07.同じ
「…………は…………?」
ちょっと待ってくれ。
どうやら俺の耳がどうかしてしまったらしい。
ここは冷静に聞き間違いを認め、もう一度聞きなおそうではないか。
「えっと、悪い。よく聞こえなかったからもう一度言ってくれないか?」
「……だから、私の彼氏になりなさいと言ったのよ」
……あれぇ!?
聞き間違いじゃない?
「じょ、冗談にしては結構大胆なこと言うんだな。お前……」
「冗談じゃないんだけど」
「え……」
待て待て。
冗談じゃないだと?
でもあの黒聖宝華だぞ?
俺と比べれば光と影、まさに雲の上の存在なのに……
「あ、一応言っておくけど私はあんたのことは興味はあるけど好意は微塵もないから。彼氏になってほしいのはあくまで私の目的ためよ」
「は? 目的?」
「そ。だから変に勘違いしないでよね。というかそもそも私があんたみたいな冴えない男を好きになるわけないじゃない」
「あ……あぁ……まぁ、そう……だよな」
別に期待はしてなかったけど、心に大きなダメージが。
面と向かって言われると、流石に響くなぁ……
「でもあんたが彼氏になってくれたらそれなりの見返りは用意するわよ」
「見返り?」
「まず、あんたのその特異体質を直してあげる」
「え、直せるのか!? この体質を!」
「ちょ、ちょっと近い……近いって! ぶっ殺すわよ!」
「あ、悪い。つい……」
今までどんな医者にかかってもお手上げだったこの体質が直せると思うとつい興奮してしまった。
「全く。話を続けるけど、利点はもう一つあるわ」
「利点?」
「あんた、普通の学園生活を望んでいるのよね?」
「まぁそれはそうだけど……」
「その願いももれなく叶うわ。この私がバックにいれば普通の学園生活を送ることが出来る。もちろん外でも常に黒聖財閥の人間に監視させるから下手な輩に絡まれることもない」
「監視って……」
でも普通の学園生活を送ることが出来る……か。
俺にとっては願ってもないことだ。
今までの俺の学園生活は本当に悲惨なものだった。
小中の頃は例の体質のせいで俺はイジメに遭っていた。
全ては誤解だったんだけど、誰も信じてはくれなかったんだ。
そして時は経ち、高校は自分の過去を払拭するために地方から都内に上京。
高校デビューを果たそうと心躍らせていた。
……にも関わらず例の体質(その2)が発現。
見事に入学早々から滑りまくったわけだ。
周りからは軽蔑の目で見られ、時間が経つにつれて変な噂がいくつも跋扈し始め、その目に拍車がかかる。
おかげさまで誰かに相談しようにもそういったことができる友人なんてできなかった。
先生でさえ、俺が目を合わせるだけで委縮してしまうくらいだ。
……待てよ、委縮……?
「あ、あのさ黒聖」
「なによ?」
「ふと思ったんだけど、お前は平気なのか?」
「平気って?」
「俺のことだよ。その……オーラとか」
「ああ、それなら問題ないわ」
彼女は平然と答えた。
「だって私も同じだもの」
「同じ……?」
黒聖はそういうと左手の薬指に嵌めていた指輪を取った。
次回で1章完結になります。