第十六話:みりん
女性社員:
この前の羊の脳みそ事件で、私も気づいたんです。
“自分の中にも、偏見ってたくさんあるんだな”って。日本の料理の中でさえ、苦手な物があるんですから。
だから今回のホームパーティーは、見た目も材料も徹底的に無難な物にしました!
私:
お邪魔するよ。女性の家に大挙して押し寄せるってのは、なんか落ち着かないねぇ。
MtF:
綺麗に片付いてるわねぇ。さすがだわ。
男性社員:
……俺もホストの番になったら、ちゃんと掃除しよ。
女性社員:
本日のメニューは、
・五穀米の炊き込みご飯
・ハマグリの澄まし汁
・肉じゃが
・ほうれん草のお浸し
です!
男性社員:
す、すげぇ。普通の日本の家庭料理が、こんなに神々しく見えるとは……!
イタリア:
なんか、とても上品だね。癒やしの一皿って感じだ。
女性社員:
そして今回、ハラール対応も完璧なはずです!
ムスリム:
ありがとうございマース。いただきマス。
~~ 実食開始 ~~
MtF:
うん、美味しいわね肉じゃが。優しい味で。…あれ? ちょっと待って。これ、みりん使ってない?
女性社員:
えっ、あ、はい。調理の最初に少しだけ。でも煮込んでるからアルコールは飛んでるはずですよ?
(急に沈黙が落ちる)
ムスリム:
………………
イタリア:
あ、ムスリム氏。もしかして、やばい奴だったりするのかい?。
男性社員:
(小声)みりんはアルコール扱いだっけ?
ムスリム:
そ、そうデスネ。“アルコール成分としての働きが残っていないか”が重要デス。……煮切り方によっては、微妙に……
女性社員:
えっ、え、そんな。私、ちゃんと煮込んだはずで……!
MtF:
ちょっと待って、責めるんじゃなくて確認よ!みりんは宗派で解釈が分かれる事もあるから……
男性社員:
ググるか?
ムスリム:
イ、イエ!宗教問題をGoogleで判断するのはやめてくだサイ!?
私:
あああ……どうしろと(´・ω・`)
・みりん
日本ではごく一般的な調味料だが、実はがっつりアルコールを含んでいる(12~14%程度、これはワインとほぼ同レベル)。なので国内においても酒税の対象であったり、未成年は購入できなかったりと「酒」として扱われているのが実情だ。
作中では解釈が分かれるとしているが、原則としてはムスリムにとって「99%アウト」な調味料である。煮切りを行えばアルコールが揮発、ほとんんど料理中に残らないというのはその通りなのだが、調理段階で食材とアルコールが触れること自体が忌避される、という考え方が一般的。




