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六星高校妖怪研究部~迷子の座敷わらし~  作者: 望月おと
【宝物か、ガラクタか】
2/15

"苦手"の真意


 夏が近づいていることを証明するように、ここ連日の天気は雨模様。しかし、まだ梅雨入りしたという予報は全国で出されていない。今日もまた分厚い雲の上に太陽は隠れ、天気の主役の座を獲得した雨がザーザーと音を立て降り続けている。

 

 聖海宅で部長が怪我を負ってから、五日が過ぎた。深手だったこともあり、彼は学校を休んでいる。


「雷くん、大丈夫なんでしょうか?」

「ザックリいってましたからね……。心配です」


 昼休み、校内に設けられた図書室に部長以外の六星高校妖怪研究部の部員たちは集まっていた。室内の外からは校内にいる生徒たちの賑やかな声が響いている。だが、広々とした図書室内には聖海たち以外誰もいない。部長は風紀委員会に所属しているが、彼以外のメンバーは【図書委員会】に所属しており、本棚整理と称して、本日は図書室を閉めている。


「心配いらないって! どうせ、もうピンピンしてるから」

「……風見さん、立花さんの話聞いてた? ザックリ斬られてるんだよ、刀で。まだ五日しか経ってないのに、そんな早く元気に──」

「えーすけこそ、俺の話聞いてなかったんじゃない? 龍ちゃんの回復力、なめないほうがいいよ?」

「別に、なめてない。どう考えても、こんなに早く回復してたら、おかしいでしょ?」


 風見と影助の言い合いを副部長は一刀両断した。


「ここで、グダグダ言ってても仕方ないですよ。風見くん、雷くんに連絡を」

「え!? 俺が連絡すんの?」

「はい。だって、あなたたち──【友達】、ですよね?」

「まぁ、そうだけど……。で、なんて連絡すんの?」

「本日、お見舞いに上がるとお伝えください」

「……それくらい自分で言えばいいじゃんか」

「風見くん。今、何か(おっしゃ)いました?」

「べっつに~」


 「これだから、お嬢様は」そう声に出さずとも不服そうな表情を浮かべながら、副部長に言われた通り、風見は軽々とリズミカルな指の動きで画面をタップし、メールを作成していく。「これでよし!」そう風見が言った矢先、彼の携帯が振動を始めた。


「ちょっ!? なに、早くない?」

「えっ!? もう部長から電話着たんですか!?」

「とりあえず、風見くん。電話に出てください」

「風見さん、ほら早く!」


 部員たちに急かされながら、風見は電話に出た。──が、先に発言したのは、電話越しの部長だった。


「颯志……誰が【死んでる】って?」

「え? いやー、だって──」

「問答無用だ。久しぶりに稽古(けいこ)してやろう。放課後、真っ先に俺の家に来い」

「はっ!? あれだけは、マジで勘弁!!」

「つべこべ言うな。放課後、待ってるからな。他の部員たちにも『待っている』と伝えてくれ。それじゃあな」


 電話を終えた風見は、どっと疲れた顔をしていた。「どうせ、部長に【死んだ?】とかバカな冗談を送ったんでしょ? 自業自得だね」察しのいい影助が項垂れている風見にとどめを刺した。


 「風見くんのことは放っておいて、改めて放課後に雷くんのお宅でお会いしましょう」副部長が場を閉め、解散となった。聖海と影助はクラスは別だが同じ学年のため、一緒に教室へと向かっていた。


 真っ直ぐ続く長い廊下は、開けたままになっている窓から入り込んだ雨の匂いで満ちていた。そこの床だけ濡れている。聖海はいそいそと雨が降り注ぐ窓へ向かい、ぴしゃりと閉じた。校舎を叩く雨音を聞きながら、再び歩を進めていく。


「立花さんて意外と几帳面だよね。窓、放置するかと思ったのに」

「几帳面ではないよ。床に大きな水たまりが出来たら、廊下を歩く人が困るから」

「……やさしいんだね、立花さんは」

「そうかな?」

「うん。風見さんとは、大違い」

「そう言えば、黒波くんと風見先輩は仲良いよね」

「……は? 立花さん、大丈夫? どうしたら、俺と風見さんが仲いいように見えるの?」

「え? 仲悪いの? いつも楽しそうに話してるのに」

「楽しそうに話してる……? なるほどね。立花さんには、そう映ってるんだ……。はっきり言うけど、俺はあの人【苦手】だから」

「そうなの!?」

「当たり前でしょ。あんな風みたいに自由気ままで軽い人のどこがいいって言うのさ。先輩としても人としても、微塵(みじん)も尊敬できない」

「そこまで言わなくても……」


 影助は歩いていた足を止め、廊下の窓から外を眺めた。校庭にはいくつもの水溜まりができ、空から降ってくる水滴に波紋を作っている。


「立花さんは、何も知らないからね。あの人──風見さんには、気をつけなよ」

「え? どうして?」

「……その内、嫌でも分かる日が来るよ」


 再び、影助は歩き出し、彼の背を聖海は追いかけた。


 影助の言う通り、風見は風のように掴み所がない人物だと言えるだろう。しかし、気を張るような相手ではないと聖海は思っていた。自由気ままで気さくな風見。どちらかと言えば、話しやすい相手である。影助と対極にいる人物だから、彼は【苦手】だと言ったのだと聖海は踏んだが、『風見さんには気をつけなよ』の一言で、彼が感情で【苦手】という言葉を選んだのではないことが分かった。


 隣を歩く影助に深く聞いてみたい気持ちもあったが、彼から【これ以上聞くな】という見えない圧力を感じ、何も聞けぬまま、「それじゃ、放課後に」教室の前で彼と別れた。


 午後の授業より、聖海が気になるのは風見のこと。出会って日が浅いからかもしれないが、楽観的な人物という印象が強い。ただ見た目が不良なこともあり、妖研メンバー以外との交流は無いに等しい。


 というのも、昨日(さくじつ)。聖海と風見が図書当番で、昼休みと放課後に図書室で本の貸し出しを(おこな)ったのだが、なぜか生徒は風見を避け、聖海側に並び、列が出来てしまった。


「俺、人気無さすぎじゃない!?」

「絶対、見た目のせいですよ!」

「え? そんなに変?」

「いや、変じゃないですけど……。近寄れない空気は出てます」

「そっか! じゃあ、()()()()!」


 何がいいのか聞こうとしたのだが、その問いが来ることを察してか風見は「返却された本、棚に戻してくる」と席を立ってしまい、最後まで彼に聞くことは叶わなかった。この【よかった】を紐解こうと、さきほど影助に聖海は「風見先輩と仲がいいよね」と切り出したのだが、彼から返ってきた答えに謎はさらに深まってしまった。


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