第四十七話:桜肉
男性社員:
気づかなかったとはいえ、ポークエキスはすみませんでした。
仕方ねぇ。名誉挽回のために、秘蔵の品を出します。
女性社員:
秘蔵?なんか隠し玉でもあるんですか。
男性社員:
おう。これも実家から送られてきたやつでな。
正直、俺にとってもそこそこ貴重品だから、
最後まで隠匿物資にしておくつもりだったんだ。
MtF:
なんか大げさねぇ。
男性社員:
というわけで。桜肉の刺身、です。
私:
こ、これは!
僕、これ大好物なんだよ!生姜醤油で頂くともう、最高で!
韓国さん:
肉の刺身ですか。ユッケを思い出しますね。
(※わりと平気な顔)
ムスリム:
ナマ……ニク……?
(※明らかに一歩引く)
女性社員:
う、うーん、ちょっと抵抗あるかも……。
イタリア:
カルパッチョのような色合いだね。牛肉かい?
(※興味半分)
私:
いやいや、桜肉はね。馬だよ。
牛よりもさっぱりしてて、甘みがあって──
イタリア:
……う、馬?
(数秒の沈黙)
イタリア:
馬は……我々にとって、高貴な友であり……
労働を共にする家族であり……
(顔色がみるみる悪くなる)
ムスリム:
馬を食べる、という選択は…宗教的に禁止ではありまセン。
しかし心が、強く拒否していマース……。
女性社員:
私も、生肉はちょっと無理かな…
韓国さん:
……文化によって、"食べられる肉" の線引きは、本当に違うんですね。
あ、もしあればニンニクも頂けますか。
男性社員:
えっ、いやおろしニンニクのチューブならあるけど。
あれ、これも文化的地雷だった感じ?
私:
名誉挽回どころか被害拡大してる気はするね…
どうしろと(´・ω・`)
・桜肉(馬肉)
日本では熊本が一大産地として知られているが、長野や福島などにも根強い食文化が存在する。低カロリー・低脂肪・低コレステロール・低飽和脂肪酸である一方、高タンパク・高ミネラルと栄養価は非常に高く、健康面では優れた食材とされている。
しかし、その評価は文化圏によって大きく分かれる。
ヨーロッパでは一般に「馬は人類の友」という意識が強い。馬を食べると聞けば、犬や猫を食べると言われるのとほぼ同等の拒否反応を示す人も多い。
労働・移動・戦争を共にしてきた歴史的背景から、感情的な忌避が根強いようだ。
またイスラム圏においては、馬肉は宗教的に禁じられた食材ではない。
しかし馬は長く生活や財産と深く結びついた動物であり、食べ物として提供されることに対する心理的な抵抗は、やはり小さくない。
また、生肉そのものを忌避する文化圏が多い点も影響している。
なお「桜肉」という呼称は、仏教の影響が強かった日本において
「獣肉は本来食すべきではないもの」とされていた時代の名残である。
直接的な表現を避け、植物の名前を用いることで隠語的に流通させていた。
同様の例として、鹿肉を紅葉肉、猪肉を牡丹肉と呼ぶ文化が存在する。




