水のおはなし
また真っ暗な中に香月が現れた。
「花のおはなしはいかがでしたか?次はどれになさいますか?」
言われた人物は水の扉を指さす。
「水のおはなしですね。では、中へどうぞ・・・」
水は怖いもの。俺、わたるはそれを知っている。小さい頃、川で遊んでいた時足を滑らせて溺れたことがある。でも、気づいたら岸まで戻っていた。自力で戻った記憶はない。しかし、あれから川には近づいていないし、水も怖くなった。
それから月日は経って、ある夏休み。
「夏だからか、年々暑くなるなー・・・」
俺は気晴らしに土手を散歩していた。下の川では子どもたちだけで遊んでいる。
「おいおい、子どもだけで遊んでたら危ないぞ。」
しかも、よく見たら小さい子どもだけだった。すると、1人の子どもが足を滑らせたのか川の真ん中で溺れかけていた。
「まずい!」
俺はとっさに駆け出していた。水は怖い。でも、このままじゃあの子が大変なことになる!
「おーい!誰か来てくれ!子どもが溺れてるんだ!」
幸いにも周りには散歩していた人や、大人たちも異変に気付いたのかざわついている。川を見れば、子どもの腕までしか見えない。
「待ってろ!」
俺はすぐに飛びこんで泳いでいった。なんとか子どものいるところまで近づいて助け出す。
「ごほっ、ごほっ」
「もう大丈夫だからな」
早く浅いところまで行かないと。俺がそう思った時ピーンと足がつった。
「しまった・・・!」
どぼんと俺まで川の中に入ってしまった。これじゃあ俺もこの子も危ないじゃないか。どうしよう・・・。俺が、泣きそうになっていると、誰かが腕を引っ張った。上を見ると、女の子らしき人物とうろこが見えた。
「ごほっ、ごほっ・・・」
気づいたら俺たちは岸まで辿り着いていた。
「た、助かった?はっ!あの子は!」
「大丈夫、気を失っているだけだよ」
横を見ると、大人の人が子どもを抱えていた。
「君も助けようとしたことは間違いじゃないが、君まで溺れたら大変だろ。その時は大人が来るまで待ちなさい」
そう怒られてしまった。しかし、周りを見渡してもあの女の子は見当たらなかった。
「こら!聞いてるのか」
「はい!すみませんでした!」
あれから救急車や警察が来て大変だった。それから数日後、俺はまたあの土手を散歩していた。あの子はその後意識が戻ったらしい。よかったと俺は胸をなでおろす。ふと、川の方を見たらあの女の子らしき人物が大きく手を振っているような気がした。俺も小さく手を振ってその場を後にした。すると、ちゃぽんと水がはねる音がした。振り返るとそこには誰もいなかった。