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2  キャノン異嬢様~機動仙奏音~

ギフトの価値ですべてが決まる世界。

成人の儀を終えると、身体のなかから特殊な力が湧いてくる。

人はそれを神から与えられた「ギフト」と呼ぶ。

ある者には、魔法のギフト、ある者には魔法石の加工などの特別な技術。


人々はそれぞれのギフトを活用して人生を切り開いていく。




「どうして、わたくしにはギフトがありませんのぉ~!」


ドリルツインテールの特徴的な髪型をしたお嬢様、機動仙奏音(きどうせんかのん)は言った。

彼女は今日、成人の儀を終えた。本来ならギフトに覚醒するはずだ。

しかし、彼女はギフトに目覚めなかった。

どんな極悪非道の悪人でも平等に、神からギフトは与えられる。

それは世界のルールであった。


「奏音、一人娘のおまえにギフトがないとなれば、我が機動仙家は破滅だ……

本来はおまえの成人の儀を祝う明日のパーティーで、きっと婚約破棄されてしまう」


機動仙家の当主である奏音の父親は、すすり泣く。

儀式を終えてもギフトの与えられない人間など、神の定めた世界の摂理に違反する存在。この世界にとっての反逆者だ。


今日は、貴族の地位にいるけれども、一人娘にギフトがないと分かってしまった。明日には、奏音の貴族の地位は剥奪。考えられる最良のシチュエーションでそれだ。

下手すれば一族郎党処刑される可能性もある。


「お館様、お嘆きなるのはまだ尚早かと。王族法により、準王族ならびにその一族へ処罰は禁止されております。

本来なら、王族の婚約者を守るための規定ですけれど、これを逆用しましょう」


機動仙家に長年仕えるセバスは言った。


「流石です、セバス。

嘆いてばかりいても、事態は改善しません。奏音はわたしのかわいい一人娘なのです。殺させてたまるものですか」


娘と瓜二つのドリルツインテールを持つ彼女の母は、なにか重たい物体の入った袋を持ってやってきた。

病人の彼女は普段は、寝込んでいる。屋敷全体をおおう不穏な雰囲気に気がつき、何事かと苦痛に耐えながらやってきた。


「お母様……お体の調子が悪いんでしょう……病室にお戻りに」


「セバスの言うように、王族法を逆用するのです。

奏音、あなたは第一王子と婚約していますね。明日のパーティーで、王子が婚約破棄を宣言すれば、あなたは準王族ではなくなります。

宮廷はきっと、その瞬間にあなたを逮捕し、処刑するでしょう」母は言った。


「どうしようもありませんじゃありませんか」


「いえ、王子は、王族法という縄であなたを縛っているつもりですけれど、その縄は彼の首にかかっています」


遠まわしな表現で母は言った。


「……彼をヴァルハラへご案内すればいいのですね」奏音は言った。


この一族、脳筋であった。


「そうです。王子をヴァルハラへご案内すれば、あなたは王子の未亡人。

王族法において、未亡人は準王族の扱いをうけます。準王族を処罰することはできないため、あなたやお父様、セバスたちは処刑されません」


「完璧な作戦だ……」


父は泣きやむと、言った。


「でも、どうやって!

