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声の導き

作者: 絢爛華麗

2800年、東京の高層ビル群に囲まれたオフィスの一角で、山下幸作は日々、目の前の業務に追われていた。しがないサラリーマンとして、ただ淡々と仕事をこなし、昇進を夢見ていた。そんな平凡な日々が続く中、彼には一つの悩みがあった。それは、突如として襲ってくる激しい頭痛だった。特に仕事の途中で症状が悪化し、時折耳鳴りや救急車の音が響くようになり、意識を失うことさえあった。


ある日、またしても頭痛に襲われ、山下は倒れ込むように机に伏せた。目の前が真っ白になり、気がつくと、どこか異次元のような空間に立っていた。無重力のように体が浮かぶ感覚の中、誰かの声が直接頭の中に響いてきた。


「あなたは選ばれた者だ。」


その声は深く、冷徹な響きを持ちながらも、どこか安心感を与えるような不思議な力を感じさせた。山下は驚きと混乱の中で、ただその声に従っていた。


「この仕事をこなせ。必ず成し遂げなければならない。」


意識が戻り、気がつくと彼は再び自分のデスクに座っていた。頭痛は消えていたが、その声がどこかで響いている気がしてならなかった。それから、彼はその声に従いながら仕事をこなすようになった。最初は気のせいだと思い込もうとしたが、次第にその声が絶えず耳に届くようになり、その指示通りに行動することで、次々と成果を上げていった。


それから3か月後、山下の業績は目覚ましく、部内でトップの成績を収めることができた。ついには部長への昇進が決まり、彼は喜びの中でその知らせを受け取った。しかし、昇進に伴い、周囲には少なからず不満を持つ者もいた。そして、数人の部下が辞職を申し出たことがきっかけとなり、会社の中である種の不穏な空気が漂い始めた。


山下が部長として仕事に打ち込み始めると、辞職者はさらに増え、会社はその原因を追究し始めたが、調査結果には何も見つからなかった。辞職者の理由は不明のままで、そして、辞職者がいなくなると、業績は再び上昇し、山下はついに社長の座に就くこととなった。


社長に就任してからというもの、頭痛も、そしてあの声も聞こえなくなった。静かな日々が訪れ、山下は業務に専念した。しかし、ある晩、自転車で帰宅中に再び激しい頭痛に襲われ、そのまま路上に倒れ込んだ。目を開けると、病院の天井が広がっていた。


回復後、山下は再び会社に戻ったが、あの声が再び耳に届くようになった。その声に導かれるまま、彼は会社の会議室へ足を運んだ。そこには前社長が座っており、まるで眠っているかのようだったが、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。


その時、前社長の口がゆっくりと開かれ、声が漏れた。


「ようやく、君が来たか。」


その声は、あの聞き慣れた声だった。山下は息を呑んだ。声の主は、創業者の声だった。


「私は戦争で命を落とした。だが、私の魂はこの会社に残った。君が私の後を継ぐ者だと、ずっと感じていた。」創業者は語り始めた。「前社長も、私の魂を受け継いでいたが、寿命が尽きかけている。君がその後を継ぐことになったのだ。」


山下は言葉を失い、ただその説明を必死で受け入れようとした。創業者は感謝の意を示すと、突然頭痛が襲い、意識が遠のいていった。


再び目を開けると、彼はデスクにうつ伏せに寝ていた。混乱の中、手に握られたものを見て驚愕する。それは、ただ一言「ありがとう」と書かれた手紙だった。


「これは一体……?」


夢だったのだろうか、現実だったのだろうか。山下はしばらくその手紙を握りしめたまま、呆然とした。どちらにせよ、彼は新たな運命を受け入れる準備をしなければならなかった。今後の道を、どう歩んでいくのかはまだわからなかったが、彼の中には確かな確信があった。


彼は、ただのサラリーマンではなく、選ばれた者だったのだ。

ご清覧ありがとうございました。

ちょっとしたひと時に出てきたストーリーを短編でまとめてみました。

次回も何か作れたらいいなと思っています。

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