第四十九話:義理と人情
男性社員:
あれ、今日は上司さん休み?
女性社員:
遠方の親族の方に不幸があって、急遽お休みだそうですよ。
男性社員:
ほーん。んじゃ今日はちょこっと手を抜いてもいいか。
MtF:
こら、そういうことは思っても言わないの。
聞いた以上は、注意しないといけないじゃない。
男性社員:
おっと藪蛇でした。
…スマホも使えないし、タイピングも遅いし、決断も早くない。
でも、やっぱ上司さんがこの部署の "核" なんだよなぁ。
あの人がいるなら「仕事はダルいけど、まあ少しは頑張るか」って気になる。
イタリア:
……理解に苦しむな。
上司さんの人柄を評価している点については、私も同意する。
だが、仕事は契約に基づいて行うべきであって、
そこに感情を混ぜるのは……違うだろう。
韓国さん:
その理屈で言うなら、
仕事の延長で酒席に誘うのも控えるべきですね。
イタリア:
いや、それは同僚同士の親睦を深めるためであって――
ああ、いや。今はその話は置いておこう。
ムスリム:
職場の人間関係を円滑にするタメに、
上司サンを含めた人々の人格が重要なのは理解できマス。
ですが、仕事とソレは、確かに別問題デスネ。
MtF:
海外勢の言ってることは、全部合理的よ。
でも日本は中途半端に「義理人情」の概念が残ってるの。
男性社員ちゃんの「あの人なら、まあ……」って感覚、まさに典型例ね。
イタリア:
それはカリスマ、のようなものかい?
MtF:
うーん、少し違うかな。
カリスマへの忠誠というよりは――御恩と奉公。
封建制度の感覚のほうが近いかも。
韓国さん:
前時代的ですね。
とはいえ……儒教的な上下関係が根深い私たちも、
完全に否定しきれないのが悔しいところですが。
イタリア:
なるほど。
つまり合理でも契約でもなく、「人だから動く」という理屈か。
……ますます分からん。どうしろと(´・ω・)
・義理と人情(日本的な仕事観)
日本の職場では、契約や職務範囲とは別に
「この人のためなら少し頑張ろう」
という感情が、行動の動機になることが少なくない。
これは単なる情緒論ではなく、
・上司や先輩から受けた配慮(御恩)
・それに報いようとする意識(奉公)
・組織よりも「人」に紐づく忠誠心
といった、封建社会や村社会の名残が、
形を変えて現代の職場に残っているものと考えられる。
合理性や契約を重視する文化圏から見ると非効率で不透明だが、
一方で日本では「人間関係の潤滑油」として機能してきた側面も否定できない。
もっともこの仕組みは善意と搾取の境界が曖昧になりやすく、
現代の労働観とはしばしば衝突する。
「義理人情」は美徳でもあり、同時に問題点も抱えた、
日本社会に根付いた "仕事の作法" の一つなのかもしれない。




