人参の化物を見たか
初めまして、阿吽と申します。
どうぞごゆっくりお読みください。
※怖い話ではありませんが万が一、同じ体験をしていたら、少し怖いかなと思いましてジャンルをホラーにしています。
"怖いもの見たさ"と言うものは、人間の心理的な、ある種の本能的な部分で感じてしまう好奇心のようなものなのだろうか。それをきっかけに、その人に合う合わないがあって、刺激的なところに魅了されて、好き好んでホラー映画や、別の角度からなら心霊スポットで肝試しなどそういう行動に移るのだろう。
様々な激辛料理にチャレンジする人の考え方に似てるのではないだろうか。ちなみに私は両方とも苦手だ。
学校の図書室は意外と人気だった。
いろんなジャンルの本が並び、漫画もちょっとだけあったし、性についての本も読んでる子がいたっけな、中には字がぶわぁっと羅列された本を読む、眼鏡をかけている女の子で絵に描いたような優等生そうな子もいて、1年生から6年生まで皆が利用していた。
私もたまに漫画を読みに行ったり、迷路が書いてある大きい絵本みたいなのが好きだったから、気が向いたときに足を運んでいたと思う。どちらかと言えば本を読みに行くことより、図書室そのものが好きだった。
昼休憩に行くと、天気が良いとよく日が当たり、足を踏み入れると窓から注ぎ込まれた日差しと、照らし出された床、肉眼で捉えることができる陽光にゆっくりと埃が舞う。その動きはどこか水中を思わせて不思議な感覚だった。図書室に充満した書物の香りもどこか落ち着いた。
その日も昼休憩だった。友達が図書室に行くというので私もついていった。
裕斗は漫画のように絵本っぽく書かれている学校の怪談シリーズが好きで、いつも読んでいるようだった。うちの学校の図書室には結構な数のそれらのシリーズが並んでおり、網羅するには昼休憩だけでは足りないだろうなと思う。
私と裕斗は本棚から本を取って、机ではなくその場に座り込み本を見る。
しばらく集中した時間が続いて、私も本に夢中になっていた。
『ねえ良樹、これ見てみてよ、これほら』と迷路を指でなぞっている私に話かけてきた。ゴール付近だった指を一旦離して、本をひっくり返して床に伏せて、裕斗が持っている本に目をやる。
「なにどれ?」
「これこれ。これさあ、本の最初と最後のところに4コマのこわい話があるんやけど、この最後のほうみてみてよ!」
「え、ああ、うん‥‥‥どれどれ?」
「これ、このやつ!」
この子が怖い本が好きなのは知っていた。と言うか、今日はそれを見に行こうと誘われたのだから。
でも私の家族は全くホラーの類に免疫がないため、夏になるとそういう番組やCMが多く放送されていたが、ながれる度にチャンネルを変えて嫌がっていた。私もその環境で育っているからあまり見たくなかった。でも、興味もあった。
裕斗が指をさす。それを徐に目で追った。
「なに‥‥?? これ‥‥‥‥にん‥‥じん??」
「そう!なんかおもしろいよね!これを見せたかったんよ!」
その時の裕斗は確かに笑っていたが、私がどんな反応をしたか覚えていない。たぶん変な顔をしていたと思う。何か答えただろうか。ただ、途轍もなく怖かったのを覚えている。いまでもあの光景は脳裏に焼き付いており、絵の才能があるなら、描くことだってできるだろう。それほど衝撃だった。
それ以来、学校を卒業するまで図書室に行っても、その4コマに出てきた人参の化物がよぎって、部屋の中の怪談コーナーには近づけなかった。多分今あの本が目の前にあっても開くことはできないだろうと思う。
私はその日から、大人になった今でもお風呂で髪を洗うときは目を瞑れない。
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