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第二話『帰省なのだから、楽しもう』

 あれから数日が過ぎ、勇者の功績が国内に広がっていた。

 魔王直属の第七黒魔中、遂に六体目を討伐したらしい。

 この功績は、一言では表せないほどには凄く、人類にとって希望の星となる。

 それに比べ、私達の部隊は特に功績を上げることはなく、派遣先で快勝を繰り返していた。


 次の任務は激化する予定らしく、王命により、部隊に数日の休暇が設けられた。

 最近帰省できていなかった私は、この期に実家に顔を出すことにした。


「お母さん、お父さん、ただいま」

「おかえりアイナ。無事で何よりだ」

「あぁ、アイナ、本当に無事なのよね。体調を崩したりしてない? ちゃんとご飯は食べてる?」

「そんなに心配しなくても大丈夫よお母さん」


 顔を見せるなり私に飛び付いて体中を触診し始める母を宥め、食卓に腰を掛けた。


「あ、いけないわ。今直ぐに温かい紅茶を淹れるわね」


 そういうと目の前の台所でせっせと作業を開始する母、いつもと変わらない様子に少し安堵する。

 お母さんとお父さんは私の心配をしてくれるけど、私だって同じぐらいには心配してるんだよ。


「それはそうと、お金はしっかり渡しているはずなんだけど、いつになったら引っ越しを考えてくれるの?」

「ああ、そのことか。俺から言えるのは、それは考えていない、だけだな」

「どうして……」


 あわてんぼうで常にせかせかと動いている母。

 それとは真逆で頑固とまでは言わずとも、自分の意思を曲げない腕組みが似合う父。

 ブリギット一家はそこまで裕福ではなく、農場を営みながら様々な副業をして生計を立てている。

 自慢ではないが、私の給金はかなりのものだ。二人がその気になれば貴族が住むような屋敷を建てることだって夢ではないはず。

 でも、親としての譲れないものがあるのか、私が渡すお金を絶対に使おうとしてくれない。

 二人の苦労をちゃんと知っているからこそ、少しでも楽をして欲しいのだけれど。


「もしかして、また貯めてるの?」

「もちろんそうよ。だって好きに使って良いのよね?」

「そうだぞ、お前の結婚する時の資金にするんだ。最高の計画だよな母さん」

「ええ父さんは天才だわ。それにそう遠くなさそうですしね」


 また始まった。

 毎度のことながらこの話題だけは頭を悩ませる。

 母さんはウキウキし始めるし、父さんは顎を撫でて得意気になっているし。


「クディアくんだっけ? 最近どうなのよ、仲良くしてる? また今度会わせてちょうだいな」

「そうだぞ。他の男なら許さないが、あの青年ならうちの娘を譲ってやっても良いぞ」

「もーう、またその話? だから、彼とはそういうのじゃないって!」


 二人は意地悪だわ、私が動揺する姿を愉しんでいるに違いないのよ。

 彼とは住んでる世界があまりにも違いすぎる。

 彼に相応しいのは、姫や貴族令嬢のような高貴な身分の人よ。私なんて……。


「おぉ、そういえば、今回の休暇はどれくらいなんだ?」

「あと数日くらいかな?」

「あら、いつもだと一日二日なのに、珍しいわね」

「今度の任務は大変みたいで、そのためのだってー」


 私の言葉を聞いた二人は顔に影を落とし、口を強く結んでいる。

 概要は明かせないけど、察するものがあったようだ。


「大丈夫そうなのか」

「ええ、私にはこの子が居るから問題ないわよ」

「そうね、そうよね。大丈夫よ、きっと大丈夫」


 私は椅子に立てかけた聖剣を撫でながらそう言うと、二人の顔に明かりが戻る。

 それからは、懐かしい思い出や、結婚後の将来設計などの話をした。

 私にその気は無くても、二人はノリノリで話しを進め、私以上に楽しそう。

 こういう時って、父親は最後の最後まで首を縦に振らないものって聞いたことがあるんだけれど?



 あっという間に休暇は終わりを向かえ、実家を後にした。

 部隊に合流した私は、テキパキと体を動かして出撃の準備を整え始める。

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