彼はギフトを持つ魔術師なのよ。それに彼の護衛の騎士たちは、剣聖や呪術師なんて最強スキル持ちで編成されていますのよ」


パシィィン


乾いた音が部屋に響く。

奏音はあっけにとられて、母を見つめる。

母は、奏音を平手打ちしたのだ。貴族社会ではありえない光景である。


「あなたも機動仙家の一人娘なら、機動戦で死になさい!」母は言った。


「お言葉ですが、フラーも機動戦においては、攻撃をしようとする際は、まず防御について考えるべきと言っています!」


「攻撃は最大の防御!それでよろしいじゃありませんの。

機動戦とは、心のありようです。

それは神スキルを手にれて、あぐらをかいているヤツらのタ○キ○をブッ潰してやりてェ~~ッ、ていう攻撃的精神なのよ」


「それが機動仙家の誇り……」


奏音はツバを飲み込み、深くうずいた。


「覚悟ができたなら、これをうけとりなさい」


母が渡した荷物には、2本のパイプのような金属が入っていた。古いものであるけれど、錆びてはいない。コーティングも剥げてはおらず、丁寧に保管されていたようだ。


「これは、一体なんですの?」


「あなたもそのドリルツインテールを継ぐ者。

自然と身体が反応してくれる。安心しなさい」


母は、そう言い終えると床に倒れた。奏音と父がかけよる。


「この症状、婚約破棄ショック性魔力欠乏症です。婚約破棄によるショックが魔力回路を圧迫して」


医師免許を持っているセバスは言った。


「おまえ……病弱なのに、無理をして出てきたからだ。奏音のことでずいぶん心配していたのに、強がって……」父は母を抱いて言った。


「奏音……近くにおいで」母は小さな声で言った。


「私のかわいい奏音。私にとって、あなたは5個師団に相当したわ……

もう少し長生きして、あなたの電撃戦を見たかった……」


母はそうつぶやいて奏音のドリルツインテールに手を伸ばす。

髪をすくように母の手は、奏音のさらりとした髪をなで、ツインテールの先端まできた時、その手から力は失われた。


「お母様ッ!おかあさま~~~ッ!

許せない。許せませんわ、王子。わたくしを婚約破棄するだけはあきたらず、母の命までもッ!!」


奏音は母親を抱きながら、泣いた。

彼女の頬から流れ落ちた涙は、母の残した金属パイプのなかに流れ込んでいった。












貴族の主催するパーティーとは闘争の場である。

それは決して、比喩などではない。討論から決闘まで、精神的にも肉体的にも厳しい戦いが待っている。


ましては、今宵のパーティーは、王子が機動仙奏音に対し、婚約破棄を行う予定。

パーティーを主導する王子は裸一貫でやってくるわけはない。

彼は精鋭揃いの側近のなかの最精鋭「プリンス3人衆」を招集した。王族としての人脈と財力を存分に用いて雇った自慢の護衛だ。


「武門の機動仙家のことだからよぉ、手練れの連中が来ると思ったのに、スキルなしの婚約者様だけかよぉ」


プリンス3人衆のひとり、呪術師は言った。紳士と令嬢ばかりのパーティー会場に似合わない粗野な雰囲気をまとい、テーブルマナーを無視してフルーツを食べている。

王子の護衛ということで、注意する人間は誰もいない。


反対側のテーブルには、他の貴族と談笑する奏音の姿があった。

他の参加者たちには、彼女は『スキルなし』であると知れ渡っているのに、堂々とした態度だ。

彼女と話している貴族たちも、内心では彼女のことを哀れんだり、蔑んだりしているのは間違いない。


「3人衆全員が揃った。準備はいいな?

レフリー、婚約破棄をおこないたい!」


あらかじめ呼んでおいたレフリーに向けて、王子は言った。


貴族社会においては、レフリーのジャッジをもってはじめて婚約破棄が正式に認められる。

そのため婚約破棄をレフリーに見届けてもらう必要がある。

パーティーの参加者たちは、会場の隅に置かれた椅子に腰掛け、会場の中央に設営されたリングに熱い視線をおくる。


レフリーをはさんで、奏音と皇子たちは向かい合う。


「ルール無用のデスマッチ方式で行います。勝者は婚約を破棄するかどうか決めることができます。

両陣営、準備はよろしいですね?

それでは……始めいッッッッ!!!!」レフリーは告げた。


「俺から行かせてもらうとするか……」


黒マントをかぶった大柄の男は言った。


「呪術発動『スキル封じ』!!」


呪術師が手をかざすと黒いオーラが出現し、奏音の身体を覆う。


「あっけないが、これで終わりだ。

死ぬ間際に教えてやろう。俺のスキルは『スキル封じ』。相手のスキルを体内で暴走させるスキルだ。自分のスキルにやられて死ね。ギャハハハ」


黒いオーラを浴びても、奏音は倒れない。


「……効かないですわね。わたくしは『スキルなし』ですから」奏音はニヤリと笑う。


「しまったっ!……とでも言わせたいつもりか?

俺のスキルは下準備の役割にすぎない。言うなら、スープをつくるときにアクをとるような役割だ。それも大事だけどよ。メインはどう調理するかだ。

俺にとってのメインは、格闘戦だッ!スキルは俺のという極上の素材を引き立てる調味料にすぎねえ」


サッカーボールほどの直径はあろう二の腕が、マントの間から見える。

脈打つ血管が浮き出て、筋肉は盛り上がる。

彼は腰を入れて、その巨大な拳を放つ。


「お母様、わたくし奏音を天国から見ていてください」


奏音のドリルツインテールは、その付け根を中心に回転する。先端は重力に逆らって、ちょうど地面対して直角になるようにのびる。

ツインテールの先端が、一瞬、光をはなつ。


ドオンと深く響く音がし、周囲には焼けたようなにおいが立ち込めた。


呪術師は倒れた。正確に言うならば、呪術師の下半身と思われる肉塊が、主人を失って床に転がった。彼の鍛え抜かれた自慢の上半身は、あとかたもなく消滅してしまった。


「くっ、魔道具をつかったのか!?

