第八話 Gloomy Grooming
夕陽を街が浴びる。
大時計塔の影が、街に落ちる。
さながら巨大な日時計のように、
赤い光の中に、巨大な黒い輪郭が、街の一角を覆う。
暗殺ギルド。
その屋敷は意図的にその影になる部分に作られている。
夕刻に、ひと足先に真の闇がやってくるように。
あまり夜にこの屋敷に
近付く怖いもの知らずは少ない。
だがそれでもやってくる街の住民のため、
門戸が開かれていた。
早めに屋敷が周辺だけ夜になるのは、
人を殺す依頼をする罪悪感を、隠しやすくするためなのだ。
……タティオンの執務室はいつも、
照明を蝋燭だけにしていて、
薄暗くほとんど見通せない。
落ち着いたチラチラする灯と、
夕刻の消え去りつつある陽光だけで
仕事をしていた。
今日は、成金同士のいざこざだった。
ダンジョンから掘り出されるアーティファクトの流用。
魔法科学ギルドの発明。
急速に技術発展をもたらす存在が、
この街には多い。
中央ではいまだ金貨の両替にも困る有り様だというのに、
この街だけ資本主義らしきものが成立していた。
「我々が売るのは死だけだ。暴力による脅しを買いたいなら傭兵ギルドへ行け」
タティオンは、
とりつく島もなく、
今日の来訪者をあしらう。
新興の実業家だったが、
暗殺ギルドを、
金を積めばなんでもしてくれる、
汚い便利屋だと思っていたらしい。
正義に基づく死を提供する、
畏怖すべき街の裏の支配者としてではなく。
タティオンが最も嫌う連中に、
よくある勘違いだった。
よく肥えて、
街の外の工芸品である、
見慣れない宝石を
身につけた実業家が依頼人だった。
何度頼んでも無理だと悟ると、
タティオンの執務机の前の椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、
捨て台詞を吐いて出て行こうとする。
タティオンは気にしなかったが、
部屋の闇に紛れていた大男は看過しなかった。
「ひいっ!?」
スタヴロは、
実業家の背後に音もなく一瞬で移動し、
その肩を掴んだ。
部屋の空気が一変するような冷気が、
脂肪をまとった体を覆い、
一瞬で凍らせるようだった。
何も言えなくさせる。
実業家は、恐る恐る振り返る。
スキンヘッドの屈強な大男が微笑んでいた。
「出口はあちらです」
金にはなるにせよ、
名誉にはならず、
恩を売る価値のある相手でもなかった……。
くだらぬ客が帰ったあと、
二、三、貧民のとある地区の代表の嘆願があった。
それを丁重にもてなし、
ギルド側にも利益がある形で解決を約束する。
タティオンは依頼を受けるのを終わらせた。
まだいたはずの依頼者も、
暗殺ギルドの屋敷の闇のなか、
いつまでも待つことを好むものは少ない。
もはや夜の帳が完全に降り、窓の外は真っ暗だ。
革製の大きな椅子に沈み込むタティオン。
隣にスタヴロが来る。
父の代わりに書類を整理して、
今日の陳情や依頼の様子をまとめていく。
「最近、くだらない復讐の依頼が多いですね。依頼者に『理』も『義』もない」
タティオンは肩をすくめる。
「本来は当然だ。復讐は女や酒より気持ちがいいものだ。つまらん復讐の依頼が基本だ。だが我々はすでに選り好みできる立場だ。街のためにならない依頼は、金が欲しいという気持ちをぐっと飲み込んで、お断りさせていていただくべきだ」
タティオンは椅子を回して、
体を窓の方へ向けた。
窓ガラスを挟んで、
夜のひんやりした空気すら感じられる、
しんとした夜になっていた。
この屋敷からは、
街が大きく広く見えた。
それは非人間的なまでの広大な広がりを持ち、
あらゆる亜人種と、
あらゆる階層の人間が暮らしている。
河は汚物と工業排水で汚れ、
格差は広がる一方で、
犯罪を取り締まるため、
