第七十三話:含意
イタリア:
さて、僕とムスリム氏の体験談が語られたわけだけど… この流れだと、韓国さんにも何かしら話があるんじゃないか、と考えてしてしまうね。
韓国さん:
勝手に役割を期待するの、やめて頂けますか?
ムスリム:
勉強熱心で隙の無い韓国さんデス、我々のような失敗があるとは限らないでショウ。
韓国さん:
(溜息)
…失敗と言えるかは分かりませんが、私も日本語で非常に苦労した体験はありますよ。
女性社員:
えっ、完璧超人の韓国さんですら。
韓国さん:
私を何だと思っているんですか。
…あれは先のお二人と同じく、語学留学に来ていた時でした。
事前に読み書きと日常会話はみっちり叩き込んできたので、あとは実際にネイティブとの意思疎通で経験を積むだけだと考えていた矢先、一つの大きな難関にぶつかったんです。それは日常でも頻出する「うん」という相槌でした。
私:
うん、相槌?
なんでそこが難しい話になるんだい。
韓国さん:
まさに "それ" ですよ。
「うん」と普通に発声すれば肯定、あるいは相槌。
「うん?」と語尾を上げれば疑問形、あるいは聞き返し。
「うーん」と伸ばせば、即答を避ける迷いの意思表示。
「ううん」と音を重ねれば、否定。
完全に聞き分けられるようになるまで、何度間違えたことか。
男性社員:
…考えたことも無かった。
でも言われてみると、メチャクチャややこしいな。
MtF:
そうねぇ、発音や語尾だけじゃなく前後の文脈でも意味が変わるし。
非ネイティブにとっては、確かにハードモードかも。
私:
日本語って、面倒な言語だったんだね…
イタリア:
その通り。非ネイティブにとって、学習難易度が極めて高い言語なんだ。
だから英語程度の難易度で泣き言を言うんじゃないよ?
女性社員:
そう言われても…日本人にとっては難しいんですよね
どうしろと(´・ω・)
・日本語
ネイティブが意識することはほとんど無いが、
日本語は世界的に見ても超高難易度の言語である。
アメリカ国務省の外交官養成機関であるFSI(Foreign Service Institute:外交事務局)が公開しているランキングが有名で、この中では英語を母国語とする人が、特定の言語で「一般的な業務をこなせるレベル」に達するまでに必要な学習時間を基準にランク付けされている。
その中で日本語は堂々たるカテゴリーV(最難関)なのだ。
習得目安の学習時間は2200時間~。これは根本的な言語構造が違うことだけではなく文字の多さ、省略される文脈を類推する能力、そして立場や場面によって使い分けるべきとされる敬語の存在が大きい。
とはいえ、これはあくまで英語母語話者にとっての難易度。
同じくカテゴリーVとされている韓国語や中国語は、むしろ日本人にとっては組みし易い相手であったりするので、完全に普遍的なものというわけではない。
文化の多様性 ―― すなわち母語の性質は、
他言語を学ぶ上でも無視できない重要な要素の一つなのだ。