どんな手品を使ったのかしらないが、二度はない。双子たちよ、行け!」王子は言った。


奏音の家は、今の王家成立以前から続く武門の家だ。攻撃型の魔道具を隠しもっていてもおかしくはない。

ただ、魔道具もスキルのエネルギーを利用して発動する。そのため、スキルなしの奏音は魔道具にエネルギーを装填することはできない。

そのため、一発だけだろうと判断する。


「我らは、相手を無力化して殴るしか能のない呪術師とは違う。

王子の最強の盾にして、矛である。王子を貴様からお守りし、貴様を殺すのが今回の使命」双子のうち剣を持っている兄は言った。


「兄者は『剣聖』スキル持ち。弟である我は、『SSS級回復魔法術師』スキルを持つ。

貴様の手品をもって兄者に傷をつけたとしても、我が治癒する。我を狙うというのなら、兄者の剣技が我を守護する。

ははは……他に手品があろうとなかろうと、貴様に勝ち目はないのだ」

回復魔法術師らしく、ツバの長い帽子をかぶり、ローブを着た弟は言った。


「お母様、死してもなお、わたくしを助けてくださるのですね。

お母様はかつて言いました。『双子キャラは同時に倒せ」と」


ドリルツインテールはふたたび動き始め、左のツインテールは双子の兄、右のツインテールは弟に照準をあわせる。


ツインテールの先端は光り、遅れて爆発音がする。

呪術師と同じように、双子たちの上半身は吹き飛んだ。


「馬鹿なっ、彼らは最強のスキル持ち。

ツインテールの先端から白い煙がのぼっている、もしやっ!」


王子がドリル上のツインテールをよくみると、内部に砲身がはいっているではないか。


「ドリル状のツインテールのなかに砲身を仕込み、そのクルクルとした縦ロールはライフリングの役割を果たしているのか……」王子は言った。




特別コーナー<教えて!もの知り異嬢様博士>


モブ君「どうしてドリルツインテールのお嬢様キャラは似たような髪型をしているの?」


異嬢様博士「いいところに気がついたね、モブ君。ここまでのお話のなかにヒントが入っているよ、探してみよう」


モブ君「う~ん、お母さんと奏音さんは同じ髪型をしているんだよね。ということは、お母さんと同じ砲身を使うためかなぁ」


異嬢様博士「ほぼ正解だよ。正確に言うなら、『互換性を持たせるためかな』

お嬢様がツインテールに装着する砲身は、その長さや口径が統一されているんだ。なんとこれは世界中で一緒なんだよ。

例えば、北半球に住むお嬢様が、南半球に住むお嬢様から砲身を借りたとしても、何の問題もなく実戦投入できるんだ」


モブ君「統一規格に準じたドリルツインテールの髪型にすることで、お嬢様たちはどんな場所でも、砲身を手に入れて砲兵になることができるんだね。

つまり、ドリルツインテールのお嬢様たちは潜在的に武力を持つ存在。だとしたら、僕たちの市民社会は、彼女たちがその気になればいつでも……」


異嬢様「余計な知識は身を滅ぼしますわよ。(隠し持っていた拳銃の引き金を引く)」


モブ君「グフッ……」






にらみ合う王子と奏音。


ツインテールは上下左右に動いて、王子に標準を合わせる。


「防御魔法展開!!!」


王子はありったけの魔力を注ぎ込んで防御魔法を展開する。


両肩のツインテールから砲弾を注ぎ込む奏音。それを防御する王子。

持久戦に突入する。


「私の魔力は尽きかけている。なのに貴女は、なぜ平気なんだ。

私の予想では、ひたすら撃ち続けた砲身は真っ赤に焼けて、その熱に耐えきれず貴女が先にギブアップするはずだった……」


「昨日までなら、その予想は正しいわね。

王子のせいで亡くなったお母様がわたくしを助けてくれている」


王子はよく砲身を見つめると、熱した砲身の周囲に水がはりついているのに気がついた。


「これはお母様の死を嘆いたわたくしの涙よ」


「悲しみの涙が、砲身の熱を逃している。水冷の役割を果たしているというのか!?

