試験の前には任務を受けよう
試験まで一週間ということでそこそこの期間が空いた。何もしないのは時間がもったいないのでせっかくなので任務を受けることにした。
「それでどこで任務を受けるんだ?」
「なんも説明聞いてなかったんだね」
「聞くには聞いてたぞ?功績のルールあたりくらいまでは」
「それほぼ最初じゃん。はぁ、任務は王都の冒険者協会で学生証を見せればいいの」
この世界には冒険者協会が存在する。この学園を卒業したあと、そのまま冒険者になる人も少なくないそうだ。
「ほら、ついたよ。ここ」
どんな任務があるか見てみる
・レベル1任務
平原の薬草の採取
雪原から氷塊の採取
・レベル2任務
ゾンビ3体の討伐
・レベル3任務
海の亜烏賊の討伐
・レベル4任務
雪原のダンジョンの偵察
レベル5任務
雪原のダンジョンの攻略
「なるほどなぁ...どれやる?」
「正直レベル1とか2をちまちまやっても意味ない気もするし...レベル4の任務やるついでに行けそうなら攻略までしちゃって功績5もらっちゃおうよ」
「そうするか」
というわけで俺達は雪原のダンジョンに向かうことを決めた
〜〜〜〜
雪原のダンジョン【FrozenCave】
ダンジョンランク 推定5
俺達はダンジョンに入った。ちなみにダンジョンにはランクがあってMAX10だ。ランク5というのはそこそこのレベルということだ。あくまで推定なので、これよりも簡単かもしれないし、危険かもしれない。それを判断するための偵察任務というわけだ。この世界のダンジョンにはお宝と言ったものはほとんどない。定期的に現れ、突如として消えるのだ。時々そのダンジョンが街にとっての悪影響を及ぼす可能性があるため、放置するわけにも行かないのだ。
「おっと、敵がお出ましのようだ」
白い大きなトカゲといった感じだ。あまり強そうには感じない。
「水刃・鋭!」
「おお、ナイスぅ」
トカゲは真っ二つになった。トカゲだし再生でもしてくるのかと思ったがそんな様子もない。俺達学生は素材なども必要ないので放置して先へ進む。
「お?あれ宝箱じゃないか?」
「そうっぽいね。開けてみようよ」
中には紅い血の色をしたどす黒いペンダントが入っていた。
「なんだ...これ」
俺はとりあえずそれをポケットに仕舞う。あとからこのペンダントが悪夢を引き起こすなんて言うことは、今の俺には知る由もなかった。
「愛海、なんかこの先不穏な感じがしないか?」
「それ私も少し感じてた。ボス部屋だったりするのかな?」
各ダンジョンにはボス部屋が存在しており、そのボスを倒すことによってダンジョンは一定時間後に強制的に自然消滅するようになっている。害をなす前に消してしまおう、というわけだ。少しそこから進むと大きな扉が見えてきた。
「開けるぞ?」
大きな扉に力を込め開く。その先には大きな、まるでもう一つの雪原が広がっているかのような空間に出た。その真ん中に10メートルは超えているであろうとてつもない大きさの魔物...恐らくあれはキングアイスウルフだ。にしても大きさがおかしい。キングアイスウルフは雪原に生成されるダンジョンの多くのボスとして出現するのだが、本来その大きさは3メートルほどのはずなのだが。
「あるえー?おかしいな、大きさがバグってる」
「まあ、あいつが何であれ、とりあえず情報を持ち帰ろう」
...いや、あいつはなにか放置していたらまずい。そう直感が囁いた。
「なにか嫌な予感がする。愛海は先に戻って情報を伝えて。俺はここに残る」
「え?嫌でもそれじゃ...」
「早くいけ!ここは俺に任せろ。一刻も早く戻ってくれ。必ず戻る」
「っ...分かった、絶対戻ってきてね!」
そうして愛海はもと来た道に向かっていった。
「よし...これで誰かに見られることはなくなったわけだ。これで能力が使える」
