探す者
「えーすけと立花、大丈夫かなー?」
「えーすけが一緒だ。問題ない」
「前から思ってたんだけどさ、龍ちゃんって──」
「颯志。お喋りは、そのくらいにしておけ。目の前の状況、分かってるだろ?」
「もちろん! ……でもさ、変じゃない?」
「ん?」
「全然、襲ってこないよ? まるで、俺たち眼中にないみたい」
ツルの家に入って来るや否や、白髪を振り乱し、何かを探し始めた。臭いから、鬼であることは確かだが、部長と風見に見向きもしない。本来の鬼にならば、自分の力を増幅させようと妖力の高い妖術師を襲うはずだ。しかし、目の前の鬼にその行動は見られない。
「龍ちゃん、まさかとは思うけど……」
「……ツルさんだっていうのか」
部長の発言に先ほどまで見向きもしなかった鬼が首を動かし、二人を見た。逆立った真っ白な白髪、前に突き出てた顎。上に向けて伸びている鋭い下の歯──というよりも、牙に近い。眼球は真っ赤に染まり、その中で黒目がギラギラ輝いている。骨と皮と化した体に纏っている死装束。その姿は、妖怪に関する書物に出てくる、山姥そのものだった。
「私の……私の……」
「ちょっと、龍ちゃん! こっちに来るよ!」
「……本当に、あのツルさんなのか……」
生前の姿を知っているだけに、ショックだったのだろう。ツルの変わり果てた姿を見てその場から動けず、ただ立ち尽くすことしか部長はできなかった。
「どこへやった? 私の……どこにもない……私の……」
「なんか探してるみたいだけど……龍ちゃん、聞いてる!?」
「あ……悪い」
「ったく。目の前の状況、ちゃんと分かってる?」
「大丈夫だ。ちょっと混乱しただけだ」
「ま、無理もないよね。知り合いだったわけだし」
「邪魔をするな……私の……誰にも渡さない……」鬼と化したツルは、鋭い爪で襲い掛かって来た。鬼となったとはいえ、部長にとっては知り合いに変わりない。付き合いの長い風見は部長のことを知り尽くしている。
「よかったよ。龍ちゃんを他の人と組ませなくて」
風見は小さな風を起こし、ツルを弾き飛ばした。
「龍ちゃんは、やさしいからね。汚れ役は俺が引き受けるよ」
「……颯志」
「そんな顔しないの! 龍ちゃんは、そのままでいいんだよ。汚れ役は、俺だけで十分」
「うぅ……」よろめきながら、ツルは立ち上がると、再び二人に牙を向いた。生前の優しかったツルの面影はない。怒りに燃えた瞳で「失せろー!!」と叫びながら、迫り来る。
「──≪鎌鼬≫」
風見が手のスナップを利かせて風を放つと、三方向へ切れ目ができ、その風の中を口に鎌をくわえた三匹の鼬が駆けていく。
「待て、颯志!!」
「え!? な、なに!?」
鼬たちは、山姥の姿をしたツル目掛けて鎌を振り下ろす。
「ヒぎゃああああああああ!!!!」
雄たけびを上げ、激痛に顔を歪めたツルは家の窓から飛び出していった。「くそ! 逃げられた!」その後を追おうとした風見を部長が引き止めた。
「龍ちゃん!! お前──」
「すまない。だが……見えたんだ」
「何が?」
「ツルさんがいた」
「は? そりゃそうだろ? ツルさんが鬼になったんだから」
「そうじゃない! ……『ごめん』って口元が動いていた」
「……けど、もうツルさんはいないんだよ。あの鬼がツルさんだ。野放しにはできない」
「……あぁ。それは、分かってる」
風見は部長の胸倉を掴み上げた。
「いいや、お前は何も分かってない! 分かってたら、俺の邪魔はしなかったはずだ。今回の件から、お前は降りろ」
「颯志……」
「俺だったから、よかったものの……。半人前の立花だったら、鬼の胃袋行きだ。お前の行動は、仲間を危険に晒す。その自覚は、あんのか?」
「何してるんですか!?」部長の胸倉を掴んでいる風見を見て、聖海は声を張り上げた。言い争う声が聞こえ、飛んできた聖海と影助は目の前の光景に驚きを隠せなかった。能天気で柔らかい空気を纏い、掴みどころがない風見。だが、今の彼は竜巻のようだ。全身に怒りを纏っていて、安易に近づける雰囲気ではない。過去に風見が起こしたとされる暴力事件。その時も今みたいに……?
すぐさま、部長から手を離すと、風見は何も言わずに行ってしまった。掛け違ったボタンのように心地悪いズレを聖海と影助は感じていた。
「あ、そうだ。部屋を調べてたら、ちょっと気になるものを見つけたんだけど」
「気になるもの?」
「うん」
影助が差し出したものを部長は受け取った。丸い形をしたシルバーのピアス。月がモチーフのようで、影になっている部分は黒く、シルバーの三日月が浮かび上がっているようなデザインになっている。
「──これは!? ……えーすけ、立花。急いで戻るぞ」




