04.最悪の事態
「な、なんだあれは……」
全身黒いローブに身を包んだ謎の人物、そして片方の丸刈りの生徒は何故か正座をさせられていた。
「本当ね? もうしないと約束できるのね?」
「は、はい! 誓ってしません!」
「ならいいわ。さっさとこの場から消えなさい」
そういってローブの生徒が背を向けた瞬間、
「隙ありぃ!!!」
うわ、せこい!
というのも後ろを向いた瞬間に丸刈り頭が反撃に出たのだ。
「やばい、このままじゃ……」
一瞬その場に出かけた……のだが。
「ぐはっ!!」
え……?
なんということか、気が付けば丸刈り野郎の動きはピタリと止まっていた。
よく見ればローブの生徒のエルボーが彼の脇腹にクリティカルヒットしていたのだ。
「ふん、愚かね」
丸刈り野郎はその一撃で完全に気を失い、地に伏す。
「マジかよ……」
しかもいつの間にあんな一撃を……
ずっと見ていたはずなのに全然見えなかったぞ。
「レイナ、後処理を」
今度はローブの生徒がそう呟くと、木陰から数人のメイド服を着た女性がズラリと現れ、男を回収していった。
「な、なんなんだよ全く……」
これはもしやヤバい現場を見てしまったのかもしれない。
そう悟り、この場を離れようとしたのだが……
バキッッ!!!!
「……ッ!???」
一歩踏んだ先に何とも都合の良い木の枝が。
その音が響いた瞬間、状況は一転する。
「やば、早く逃げない――と」
だがこの時点でもう遅かった。
前を向いた瞬間、俺の目の前には既に奴の姿があったのだ。
さっきまで見ていたローブの生徒。
気づけば向こうはもう既に臨戦態勢に入っていた。
「ま、マジかよ……ぐっ!!」
しかし俺も伊達に人生を生きていない。
刹那のタイミングで何とか一撃を防ぐ。
「あっぶねぇ……」
「へぇ、今のを防ぐんだ。普段ならさっきの一撃でチェックメイトなのに」
「怖い言い回しをするな。てか、いきなり何するんだ!」
「なにって? 覗き魔を退治するのはれっきとした正義的行為でしょ?」
「いや、俺は好きで覗いたわけじゃ……」
「問答無用。お前はここでぶち殺す!」
「おい!」
もはや聞く耳を持たないということか。
しかもこいつ……俺を本気で殺りにきている。
長年の勘で何となく分かる。
何せ中学までは毎日嫌というほど色んな奴に絡まれてきたからな。
おかげさまで防衛能力はそこそこあるんだ。
「でもこれ以上は……」
相手の速さで圧倒され、こっちは防ぐので精一杯だった。
それにとにかく強い。
一撃防いだだけでも身体全身に痺れが伝播するくらいだ。
長丁場になればなるほど、俺の負けが確定する。
となれば、ここはもう……
「悪い。お前に恨みはないけど、これは正当防衛なんだ」
「なに?」
俺は姿勢を低く保ち、勢いをつけて相手を身体全体で押し倒す。
「くそっ、貴様……!」
「これでチェックメイト……って、は……?」
押し倒し、相手の動きは完全に封じた。
そこまでは良かった。
だが今の俺の目の前にはそんなことなど全部吹っ飛ぶような光景が広がっていたのだ。
「お、お前……」
「え、はっ……!」
向こうも気づいたのか、眼を見開き俺を見つめてくる。
さっきまでは思いもしなかった。
が、フードという名のベールが解かれた今、その姿は白日の下に晒された。
思いもよらない人物。
間違っても型に当てはまらないような人物。
さっきまでのやり取りとは正反対の世界を生きているはずの人物。
俺は彼女を見ながら、ただ茫然としていた。
「黒聖……宝華……」
それが、ローブの生徒の正体だった。
本日の更新はここまでになります!