わだかまり
雨足は弱まり、細かい水滴が風に舞っている。これでは、傘をさしていても意味を成さない。雷家に着いた頃には、「おやまぁ」出迎えた烏も驚きの声を上げるほど、びしょ濡れになっていた。烏から手渡されたタオルで、それぞれ水滴を拭っていく。
「龍人様。颯志様は先にお帰りになりました」
「……そうか」
「先に帰るなんてね。本当、自分勝手な人」
目にしてしまった、部長の胸倉を掴んでいた風見。二人の間に何かあったことは間違いないが、そのことについて部長が話す様子はない。一度気になると、解決するまで気になって仕方がない聖海は部長にストレートに質問をぶつけた。
「風見先輩と何があったんですか?」
「……俺がツルさんを逃がした」
「え?」
「颯志が消滅させようとしたのを止めたんだ」
「呆れた」と影助。思ったことを胸の内に収めていられない彼は部長に厳しい口調で言い放った。
「どんな鬼だって、鬼は鬼でしょ。もう人間に戻ることはないんだから。風見さんが先に帰った理由も納得だね。悪いけど、俺も今日は帰るよ。烏さん、タオルありがとね」
「いえ……。よかったら、傘をお使いください」
「ありがとう。でも、いいや。どうせ、この雨じゃ傘さしても意味ないだろうしね」
烏にタオルを渡すと、部長と聖海に影助は背を向けた。「黒波くん!?」呼び止める聖海に影助は振り返ることはしなかった。
「鬼と化した人にいちいち同情なんかしてたら、この世は鬼だらけになっちゃうよ。そのことは、部長が一番よく分かってると思うけど?」
去っていく影助を部長は何も言わず、見つめていた。屋敷内から、玄関に向かって騒がしい足音が近づいてくる。
「うわぁぁぁーん! うわぁぁぁーん!」
「座敷わらしちゃん!? どうしたの!?」
副部長と手を繋ぎながら現れた座敷わらしは大粒の涙を流していた。
「さっきまで、風太くんと遊んでいたのですが……風見くんが召喚を解除したようで」
「うぅ……風太もいなくなっちゃったー。うわぁぁぁーん!」
「そうだったんだ。じゃあ、私と遊ぶ?」
鼻をすすりながら、「いいの?」と聞く座敷わらしに聖海は「いいよ! 遊ぼう!」と元気よく答えた。一瞬にして、笑顔を取り戻した座敷わらしは副部長の手を離すと、聖海の手を取り、「おてだま、おてだま!」と奥の部屋へ聖海を引っ張っていった。聖海と入れ替わりで、大きなあくびをしながら九井が現れた。どうやら、彼は昼寝をしていたようだ。髪の毛に寝ぐせがついている。
静けさを取り戻した玄関には、部長と烏、副部長と九井がいる。部長は、影助が見つけたものを彼らに見せた。
「龍人様、これは!?」
「雷くん……」
「おいおい! こりゃ、まさか……」
「影助がツルさんのご遺体があった部屋で見つけたものだ。……厄介なことになった。近々、【西】と会合を開く。烏、伝達を頼む」
「御意。それと、鬼と化したツルさんですが、別の鬼と行動を共にしているようです」
「別の鬼……」
「鬼と組んでいるとなると、よからぬ方向へ行きかねませんね。早々、手を打たないと」
「あれ? 風見とえーすけは、どうした?」呑気な声で質問する九井に、「お二人は、先に帰られました」と烏は告げた。
屋敷へ上がった部長は「ツルさんの家で起こったことを話す。ついてきてくれ」と、副部長と九井を離れへと案内した。座敷わらしの耳には入れたくない話のため、彼女がいる母屋から離れたのだった。




