブとか、
王侯貴族と関わることもないですよね。
MtF:
それはそうね。
だからといって、雑に扱っていい話でもないのが歴史だけど。
イタリア:
あれ、言ってなかったっけ。
僕の家系、一応爵位持ちだよ?
私:
ふぁっ!?
男性社員:
えっ。
女性社員:
えっ。
ムスリム:
まさかのブルーブラッド!?
イタリア:
まあ「肩書きとして存在する」だけだけどね。
イタリアでは法律上、爵位は廃止されてるから。
男性社員:
じゃ、じゃあ……ギリ平民?
イタリア:
一応ね。
ただ母方はスペイン人でさ。あっちは今でも普通に継承されてるよ。
叔父は今も "ドン" が付く肩書きだ。
韓国さん:
幼少期から、国際的な教育環境で育ったタイプですか。
イタリア:
そうなるのかな。
だからこそ、差別や格差の歴史は身近だったりする。
女性社員:
…なんだか、急に遠い存在になった気が。
イタリア:
やめてくれよ。
僕は君たちの同僚で、友人でいたいんだ。
爵位なんて、僕自身の価値を保証するものじゃない。
私:
で、でも……礼儀とか、敬称とか。サー、だっけ?
イタリア:
サーは英国の制度だよ、上司さん(笑)。
それに、肩書きに気を遣う関係なんて息苦しいだろ?
今まで通り "イタリア" として接してくれたら嬉しい。
男性社員:
じゃあ、今後も普通にツッコんでいいってこと?
イタリア:
もちろん!むしろ頼む!
ムスリム:
では要望を一つ。
繰り返される、生ハムとワインの布教を止めてくだサーイ。
イタリア:
それは僕のアイデンティティなんだが!?
私:
ご、ごめんよイタリアくん。庶民には刺激が強くて……
イタリア:
だから普通に接してくれって言ってるじゃないか!
何が変わるってわけでもないのに。どうしろと(´・ω・`)
・欧州における貴族の「現在地」
現代ヨーロッパにおいて、貴族制度の扱いは国ごとに大きく異なる。
英国やスペインのように現在も王制を採る国では、爵位は国家によって承認された公的な身分として存続している。一方、イタリアやフランスのように革命や政体の転換を経て共和制となった国では、爵位は法的にはすでに廃止されている。
ただし、法的な特権が消滅したからといって、貴族という存在そのものが完全に消えたわけではない。
数百年続く家名、それに紐づく人脈、教育環境、立ち居振る舞い、価値観といったものは、今なお「文化資本」として受け継がれている。
現代の欧州における貴族とは、特権階級というよりも、歴史と文化を背負った家系的アイデンティティに近い存在だと言えるだろう。それは誇りにもなり得るが、同時に重荷にもなり得る。
肩書きが消えた後も残り続けるものがある ―― それが、貴族の「現在地」なのかもしれない。




