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この三人交際にマニュアルは存在しない。  作者: やなぎ怜


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「相性がいいなら、会わせてみたらいいじゃないか」

「でもですね~……課長、相手はあの土岐さんですよ……?」


 四郎と千世の相性が「これ以上ないほどに最高」と診断されたことを知って、だれよりも乗り気になったのは朔良と七瀬の上司である京橋(きょうばし)だ。


 四郎の上司である奥村などは、朔良に出くわすと「なんか……すまんな」と耳打ちをしてきたあたり、四郎と千世、ふたりの相性診断を提案したことに少しは責任を感じているらしかった。


「でも彼女に興味を持っているんだろう? 案外と上手くいって、土岐くんも落ち着くかもしれん」

「結婚すれば落ち着くって言いたいんですか? ……あの土岐さんが?」


 朔良も七瀬も、四郎が結婚したところであの性格だとか人格だとかが、大多数のひとにとってよいと思える方向に矯正されるとは、残念ながらとても考えられなかった。


 ふたりの上司である京橋も、さすがに先ほどの言葉は言いすぎだと思ったのか、わざとらしい咳ばらいをひとつする。


「……まあ、一度考えてみろ、宮城くん」

「……考えてはみますよ」

「宮城くん……きみの気持ちはよくわかる。けれども考えてみろ。瓜生さんは……現状、最低ランク女性に格付けされている。結婚して子供を持ちたいと思う男からすれば論外だ。しかし土岐くんは乗り気だ。おまけに相性は最高ときている。瓜生さんの妊娠機会を増やすことはこの国のためにもなるし、彼女の幸福にも繋がる――」


 現在の社会において、女性がすべき最大の仕事は、子供を産むことだった。


 そしてその中で希少な女児を産むことができれば、その女性の人生は素晴らしいものだと人々は思うだろう。


 ……もちろん、それに疑問を抱く人間もいるが、概ね現在の社会ではそういう認識がスタンダードなのだった。


 朔良だって、それは理解している。


 上司である京橋の言葉はもっともだったが、しかしその裏に「実績」を作りたいという思惑があることも、朔良は同時に明瞭に見抜いていた。


 京橋の言っていること自体は正しいと思うし、自分に万が一のことがあっても、後事を託せる他の夫が千世にいれば心強いと朔良は思う。


 けれども――それを土岐四郎にするというのは、いかんともしがたい。


 土岐四郎――「護衛官にならなければただの犯罪者として一生を終えていただろう男」……。


 その評を頭に思い浮かべると、朔良はどうしても千世を四郎に託すという選択肢はないな、と思ってしまう。


 千世の現担当官である七瀬も概ね朔良とは同意見らしく、あからさまに難色を示して、上司の京橋に「でもあの土岐四郎ですよ?!」と詰め寄っている。


「まあ土岐くんのあの性質は厄介だが、さすがに瓜生さんみたいなお嬢さんをいきなり殴ったりはしないだろう」

「……それは、ひととして最低限、できて当たり前のことだと思いますけど」

「まあまあまあ……七瀬くんの懸念もわかる。しかし土岐くんは身元もしっかりしてるし、実家も太いし、腕っぷしも強いし、公務員だし。夫にするには優良物件だと思うが――」


 京橋は頻繁に「わかる」という語を用いたが、本当に理解しているのかは怪しいところであった。


 七瀬は眉根を寄せたままだったし、普段はひと当たりのいい朔良も、なんとも言えない表情を浮かべて京橋を見ていた。


 京橋はまた、わざとらしく咳払いをする。


「――で、だ。その土岐くんから瓜生さんへ面会要請がきている」

「『相性最高なんだから会わせろ』ってことですか」


 七瀬が若干ふてくされたように言う。


「まあ、『相性がよければ堂々と彼女に会える』というようなことを言われて診断を受けたわけですからね。当然の要請でしょう」


 朔良は小さくため息を漏らした。


「直接待ち伏せしてこないだけマシってことですか」

「本当にやりそうだから困る」


 七瀬の言葉に、朔良は少しだけうんざりとした表情をにじませた。


「――とにかく、一度は直接会わせてみなければ()()土岐くんも納得はしないだろう」

「それには同意しますが……」

「宮城くんは恋人として、七瀬くんは担当官として同席すればいい。……土岐君も、まあ気にしないんじゃないか」


 京橋からすると土岐四郎は会いたい女性の恋人や担当官が同席していようが嫌がらないし、そもそも気にかけたりはしないだろうという認識だった。


 朔良も七瀬も、そういう認識だった。


 ……つまり、朔良も七瀬も、自分たちが土岐四郎の抑止力になり得ないことを予感したということだ。


「土岐くんの希望は『できるだけ早く会いたい』という以外に特にないそうだ。保護局(うち)の応接室を使うといい。日程は瓜生さんに聞いて、七瀬くんたちで調整して」

「……わかりました」


 朔良も七瀬も、自分でもおどろくほど「渋々」といった声が出た。

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