第六十二話:フグ料理
~~ 和食店・個室 ~~
イタリア:
なるほど。
徹底的に管理して、毒のある部位を取り除いているという理屈は理解したよ。
しかし、なぜそこまでして食べるんだい?
女性社員:
うーん。シンプルに美味しいから……ですかね?
男性社員:
まあ、そうなりますかね。
とはいえ危険視した人が居なかったわけじゃなくて、人が死にすぎるからと
時の権力者によってフグ食が禁止されてた時代もあるんすよ。
イタリア:
……禁止されていた?
それなら普通、そこで終わりじゃないのか?
MtF:
ところがどっこい。
細々と裏で、でも確実に提供され続けたのよねぇ。
そして調理法も、知識も、技術も継承されていったの。
イタリア:
……やはりクレイジーすぎるのでは。
韓国さん:
禁止されたから諦める、ではなく。
それでも「どうすれば安全に食べられるか」を突き詰めた、と。
男性社員:
そして結果、免許制が生まれて。
今では「安全に食べられる危険な魚」になったわけで。
イタリア:
理屈は分かる。分かるが……どうしてそこまで?
韓国さん:
日本人は食べ物のことになると、
ただならぬ熱意を発揮する民族のようですね。
女性社員:
否定できないかも。
ムスリム:
危険が残るものを、わざわざ口に入れる……
我々の感覚では、まず避ける行為デス。
イタリア:
だよね?
ムスリム:
しかシ免許で管理され、毒が確実に取り除かれているのなら。
それは「無謀」ではなく「危険を管理した食文化」
とも言えるのでショウ。
MtF:
宗教的にはグレーゾーンなのかしら?
ムスリム:
グレー…というか。アッラーは命を守れと仰いマス。
私の中でも「疑いが残るなら避けたい心」と
「危険が消えているなら問題ない理屈」が、
ぶつかってしまうのデス。
私:
なんか、悩ませちゃってごめんね!
イタリア:
しかし歴史の話も聞いて、おぼろげながら分かってきたな。
日本人は障害にぶつかった時「どうすれば解決するか」を
探求し続ける民族のようだ。凝り性なんだろうな。
韓国さん:
技術が確立されるまでに何人命を落としたかを考えると、
いささか常軌を逸している気はしますが。
イタリア:
デザインや工業製品なら分かるが、まさか食べ物にまで
『カイゼン』の精神を持ち込むとはね。
日本人のクラフトマンシップには脱帽するよ。
私:
まあ……食べることは、生きることだからねぇ。
そこに本気になるのは、日本人の悪い癖かもしれない。
ムスリム:
アッラーは人間に知恵を授けましたが、その知恵をフグの解毒に
全振りする日本人は、やはりユニークすぎマス
宗教的にも答えが出ない気がしますし、どうシロと(´・ω・`)
・フグ料理と禁止令の歴史
フグは古くから日本で食べられていたが、その危険性ゆえに何度も問題視されてきた食材でもある。
特に有名なのが、安土桃山時代に豊臣秀吉が出した「フグ食禁止令」だ。家臣がフグ中毒で命を落とす事件が相次いだことから、「武将が死ぬのは国家の損失」として厳しく禁じられたとされている。
この禁止は江戸時代を通じて基本的に維持され、フグは「食べてはいけないが、裏では食べられ続ける魚」として扱われた。しかし各地で密かに調理技術や知識が蓄積されていき、完全に文化が断絶することもなかったという。
転機が訪れたのは明治時代。
初代内閣総理大臣である伊藤博文が下関でフグ料理を口にし、その美味に感銘を受けたことがきっかけとされている。これを契機に、フグ食は全面解禁ではなく「免許制」という形で公的に認められるようになった。
禁止されてなお終わることなく、「どうすれば安全に扱えるか」を制度と技術で突き詰める。そんなフグ料理の歴史は、日本の食文化が持つこだわりの姿勢を象徴しているのかもしれない。




