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この三人交際にマニュアルは存在しない。  作者: やなぎ怜


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(13)

 女性も多く入居している高層マンションの上階、夜更け前のリビングルームにて。朔良は、千世と隣り合って座り、今日のことを端的に話した。


 朔良は、千世が「土岐四郎とは会いたくない」と言えば、だれになにを言われようとも会わせないつもりだった。


 千世は人見知りというほどではないにしても、長いあいだ父親とふたりきりでの生活を強いられていた。そのこともあってか、あまり親しくない人間と同じ空間にいっしょにいることは、苦手に思っている様子もある。


 もちろん恋人である朔良や、担当官の七瀬に対してはそういった風には感じてはいないようだが、ひとりのほうが気楽に思えるときもあるようだ。


 そういうわけで朔良は、千世がすぐに土岐四郎と会うことを了承するかどうかは五分五分だと思っていた。


 少なくとも、返答をするまでしばらく考え込むくらいはするだろうと思った。


 だが朔良の予想に反し、千世が考え込むような仕草を見せたのは一瞬だけで、四郎と会うことを了承したのだった。


 朔良は、「千世も子供が欲しいのだろうか」と思った。


 あるいは久しく離れていた社会に適応したいがために子供を儲けたいだとか、複数の夫を持ちたい――現在の社会では女性は複数の夫を持つことが当たり前だ――と考えたのかもしれないと危惧をした。


 千世はそれまでの父親との生活の影響で、精神面では実年齢不相応な未熟さを見せることはあるものの、聡明なほうであった。


 しかしあれこれと勝手に考えすぎるきらいがある。たとえば、先の囮計画などがそうだ。ときに自分を犠牲にすることを厭わない選択をする。


 朔良は、それを心配していた。


「千世は、土岐さんに会いたいんだね?」


 しかしこちらが気遣っていることをストレートに告げても、千世は萎縮してますます感情を隠すことになるだろう。


 それに、妊娠能力の低さゆえに最低ランク女性に格付けされている千世を思うと、「子供が欲しいのか」と問うのは――朔良の視点からすると――少々デリケートがすぎる話題だ。


 土岐四郎は、千世に恋愛感情を抱いているわけではないらしいと、一応朔良は判断していた。


 ならば、千世と面会してもストレートに結婚や子供の話になったりはしないだろうと予想する。


 だがそうであれば、土岐四郎が千世と面会したがる理由が、朔良には心当たりがない。


 しかしいずれにせよ、朔良は土岐四郎と千世の面会に、彼女の現担当官である七瀬と共に同席するとハナから決めていた。


「会ってみたいと……おっしゃられているなら」


 どこかたどたどしい口調で千世が答える。


「それに、この前の様子だと……一度会っておいたほうがいいのかなって。……なにかわたし、勘違いとかしていませんか?」


 不安げな顔をして問う千世を見て、朔良は安心させるように微笑んだ。


 千世がそうやって、自分が間違っていないかどうか細かに確認をしてくること自体には、朔良は憂慮の念を覚えるものの、一方でほの暗い優越感をも覚える。


 胸中に生じた薄ら暗いそれを振り払うように、朔良は千世の髪にそっと触れた。


「ああ、その通りだよ千世。土岐さんは……なんというか、粘り強いひとだからね」


 千世は朔良の言葉の意味が上手く汲めなかったらしく、わずかに首をかしげた。


「まあ……一筋縄ではいかないひとなんだ。千世に会うためだったら色々と――してくるかもね」

「……わたしが会わなかったら、朔良さんや七瀬さんは怒られますか?」

「そんなことはないさ」


 間違いなく上司の京橋にお小言を貰うだろうが、他でもない女性である千世自身が面会を拒絶したのであれば、大きな問題にはならないはずだった。


 最低ランクとは言えども、千世は現在の社会では希少な女性なのだ。


 一応、その意思は男性のものよりも優先される。


 だから朔良はそう答えたのだが、千世にきちんと伝わったのかどうかは怪しいところだった。


「土岐さんと面会したくない気持ちが少しでもあるなら、会わなくてもいいんだ。みんな、千世の気持ちを優先するから」


 朔良がそう言葉を重ねたが、千世の答えはやはり「土岐四郎と会う」というものだった。


 朔良から見て、千世は無理にその答えをひねりだしたわけではない、ということはわかった。


 しかしわずかな迷いが生じていることも感じ取った。


 だが千世が「会う」と決めたのならば、その意思を妨害する気持ちは朔良にはない。


 ただ、土岐四郎が千世を傷つけるような言葉を口にしないことだけを願った。


 そしてもちろん、土岐四郎がそのようなことを口にしたときは、朔良は大人しく黙っているつもりもなかった。

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