冒険者ギルドは本来の使命に集中できずにいる。
あまり未来があるようには見えない、
黄昏の光景。
「父上」
スタヴロが改まった態度で言う。
「レカは……」
タティオンは片手をあげてそれを制し、
椅子からやおら立ち上がって、
息子に対して「もう上がって良い」と言った。
タティオンが言葉を制したのは、
あの鋭い感覚を持つ、
暗殺者の才能溢れる娘には、
聞こえてしまうだろうと思ったからだった。
スタヴロがいなくなると、
タティオンは窓辺に立ち、
ガチャガチャと久々にその鍵を自ら開け、
取手を押した。
窓が開き、
一気に冷たい空気が部屋に入り込んでくる。
タティオンは窓枠をまたぐこともない。
身につけた黒いシルクの
ウェストコートを汚すこともない。
まだまだ衰えない体術で、
体をスルッとバルコニーへと踊りださせた。
夜のバルコニーは、
小さな魔光灯がほんの少し光を用意しているだけ。
ほとんど真っ暗だったが、
そこに小さく浮かび上がる影があった。
影は、体育座りで、
小さく縮こまっていた。
ホワイトゴールドの金髪が項垂れている。
タティオンは、ふん、と鼻を鳴らすと、
さっきの動作で乱れた髪を少し撫で付け整える。
威厳ある雰囲気を少し崩し、
澄んだ空気を深く吸って、
大きく吐いた。
暗殺者必須の、静かな呼吸でもなんでもなく。
ゆっくりと、隠し子、
文字通り秘蔵の娘に、
一歩一歩、歩み寄る。
「終わったぞ、レカ」
そう言うと、
黙って座り込むレカの隣まで来て、
少し見下ろす。
レカ。
昨日から今朝にかけて、
仕事をこなしたのだろうと思えた。
暗殺者のスーツを身を纏ったまま、
じっと自分の膝と組んだ手に、
顔を埋めている。
どんな表情をしているか。
まとめた白い金髪しか目に入らない。
タティオンはレカと同じように、
バルコニーの埃まみれの床に座り込む。
石段を椅子がわりにして。
シルクのトラウザーズパンツの尻が、
汚れるのも構わず……。
コートも、砂埃がベッタリ、
壁からくっついてしまった。
するとレカが、
「ん……」
とだけ呻いて、
タティオンに少し寄る。
もたれかかってその身を預けた。
甘ったれた、
チャーミングさを強調した声にもならない声で、
喉をふるわせて。
タティオンは手を回してレカの頭をポンポンと叩いた後、
抱き抱えるでもなく、そのまま自由にさせていた。
やがて、スンスンと、
レカが鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
そこでタティオンは体を離し、
体を捻ってレカの頬を両手でがっちり掴んだ。
レカの泣き顔は、
もう父親の前にあらわになってしまった。
涙がポロポロと溢れ、
鼻から少し垂れている。
目が赤く見えるのは、
魔族の力をあらわす赤い瞳のせいではあるまい。
泣き腫らした充血だった。
タティオンの指が、
レカのほほを撫でる。
まるで恋人にするように。
レカは、心地良さそうに目を閉じる。
老いた指が、
なん度も、なん度も、
ほほの涙の跡に触れた。
「レカよ。殺しを生業とするとは、こういうものだぞ。罪悪感にツブされてどうする?」
レカは消えりそうな涙声で、
「だってぇ……子供を……犠牲に……」
と言った。
タティオンはレカの顔をゆすった。
普段なら、
押さえつけることすら不可能。
誰にも止められない、
究極のバネのようなレカだった。
しかしおなじ肉体強化の魔法力をもつ、
タティオンであればすんなりいいようにされてしまう。
いや、たとえこの老人がほんとうの単なる老人だっとしても、
レカは抵抗できなかっただろう。
それくらい、実の父であり、
暗殺術を叩き込んでくれた師匠でもある、
タティオン・ヴォルヴィトゥールという存在は大きい。