どうして、この私が……『スキルなし』に敗れるはずはないッ!」


「まだ気がつかないの?」


奏音は王子に、あわれみと優しさが混じった視線を向ける。


「この世界のスキルは、神から与えられる。砲兵は戦場の神。

つまり、砲兵=神>スキル持ち ということなのよ」


「なっ、何だとぉぉッッッ!!」


世界の隠された真理に気がついた王子は驚愕し、血の気がひく。


「王子よ、お死になさい。そして、火力を崇めなさい」


ツインテールから放たれた砲弾は、防御魔法を貫通し、王子をミンチへ変えた。


「勝者、機動仙奏音!婚約破棄不成立!」レフリーは叫んだ。










それから数カ月後……


冒険者ギルドの片隅で、ドリルツインテールの髪型をした冒険者は暴力をふるわれていた。


「このグズがっ!てめえのおかげで、ワイバーンが逃げちまったじゃねえか」


髭面の屈強な男が、彼女の腹部に蹴りをいれる。冒険者用の金属の入った靴先が、装備を売り払ってしまった彼女の無防備な胴体にめり込む。


「グッ……ごほっ、ほごっ……私は、ちゃんと貴方の指示通りに魔法を……」


「うるせぇんだよっ!実家から追放された、雑魚スキルのお前を雇ってやってるのは俺様なんだぜ?文句あるのか?」


このゲスな男はこの冒険者ギルドの顔役である。

報復を恐れて、周囲は見て見ぬふりだ。


「だから、報酬の9割は俺がもらっておくぜ。迷惑料だ」


「折半のはずじゃあ……

それに、依頼はワイバーンの撃退のはず。討伐までは任務外じゃないのですか?」


「俺はなあ、あのワイバーンを討伐して素材を手に入れたかったんだよ。あの素材を売れば、当分、姉ちゃんたちと遊べるはずだったのに……パアだっ!

思い出したら、もっと腹が立ってきたぜ」


男は彼女のツインテールをつかんで髪を引っ張り、容赦なく力まかせに彼女を壁に叩きつけた。


「やっぱり報酬は全額もらってくぜ」


「そんな……泊まるお金すら」


「お嬢様として、いままで良いベッドで寝てきたんだろ?その分、野宿しなっ!」


男は食べ物すら不足してやつれた彼女をほうって、歓楽街に向けて歩いて行く。その足で、散財するつもりだろう。





「うっ……うう。どうしてこんな……ひどい目に……」


彼女は座り込んだまま泣いていた。すると肩に手が置かれる。

クエスト帰りの乱暴な冒険者だろうか、と視線を向ける。

そこには優しい顔をしたお嬢様がいた。よく手入れされた立派なドリルツインテールの髪型をしている。機動仙奏音である。


「今のあなたは、昔のわたくしと同じ。

世界は理不尽よ。でも、火力は裏切らない」


奏音は、自らのドリルツインテールのなかから、一本の砲身をとりだす。


「私には、そんなすごい武器は扱えません。初級魔法しか使えない雑魚スキル持ちなんですよ?」


「大丈夫よ、お嬢様なら誰でも火力は平等」


奏音は、冒険者の汚れてぼさぼさになったツインテールをきれいにする。濡れタオルで優しく汚れを落とし、櫛をいれて整える。

そして、ツインテールの中心に砲身を挿入する。


「初めてだから、緊張すると思うけれど、大丈夫。

ゆっくりと照準をあわせるの。あなたにいじわるしたあの男は、まだ有効射程距離だから落ち着いて。

そうそう、いいセンスね。流石お嬢様だわ」


再び輝きをとりもどした冒険者のツインテールはゆっくりと動いていく。


「私、もうお嬢様じゃないのです……家も追放されて……」


「お嬢様とは、貴族だとか、レアスキル持ちだとかで決まるものじゃあないですわ。

お嬢様とは『全部、火力で解決してぇ~』と思っているエレガントな人のことですの」


「!!!」


冒険者は目を大きく開いて、コクリとうなずく。


「分かったなら一緒に、わたくしと一緒に撃ちましょう」


2人のお嬢様が並び立つ。

彼女たちのツインテールは、まるで戦車の砲身のように動き、ターゲットを定める。


「「ファイエル!!!」」


その日、街に大きな花火があがった。


キャノン砲を持つお嬢様。

キャノン異嬢様は、これからも戦場の女神であり続けるのだ。


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