06.条件
午後の授業もなんの変化もなく過ぎ去っていく。
放課後になると、一日の束縛から解放されたことから自然と活気で溢れはじめる。
普通の学生なら、この後友達と遊びに行ったり、部活動に励んだりとそれぞれの青春を謳歌することだろう。
でもそれが当たり前であってしかるべきなのだ。
なのに……
「……これはどういうことだ?」
俺は今、生徒会室にいる。
律儀に昼休みの約束をしっかりと守ってきたわけだが、入室早々椅子に身体を縛られ、身動きのできない状態にされていた。
「一応の対処よ。逃げられたら困るし」
「信用ゼロだな……」
別に逃げ出すつもりは毛頭ないが、向こうはその可能性を予想している。
昼休みの出来事はこの人にとってそれだけマズイところを見られたってわけだ。
「で、俺をここに呼び出した理由は?」
「まずは口封じのためよ」
「昼休みのアレか? 昼休みの時にも言ったけど、別に俺は誰かに喋る気はない」
「本当かしらね」
疑いの眼差しが向けられる。
「本当だ。そもそも仮に喋ろうとしても誰も俺の話なんか聞かないだろうよ」
「それもそうね。よくよく考えれば無用な心配だったわ」
「あっさりだな……」
逆に腹立つな。
やっぱり喋ってしまおうか。
「まぁ仮に喋ったとしたらそれ相応の報いを受けてもらうから、一応覚悟しておくことね」
「あぁ、分かったよ」
そこまで必死になることか?
別に誰だって秘密の一つや二つあるだろう。
確かにあの黒聖にあんな裏の顔があったのは驚いたけどさ。
「んで、話はそれだけか?」
「いえ、まだあるわ」
黒聖は俺の眼をじっと見つめると、
「貴方と一度、話してみたかったのよ」
そう言ってきた。
「人を縛り付けておいて話したいって面白い冗談だな」
「まぁまぁそう警戒しないで。あんた、中々骨があるみたいだから興味を持ったの。まさか私の近接格闘術を防ぎきるなんてね」
「そりゃどうも。俺も色んな意味でお前に興味を持ったけどな。学園の聖女様があんなに横暴な人間だったなんて」
「人聞き悪いわね。あれは正当な正義的行為よ」
「正義的ねぇ……」
あの行動に微塵も正義は感じられなかったけどな。
「それで茶番はもういいから、本題を話してくれ」
早く帰ってソシャゲのイベント回したいんだから。
「はぁ……分かったわよ。案外せっかちなのね」
ため息を一つつくと、彼女は会長席から腰を上げる。
スタスタと歩み寄り、俺の目の前でピタリと止まると、真剣な眼差しを向けてくる。
「魔白優斗」
「な、なんだ……?」
突然のフルネーム呼びに少し戸惑いながらも聞き返すと、数秒ほどの間が空く。
しばらく無言の空間が続くと、ようやく黒聖の口が開いた。
「あんた、私の彼氏になりなさい」