「レカ。落ち着け。罪なき者を殺すなかれとは、このギルドに伝統的にかかげられてきた文句だが……罪なき者などそもそも存在しない」
レカが、タティオンに
顔を挟まれたまま唇を噛み、
もっと涙が流れ出す…
「レカ、お前は悪くない…悪くないんだ」
レカはタティオンのウェストコートの肩に顔を埋める。
……泣いた。
嗚咽をすきなだけまきちらして。
自分の血のつながった父親の、
枯れたニオイの中に、
安心と愛を見つける。
そして、今回の任務の顛末を伝えた。
タティオンは、
レカからツィマーの
暗殺短剣を受け取る。
それをしげしげと眺め、
鞘に掘られた文字を、
カリカリと爪で確かめた。
「なるほどな」
父娘は並んでバルコニーに座りながら、
穏やかな空気を共有していた。
レカはこういう時間が何より好きだった。
厳しく、そして忙しい父に、
構われ、褒められ、気遣われる。
……このうえない幸せ。
レカは自分の膝をギュッと抱え込む。
ふところから幸せが逃げ出してしまわないように。
「レカ。辛かったな」
レカの肩に、タティオンの手が置かれる。
父の声、言葉、優しさ。
あらゆるものが、彼女を包み込んだ。
レカは父を見る。
タティオンも娘を見る。
お互いの、同じ赤の瞳が混じり合う。
タティオンの鋭い眼光も、
こうなると温かみを宿すのだ。
レカは少しはにかんで視線を外し、
それから悲しそうな顔をした。
「おとーさん、あーし、今回……ね? ながく仕事をしてきて、はじめて失敗しちゃった」
タティオンはコクリと頷く。
「失敗は誰にでもある。キャリア七年だから、最初の一回が遅すぎたくらいだ。いままでが完璧すぎたのさ」
レカは少し驚いた顔で、
「七年? そんなに!?」
と大きな声を出した。
タティオンは笑って、
「そうだぞ! もうベテランだ」
と頬を緩ませた。
レカも笑みを見せるが、
それはだんだん曇っていく。
弱気な発言が飛び出す。
「ねえ、おとーさん。あーし、初めてこの仕事を辞めたいと思ったかな」
タティオンは驚いた顔を見せる。
「ほう?」
しかし驚きはそれほどでもなかったのか、
おどけたような調子。
レカは、
ゆったりと膝を崩し、
両手の指を合わせる。
親指だけが落ち着かなげにクルクルしている。
「いっや、あー、なんつーか……。ねえ、おとーさん」
タティオンは真剣な目で娘を見つめる。
「おとーさんのためだとか、街のためだとか。そう思えばこそ、今までやれてきたんだけどさ。ちょっと今度のはダメージ、デカかったっつーか……」
「そうかレカ。じゃあやめるか?」
「えっ!」
驚いたのはレカだった。
今まで俯いていた顔が、
弾けたようにタティオンに向く。
「いいの!?」
意外すぎる言葉だった。
タティオンは優しく微笑んだまま続ける。
「レカ、やめてもやめなくても……。そうだな、しばらくの、長めの休暇でもいいぞ。年単位の」
レカは体を起こしてタティオンに向き直った。
すっかり快活な少女らしさを取り戻している。
「本当に!?」
今までのどの笑顔より少女らしい。
まるでこれまでの、
ハードでシリアスな仕事ばかりの生活で失ったものを、
たった今取り戻したように。
タティオンは頷く。
「いいとも」
レカは嬉しくなってしまう。
はしゃいだように、捲し立てる。
「じゃあさ! じゃあさ! あーしさ! ちょっとの間でもいいから、田舎の牧場に住みたい!」
「ほう!」
「そんでさ、そんでさ、みんなで助け合いながら穏やかに平和に暮らすんだ。血を見ることなんか一切ない。そんな生活でさ……」
タティオンの穏やかな微笑。
友達と遊びまわる孫を見るような。
その笑みがレカの望みを受け止める。
「牧場なら用意できるぞ」
レカはいよいよ感極まって、
「ほんと!? いいの!?」
と、ほとんど叫ぶように言った。
