第二十話:産休2
男性社員:
しかしさ。入社とほぼ同時に妊娠って、それ分かってたんじゃないのか?
女性社員:
ちょっと。それ以上は完全にセクハラだから、私に振らないで。
男性社員:
あ、悪い。いや、別に責めたいわけじゃないんだけどさ。
MtF:
私も女としては祝福してあげたいのよ。
でも、事情がまったく見えないから、なんとも言えないわねぇ。
ムスリム:
アナタの祝福したい“気持ち”はわかりますが……女として、トハ。
いえ、今性別の話に踏み込むのは……やぶへびデス。
イタリア:
しかし新卒で、もう家庭を持っているということなのかな。いや、今どき珍しいね。
男性社員:
そういや、履歴書って家族欄あるよな?上司さん、どんな家族構成か…ってこれ聞いちゃダメな奴か。
私:
(新入社員の家族欄に書いてあったのは"両親"のみ。つまり…未婚の母、ということになる。
でもこれは、安易に私が口に出していい種類の情報じゃないなぁ)
女性社員:
上司さん? なんか……知ってる感じの顔してません?
私:
い、いや。個人情報なので、なんとも……
イタリア:
もしかして、結婚していないのか?
だとしたら、これはどう理解したらいいんだ……?
男性社員:
いや、でもそれ本人の事情だし。俺らが憶測でアレコレ話すのは違うよな。
ムスリム:
そもそも、家族構成や身元の事情は、職場で話題にすべきことではアリマセン。
本人が語らない限り、詮索は良くないデス。
女性社員:
……だけど、フォロー体制どうするかは考えないといけませんよね。
産休・育休って、部署の負担もあるし。
私:
(祝福すべきことなのに、制度としては正しいのに。
"情報を共有して話し合えない"だけで、こんなに空気が重くなるなんて……)
ど、どうすれば……(´・ω・`)
・イスラームと性別認識(MtF)
イスラーム圏において、トランスジェンダー(MtF・FtM)への見解は地域ごとに幅があるが、
共通しているのは、“生まれた時点の肉体的性別が、社会的性別の基準になる”という点。
これは良し悪しの話ではなく、あくまで宗教上の基準がそうなっている、というだけである。
そのため信仰者の間ではMtF当人を女性として扱うかどうか、は宗教的・文化的に難しい場面がある。
ただし個々人の優しさや配慮とは別問題であり、ムスリム本人が「場を乱さない」ために言葉を選ぶことも多い。
※作中のムスリム氏の落ち着いた対応は、現実にもよく見られる“信仰と共生のバランス”の取り方。




