謎の少年
「入るぞ」の声と同時に聖海が休んでいる部屋の襖が開き、部長が現れた。すでに聖海は布団から出て、烏が着替えとして用意してくれた部長のジャージを着ていた。今すぐにでも出かけられる準備は整っている。
「ジャージ、お借りしました」
「もう大丈夫なのか?」
「私のことは大丈夫です! それより、急がないと! 黒い服装の男たちが現れて、座敷わらしちゃんが連れていかれました! ごめんなさい。私の力不足です……」
「いや、お前のせいじゃない。相手が悪かった。……立花、本当に大丈夫なんだな?」
「私は大丈夫です! 急いで案内してください! お屋敷広すぎて、身動き取れなかったんですよ!」
「勝手に動かなくてよかったよ。お前も少しは成長したようだな」
「そりゃ私だって成長しますよ! まだまだ成長期なんですから!」
「急ごう。座敷わらしは、おそらくツルさんの家にいる」部長と玄関を目指し、広い屋敷を急ぐ。右・左と角を曲がっていく。雷家の造りはお城のようだ。部屋数は多く、攻め込まれたときに備えたような ややこしい造りになっている。そのため、普段来客を通す間は決まっており、だいたい玄関から一直線上にある和室に通すことになっている。今回、聖海が奇襲されたことを受け、烏は安全である奥の間に聖海を寝かせた。目を覚ました聖海は、いそいそと着替え、座敷わらし奪還のために部屋の外に出るも、右も左も同じ造りで、じっとしていたほうが賢明だと判断し、誰かが来るのを今か今かと待ちわびていた。
長い廊下を早歩きで進んでいく。
「それで、俗は何人だった?」
「座敷わらしちゃんを連れ去った人と私を背後から襲った人の二人だったと思います。連れ去った人は、黒髪で丸渕のメガネをかけていて、学級委員長とか生徒会長とか、みんなのまとめ役みたいな感じの人でした。ニコニコしていて愛嬌がいい人でしたよ。でも、座敷わらしちゃんを連れ去った悪者ですけどね! 私を襲った人は、背後からだったから見てません」
「……たった二人か。で、座敷わらしを連れ去った奴とは何か話したか?」
「えっと……。『こんにちは。お邪魔するね。君も妖研の子?』と聞かれたので、『はい。そうですけど』と言ったら、『そう。雷と風見は元気かな? あ、俺が来たってちゃんと伝えてね。俺の名前は──』」
「……岩木學、そう言ってなかったか?」
「はい、そう言ってました! え!? ご存じなんですか!?」
「あぁ。岩木は、【元妖研メンバー】だ。……まさか、アイツが月影のメンバーになってたとはな……。どうりで、消息が掴めなかったわけだ」
玄関に着き、部長と聖海は並んで靴を履く。岩木という人物の名を出してから、部長の顔が曇っているように聖海は感じ、じっと彼の横顔を見つめていた。
「人の顔ばっか見てないで、とっとと靴を履け。急ぐぞ」
「分かってますよ! ……部長こそ、大丈夫なんですか? 風見さんとも揉めてたし、座敷わらしちゃんを連れ去った人とも知り合いだし、鬼になってしまったツルさんだって知り合いだし……」
みんな部長の知り合いだ。何も考えないわけがない。部長は部の司令塔だ。司令塔の指示で、みんな動いている。雑念が判断を曇らせることもある。指示の遅れが命取りにもなりかねない。
「大丈夫だ。……俺が判断できなかったとしても、アイツらは自主的に動く。その時は、その判断が正しい」
「部長……」
「俺は、アイツらを信頼している。ほら、急ぐぞ。みんながお待ちかねだ」
雨が降りしきる中、部長と聖海は傘を差し、ツルの家へと駆け出した。