「もちろんだとも」
タティオンは首肯する。
レカの笑顔はタティオンだって見たことないくらいで、
踊りださんばかりだった。
タティオンは、
「かわいい娘のためならば、郊外の牧場のひとつやふたつ……なんなら、安全な地方の開拓地、まるまるお前のものにしていい。新しい村の開拓をやってみるか?」
と言った。
レカは思わず立ち上がる。
「嬉しい!!」
そしてタティオンに抱きついた。
こんなに喜んだのを見せたことはない。
タティオンも、両手をレカの背中に回して、
立ち上がってレカを持ち上げる。
「はっはっは! いいぞ! いつでもいいんだ!」
二人で二回ほど、クルクル回った。
レカの足が宙を舞う。
思い描いてきた夢も舞う。
すべての、考えたくないことを周りへ弾き飛ばしながら……。
ストン。
レカがバルコニーに着地する。
その顔はすでに、
何かに気づいたようで、
笑顔がまた、少し曇っていた。
「あ、でもだめだわ。みんな、あいつら……。あーしの部下のあいつら……。あいつら、多分、殺しや売春以外では生きていけないから……」
レカは俯いてしまう。
「テルやリリアは、連れてったって大丈夫だろうけど」
タティオンは大袈裟に悲しそうな様子で、
眉を歪ませてみせる。
「そうか。そうだな。おそらくそうだ」
レカの全身から元気が抜け、
表情がみるみる沈んでいく。
「そうだよね……おとーさん」
タティオンは微笑むことを崩さずに、
相変わらずレカを抱きしめる。
しばらく、
抱きしめ合ったまま、
二人は沈黙する。
再び口を開いたのはレカだった。
タティオンの胸板に手を添えて、
そっと抱擁から抜ける。
今度は、
たくましい、
不適な笑みのいつものレカに戻っていた。
「……おとーさん。ありがとう。気が晴れたよ」
レカは言った。
タティオンが頷く。
「そうか。だが、しばらく仕事を休んでいいというのは本当なんだからな? 代わりはスタヴロの部隊でもできるし……」
レカは首をゆっくり横に振った。
「ねえ、おとーさん。あーし、やるよ。もっともっと困難なことになっても、負けたりしない。しないよ」
タティオンはレカの肩に手を置く。
そしてこう優しく語りかけた。
「勝つ必要なんかない。我々は殺すだけ……殺すことが我々のやり方だ。戦いすらもしない。背後からのひと刺しが理想だ。だが確かに、お前は戦ったとしても、相手を死に至らしめられるだろう。それでも、勝ちを求める必要はない。いいな?」
レカはこくん、と頷いた。
タティオンはバルコニーの外を向く。
レカもそうする。
眼下には、街並み、河、遠くの猥雑な街区。
あらゆるものが見てとれた。
タティオンは優しく語りかける。
「なあレカ。我々は、大時計塔のダンジョンに頼って生きてきた。ダンジョンに眠る、アーティファクトと呼ばれる超常の遺物を掘り出せる唯一のダンジョン都市、パラクロノス。おかげでここには重税を取っていく中央の役人もいない。比較的、というレベルだが、ワシは此処こそ世界で一番マシな場所だと思っている」
「そうだね」
とレカは答えた。
しかし父と違い、
何せこの街から出たことがないので、
テキトーな返事だった。
しかしタティオンは気にしない。
「うむ。だからこそ……陰謀。暗殺。話し合い。そういう汚いやり方で、ギルド同士がドロドロと覇を競っていなければならない。もしこの街に和平が訪れたら、中央王権は我々を統一された脅威とみなし、今よりも軍を送るだろう。……傭兵ギルドでは対処できないほどにな。ひいては、この国全体を内戦の炎が焼き尽くすだろう」
レカはゴクリと喉を鳴らして頷いた。
自分の仕事は世界の安寧へと繋がっている。
その自覚ほど、
仕事人間の自尊心を強固にするものはない。
タティオンはレカの肩から手を離す。
