第十二話:投資回収率2
私:
え、えーっとですね。今回の投資によって、より多様な人材が当社で働けるようになりました。様々な考えを持つ人たちが、その、活躍できるようになることで、新しいアイデアの創出が必ず……!
株主:
……で?ごく少数のLGBTQ社員のために、なぜそこまで投資する必要があるのかね。費用対効果、極めて疑わしいのでは?
私:
いや、入社後に判明したことなので、効率というよりは"対応の必要性"といいますか。その、面接で性自認を根掘り葉掘り聞くわけにもいかず。
株主:
しかし結果として、ほとんど使われない設備にコストが掛かったわけだ。やはり無駄では?
私:
えっと……
株主:
無駄だよね?
私:
……どうしろと(´・ω・)
・性自認と採用面接のジレンマ
採用面接では応募者の性自認(心の性)について企業側が質問することは基本的に禁止、これは人権保護の観点から、国のガイドラインでも明示されています。つまり企業は性別や性的指向ではなく、能力・適性で採用することが大前提なんですね。
しかしここでジレンマが発生します。性自認を把握しないまま採用すると、入社後の更衣室などの環境調整が必要になる。他の社員の安全・公平性への配慮と衝突することがある。そして設備投資が必要になる場合がある。
「最初から聞いておきたい」けど「法的に聞いてはいけない」という矛盾が企業側に発生するのです。
そのため多くの企業は、"必要な配慮がある場合は自己申告して下さい"という制度でリスクを減らしていますが、完全な解決にはなりません。制度と現実の隙間に生まれてしまう摩擦をどうするか、は今でも問われ続けています。




