第四十四話:ヴィーガン2
女性社員:
大豆ミートといっても、見た目は完全にハンバーグですね。
韓国さん:
ええ。言われなければ気が付かないかもしれません。
ヘルシーで、健康にも良さそうです。
ムスリム:
ありがたいデス。今日は安心して食べられマス。
MtF:
ふふ、腕によりをかけたからね。さあ、召し上がれ♡
~~ 実食開始 ~~
全員:
(もぐもぐ……)
男性社員:
普通にアリっすねコレ。微妙に風味は違うけど、これはこれで美味い。
ムスリム:
味付けも優しいでスネ。
この添えられているソースとチーズも、ヴィーガン仕様なんでスカ?
MtF:
もちろんよ。ソースはお野菜だけで作られてるし、チーズに見えるそれも乳製品じゃなくて、大豆やカシューナッツが原材料なの。
イタリア:
…………うん。悪くない。悪くないんだが。
MtF:
あら、イタリアさん。お口に合わなかった?
イタリア:
い、いや。料理としては問題ない。とても丁寧だし、旨味もある。
だが…何かが足りない。足りないんだ!
私:
た、足りない?
イタリア:
このしっとり感、香り。とても完成度は高い。
だがしかしーー
MtF:
(ちょっと期待している目)
イタリア:
――どうしても "本物ではない" という意識が拭えないッ!
女性社員:
あ、そういう拘りなんだ…
イタリア:
チーズと言いながら、チーズじゃない。
ミートと言いながら肉じゃない!
料理は成立しているのに……私の心が、心がざわつくんだ!!
男性社員:
なんだろう。言ってる言葉は理解できるけど、意味が分からん。
韓国さん:
イタリアは食文化の矜持が強い地域ですからね。
ムスリム:
言うなれば、"宗教" ではなく "文化" の禁忌デスネ。
イタリア:
そうなんだ!そうなんだよ!!
まるで……まるでアイデンティティの一部が削られたような。
MtF:
あら、でも食べらるんでしょ?
イタリア:
美味しいは美味しいんだ!
ありがとう!
MtF:
うふふ、でもねイタリアさん。
こういう "価値観の揺らぐ瞬間" こそが多様性の醍醐味なのよ。
イタリア:
うぅ、理解はしているんだ。このホームパーティの主旨に合致していることも。
だが、私の中の何かが、追いつかない……!
女性社員:
なんか、深刻そうですね。
私:
理解が及ばない、どうしろと(´・ω・`)
・イタリアと "まがい物"
――紛い物は文化への侵害。これはイタリアに強く根付いている意識である。
イタリアでは、特にチーズ・ハム・ワインなどの伝統食品に対して
「名前の偽装は文化そのものへの攻撃だ」という強烈な価値観がある。
パルメザンチーズ、パルマハムなど…身近に流通しているモノは、実はDOP(原産地名称保護)という制度基準を満たしていなかったりするのだ。
EUでは本物のパルミジャーノには "どの牧草地で育った牛の乳か" 、"どの地区で熟成したか" といった厳しい規定を満たさないと名乗れない。パルマハムにも厳しい規定があり、世界中で "なんちゃってパルマハム" が出回った時期に、イタリアの生産者はEU議会に何度も異議を申し立てている。
要点はただ一つ。
「食は文化であり、地名や伝統は財産。ゆえに紛い物に名乗られては "文化そのものの価値" が侵害される」これがイタリアの価値観なのだ。