そして舞台俳優のような優雅さで、
バルコニーから見える景色の方へと伸ばした。
「なあ、レカ。このゴミ溜めよりも腐った、悪臭に満ちた街を、ワシはほんの少しだけマシなものにしようと頑張ってきた。ワシはたった一代でこの暗殺ギルドを、盗賊ギルドから完全に分離させ、大ギルドたちと並ぶものへと成長させた。昔は現場でみんなと同じように人を殺していた……。だが今では、こうして執務室に人を呼びつけ、あれこれ小言を言うばかりだ」
レカはタティオンに縋るように、
ウェストコートの胸板に両手を当てる。
そして懇願するような表情で
タティオンの威厳ある顔を見上げ、
必死にこう讃えた。
「おとーさんはすごい、おとーさんはすごいよ。あーし、おとーさんのためなら、なんだってできる。この街のために働くよ」
タティオンは、
レカの髪を優しく撫でる。
白い黄金の糸のような、
美しい髪を。
二人の赤い瞳が向き合う。
時々それを宿すものがいる、
魔族の血がもたらす赤い瞳。
殺意を宿せば恐ろしく、
慈愛を纏えば神秘的。
そんな色だった。
「……レカ、愛しい娘よ。お前はワシに暗殺短剣として鍛え上げられた。今日のような出来事は、これからの人生で、何度もあるだろう。その美しい鋭さで、この街の闇に風穴を開けてくれ。どこに突き刺せばいいかはワシが指し示してやる」
そこまで言って、老いたギルドの長は、レカから離れた。
数歩あるいて、沈んでしまった陽の少しだけ残る夜空の、
いちばん暗いほうを向いた。
不安そうに、背中を見せた父を見るレカ。
「……だが……だが、ワシも、もう歳だ。やがていなくなるだろう。そうしたら、あのテルーラインくんの言うことを聞きなさい」
レカは唐突な言葉にドギマギして、
「えっ、えっ、な、なんであいつの名前が出てくるんすか!」
と吃りながら言った。
茶化しているわけでは決してない。
タティオンは真剣な口調だ。
レカの方を振り向いて言う。
「テルーラインくんのことは好きか?」
レカは後頭部を掻きむしって、
まとめた髪を揺らした。
「あー、その……いや、お、幼馴染ではあるよ……な……? そういう意味でなら、好きだけど……」
タティオンは笑った。
「なあに。まだ受け止められなくてもいいさ。お前が決められなくても、ワシが父親のロドヴィコと話をつけてやる」
なんだかレカは真っ赤になってしまう。
白い肌がピンクに染まる。
タティオンはその可愛らしい有り様を崩すのは忍びなかったが、
仕事の話に入った。
「レカ。次の任務、やるというのなら、近日中に愚連隊を招集せねばならんな。対象はすでにメモにある。街の秩序を乱そうと反乱を企てている、とある冒険者パーティだ。容赦するな。情けをかけなくていい」
レカはすぐに仕事モードに入る。
父親によく似た、赤く鋭い、暗殺者の目になる。
そして頷いた。
タティオンも頷く。
「お前はよくやっている。本心からそう思うぞ、レカ。あの怪物のような二人を、完全な外道に堕ちるまえに、ギリギリのところで手綱を握っているのだから」
レカは褒められて、
満面の笑みで頭をかく。
「しししし! なんかめっちゃこそばゆいっす!」
そしてタティオンから離れ、一回転してみせる。
最初の落ち込みなどもう何処へやら。
もうすっかり元気そうだ。
「おとーさん!」
人懐っこい笑みで言う。
「あーし、これからも任務を続けるよ! それが、あーしの存在証明だから」
タティオンはにっこりとした微笑みでそれに応え、
そしてシリアスな顔になり、レカを指差してこう宣言する。
「我が最高傑作にして最強の女暗殺者レカよ。ゆけ、愚連隊を招集するのだ。襲撃の日取りは……お前が奴らの動きを見て決めるのだ」
レカは頷いた。
猛禽のように鋭い眼光の中心で、
赤い瞳が、妖しく光を放った。