発動。心の底でそう唱える。その瞬間キングアイスウルフの周辺が大爆発する。
「ちっ、これでも耐えるか」
相当な威力の爆発だったはずなんだがな。やはりこの能力はコスパが良くない。一度能力を使っただけで息切れを起こしてしまう。もう一度だけ能力を使おう。それで耐えられてからはまた話は別だ。
「正直これはどうなるかわからないが...」
発動。俺はキングアイスウルフから大きく間合いを取る。キングアイスウルフはとてつもなく暴れていた。力任せに尾を振り回し、鼓膜が張り裂けそうなくらい大きな声で鳴く。それが収まって来た頃、俺は剣を腰から抜いて攻撃を仕掛ける。相当キングアイスウルフは消耗しているようだ。こちらも能力の使いすぎで疲労は溜まっているわけだが。正直この剣でキングアイスウルフを斬ったところで、図体がでかいのでダメージはほぼと売らないと考えられる。そのため、どんなに図体がデカくてもダメージか通りやすい場所...つまりは眼球に向けて剣を薙ぐ。見事にキングアイスウルフの眼球に剣は突き刺さり、ダメージは与えられたようだ。今まで俺が一方的に攻撃をしていたが、そうも簡単には行かないらしい。もちろんキングアイスウルフだって攻撃をしてくる。そのでかい図体に見合った大きい、重量の有りそうな尾を薙いでくる。当たったらあばらの1本や2本は軽くいきそうなので軌道を見てかがんで回避する。その間にもキングアイスウルフの体を切り刻み続けているが、あまりダメージは入っていなさそうだ。でっかい図体に剣の80センチくらいの傷が入ってもかすり傷にしかならないのだろう。ならば、ピンポイントで傷をつけたところを斬りつける!
「くっ」
キングアイスウルフの1メートルもの大きさもある爪が俺の肩を抉る。
「やばいな、そこそこ傷が深い」
肩を10センチくらい抉られてしまった。血があふれる。よく見てみれば、先程突き刺したはずの眼球や斬り付けた傷が再生していた。キングアイスウルフの攻撃を食らってしまったのも消耗させたヤツの体力が回復してきているからなのだろう。俺は服の一部をちぎり、肩のあたりを強く結んで止血をする。こちらの体力も限界に近い。にも関わらず、相手は再生するのだ。あまりにも不利だ。しかし逃げることはできない。背を向けた瞬間そこに強烈な一撃が浴びせられるだろう。
「愛海が増援を呼んでくれることを願うしかないか...」
その時だった。腰のポケットからどす黒い光...闇といったほうが正しいか?まあそれが溢れ出てきた。その物質がこの広い空間に充満する。
「あああああああああああああ!!」
口から血が溢れる。ひどい頭痛と倦怠感、全身の激痛に襲われる。何だこれは!意識を保て、思考を巡らせろ。腰のポケットに入れたもの。恐らくあの紅い血の色をしたペンダントが原因なのだろう。ただ何がトリガーになった?「それ」が入っているであろうポケットの方に目をやる。そこには肩から流れた俺の血がべっとりとついていた。ここから考えるに、あのペンダントに血が触れたことによってこの謎の物質が出てきたのだろう。ここからどうする?キングアイスウルフも俺と同様、悶え苦しんでいるようだ。見るに俺が能力を使ったときよりも暴れているように見える。あれは相当強かったはずなんだがな...。つまりこれはえげつなく強い毒性のもの。普通の人間が触れたら命に関わるだろう。俺だからこそ多少は耐えている。いや...耐えれてないかもな。意識が朦朧としてきた。ただ、少なくともキングアイスウルフを倒してからじゃないと気絶は許されない...!俺の能力のコスパは最悪だ。そのため2回が限界と言ってもいい。しかし、この状況を打開するには能力を使うしか無い...!
「は...つど...う...!」
今までにこの能力の使い方をしたことはないが、この方法でしか無理だろう。賭けだ。...そこで俺の意識は落ちた。