第七十五話:三英傑
男性社員:
ちなみに三英傑でいうと、織田信長と森蘭丸の関係は「衆道」の完成形なんて言われてますね。単なる愛欲じゃなく、命を預け合う究極の信頼関係というか。
女性社員:
森蘭丸……本能寺の変で一緒に亡くなった、美少年でしたっけ。
男性社員:
そうです。対して徳川家康は、若い頃は井伊直政(後の徳川四天王)を寵愛してましたが、後半生は「子孫繁栄」という超現実的な目的のために、側室に「出産経験のある年上の未亡人」ばかりを選んだりしてます。
イタリア:
フム、美学の信長、リアリズムの家康というわけだね。
男性社員:
ただ豊臣秀吉は例外枠ですね。彼は三英傑の中で唯一、100%の異性愛者……つまり女好きだったと言われてます。親友の前田利家に「儂、男に全然興味ないんだけど、おかしいのか?」って真面目に相談する書状を送ったとかなんとか。
私:
そ、そんな話が残っちゃってるのか。
なんかプライバシー皆無で可哀想に思えてきた。
男性社員:
歴史上の偉人は、日記から恋文まで読み漁られるのが宿命なんで…
MtF:
アナタやけに詳しいわね?
男性社員:
ゲーマー舐めないでください。
歴史シミュレーションだって網羅してますよ。
韓国さん:
……
男性社員:
あっ(察し)。
なお、豊臣秀吉は朝鮮出兵を手がけた関係もあり、国際社会においては評価が著しく異なる側面もあります。だから、うちみたいな多様性を持つ部署では…その、取り扱い注意な話題ですね!
私:
朝鮮出兵か…あっ(察し)
韓国さん:
…別に、私は歴史の話で腹を立てたりはしませんよ。
それを茶化したり、ネタにして笑ったりしなければ
私:
国内では三英傑なんて呼ばれる偉人であっても、海を渡れば「侵略者」になるのか。
憧れの英雄たちのプライベートが分かって面白いとか思ってたら、 逆に底知れない歴史の闇が見えてきちゃったよ。どうしよう(´・ω・`)
・英雄の二面性
歴史上の英雄は、しばしば「一つの顔」だけで語られる。
だがその評価は、立つ場所が変われば容易に反転する。
ある文化圏では国家を救った英雄であり、別の文化圏では侵略者、あるいは殺戮者として記憶される。これは例外的な現象ではなく、歴史においてはむしろ常態である。
最も極端に評価が分かれる偉人の一人が、チンギス・ハンである。
モンゴルでは、散り散りだった部族をまとめ上げ、国家の礎を築いた国父であり、法を整備し、東西の文化交流(シルクロードの活性化)を促した偉大な指導者として、現代でも強く敬愛されている。
しかし一方で、抵抗する都市をことごとく灰にし、人口を激減させ、図書館や灌漑施設を破壊した文明の破壊者としての側面も持つ。
あるいはナポレオン・ボナパルト。
フランスでは革命の混乱を鎮め、ナポレオン法典によって近代社会の基礎を築いた国民的英雄である。
しかしスペインやロシアなどの周辺諸国では、戦争を拡大させた征服者として語られることが多い。ゴヤの絵画『五月三日の処刑』は、その視点を象徴する作品として知られている。
他にも、ローマの英雄、ユリウス・カエサル、
新大陸発見者として語られる、クリストファー・コロンブス、
若き天才戦略家として名高い、アレクサンドロス大王など、
その行動が他国に及んだ瞬間、評価は一面だけでは語れなくなる。
一つの歴史を語ることは、同時に別の歴史を沈黙させることでもある。
英雄の二面性とは、個人の善悪ではなく、歴史が持つ相対性の表れなのだろう。




