7 昔のクセ
「ん、んん……っ」
目を開けると、ベッドの天蓋が飛び込んできた。
(あれ、僕は森にいたんじゃ……?)
「目が覚めたか」
レオニスがベッドのそばに置かれた椅子に腰かけていた。
「レオニス、僕は……」
「どこまで覚えてる?」
「ゴブリンに襲われた馬が暴れて、振り落とされて……まで、かな」
「地面に倒れて意識を失ったお前を運び込んできたんだ」
「ごめん。迷惑かけちゃって」
「迷惑なんてかけてないだろう。お前は仕事を果たした。お前がいなかったら、瘴気は浄化できなかったし、魔法を反射する魔物に襲われて被害は大きくなっていただろう。だが、どうしてあの新種の魔物の特性に気づけた?」
「それは……そういう話を別の地域で聞いたんだ。その特徴に一致してたから、もしかしたらって」
「そうか」
レオニスは特別、疑わなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
「騎士の人は平気?」
「こんな時に他人の心配か? 問題ない。騎士は頑丈だ。お前なんかよりよっぽどな。それよりお前自身はどうなんだ? 回復魔法はかかっているが、王太子に報告する必要がある」
「大丈夫……だと思う」
体を起こしたリィドはサイドテーブルにあった水差しに手を伸ばそうとするが、レオニスが一足先に水差しを取り、コップに水を注ぐ。
「ほら」
「あ、ありがとう」
「とろいお前のことだから、水をひっくり返されても困る」
「はは。確かにっ」
リィドは思わず噴き出してしまう。
『お前さぁ、本当に俺より年上かよ。ガキみたいに水をひっくり返すな。ったく……』
そう子どものレオニスには注意をされたっけ。
「ありがとう」
そんな風に昔のことを思い出してせいで、つい気が緩んだ。
リィドはレオニスの頬に触れ、撫でてしまったのだ。
そう、まるで昔よくそうしていたように。
レオニスが目を瞠る。
「あ、今のは」
もう遅い。
彼は椅子を蹴倒す勢いで勢い良く立ち上がるや、部屋を出て行ってしまう。
(はああああ! やっちゃった! 僕はなんてことを……!)
昔の癖で、当たり前のように触ってしまった。
もう自分たちは昔のような関係ではないのに。
「リィド様、いかがしましたかっ」
「今し方、レオニス様が部屋を飛び出して……」
慌てた様子のメイドたちが部屋に飛び込んできた。
「急用ができたみたいで。だから気にしないで」
「さ、左様でございますか」
メイドたちは顔を見合わせず、頷く。
リィドはメイドたちに分からないようにそっと溜息をこぼした。
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