エルドラ王国
「神となった異世界人、異世界の知識を持って世界を繁栄させる。」の現世界人視点(本編)をボチボチ出していきます。
作品内の時間の流れはこちらの方が早いくなるのでこっちが後出しになってます。
大したネタバレにはならないと思うので異世界人視点のカミセカもよろしくお願いします。
僅かな光が指す室内に、手足を鎖で繋がれた男が居た。
男の意識はなく、金属の箱の上に縛られ眠っている。
男の手足を縛る鎖には術式がびっしりと刻まれ、脈打つように光っている。
このことから縛られた男は鎖から魔力を吸い出され、どこかしらに魔力を送られている。
よく見ると男が縛られている金属の箱にも同じような術式が刻まれ、うっすらと光を帯びているのがわかる。
男がいる部屋は数十メートルもある天井付近の換気口から漏れ出る光以外には、術式の刻まれた鎖と金属の箱しか光源はない。
広さはかなりあり、地面や壁は石材である。
この空間には僅かな光と、男の呼吸音以外に何も無い空間である。
音もなく、生き物の気配すらない。
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東の大国であるエルドラ王国。
その首都エルドラドにある王城では、1人の若い女性が執務をしていた。
彼女はこの城の主、エルドラ王国女王ミレーナ・エル・ドゥ・ロード。
28歳という若さで数々の改革をし、即位してわずか5年という短さで今の王国を作り上げた女傑である。
そんな彼女にも頭を悩ませる事案が起きた。
それは先程、東の辺境を守護するドレアス領からもたらされた一文。
『異世界人を発見、現在保護中。』
数十年ぶりに、この世界に異世界人がきたのだ。
「どうしたものか……このようなタイミングで異世界人が見つかるとは何とも、ついてないな。」
女王ミレーナは優先順位の高い書類から片付け、何度目かのため息を着きながら異世界人についての対応に頭を働かせる。
「暫くはドレアス卿に任せてみてはどうでしょう?」
女王に進言したのは、彼女の護衛でもある近衛騎士団団長のヘルメス・エル・アードゥル。
女王の執務中、ずっと彼女の後ろに控え護衛の任を全うしている。
そんな彼は本来このように口を挟むべきでは無いのだが、この2人では良くあることである。
ヘルメスは39と女王に比べ一回りほど歳をとっているが、主従というより、良き同士のような関係。
「確かに、ドレアス卿に任せるのが1番良いか。それに、あやつを引っ張り出すいい口実にもなるな。」
「ドレアス卿は政に関わるのが苦手ですからね。」
「あやつの立場上、多少はかじってもらわねば困る。」
「ではこの件に関して、暫くはドレアス卿に一任するということで?」
「うむ。」
女王が執務机に置かれているハンドベルを鳴らすと、ドアがノックされ部屋前を護衛している騎士が入室してきた。
「何か御用でありますでしょうか。」
部屋に入り、騎士の礼をしながら呼ばれた理由を問う。
「うむ、先程あった異世界人の件。暫くはドレアス卿に任せる。と返事を出しておけ。」
「はっ!確かに承りました。」
「それと、一息つきたいので侍女にお茶の準備を整えさせよ。要件はそれだけじや。」
騎士は再度了承すると、深く礼をし部屋から退出した。
「ご休憩なされるのでしたら、俺は一旦席を外します。ここには近衛副団長を遣わせるので。」
「分かった、行ってくるが良い。」
女王の許しを得てヘルメスは退室しようとドアに近づくと、外からドアが開けられた。
「それには及ばん、ここで話そう。」
女王のいる執務室にノックをせずに入ってきたのは、顔まで隠す全身鎧の男。
腰には左右に2本の儀礼剣が帯剣しており、女王に対する礼を無視して話を続ける。
「異世界人がドレアス領に現れたことは既に聞いている。」
「嘘でも女王に対する礼節は無いものか……。」
「今この姿の俺がいくら頭を下げようと意味は無い。それに公の場ではちゃんとしている。」
全身鎧の男が発した言葉の意味が理解出来る2人は、仕方ないと笑うしか無かった。
「まぁよい、それよりも侍女にお茶を準備させている。異世界人について、ゆっくり話そうではないか。」
「今の俺には飲み食いが出来ないがそれでもいいのならそうしよう。」
ヘルメスは執務室の隣の部屋で準備していた侍女にわけを話、急遽バルコニーでお茶をすることになった。
侍女はお茶の準備を済ませると速やかに退出し、バルコニーに3人、執務室が無人と秘密の話をするのにはちょうど良い環境となった。
女王はお茶の香りを楽しみながら1口含むと、先程の話の続きをする。
「して、どこまでの情報を把握している?」
「大したことは分かっていない。言葉の通り、突然ドレアス卿近くの魔素の森で発見された。それ以上のことは分かっていない。」
「突如……か。何やら神の意図を感じるな。」
「それにわざわざ辺境の魔素の森だなんて、普通なら喰われて即死。ただの異世界人とは考えにくいんじゃないか?」
「神の寵愛を受けし使徒だと?」
「いや、地理的にあの場所だと神と言うよりは賢者関係だろう。」
「どちらにせよ厄介なことには変わらぬか。」
「女王陛下、あの計画のことはどうするので?」
「そうだな……。ひとまずは続行、その間に新たな異世界人がどのような存在か見極めるしかないであろう。」
「了解した。俺の方から皆には伝えておく。」
「ほんと、その能力羨ましいねぇ……。」
ヘルメスの視線は、全身鎧が帯剣している儀礼剣のひとつに向けられた。
「あまりいいものでは無い、こいつのせいで俺は大切なものを失った。……いや、奪われた。」
「誰にだって後悔はあるし、どうにも出来ないことはある。」
「その通りだ。この場にいる全員が心に傷を持ち、その傷を埋めるために寄り合っている。ならばこそ結束は硬い。」
「分かっている。次は、もう違えない。」
だんだんの重苦しい空気に耐えられなくなってきたヘルメスは、既に面倒くさくなってきていた。
「とりあえず、異世界人の対応はおいおい考えるとしてだ。当初の計画通りに動くことは間違いないんだな?」
「あぁ、大きなイレギュラーがない限りはそのつもりで動いて欲しい。」
「国内の方もこの5年でかなり良くなってきている。そなたらの力あっての事だ、これからもよろしく頼む。」
「そう改まらんで欲しい。こんな俺に生きる理由を与え、こうして仕事まで用意してくれたんだ。受けた恩は返す、ただそれだけさ。」
3人は既に冷めきった紅茶を飲み干し、それぞれの職務に戻る。
女王は書類仕事の執務、近衛騎士団長のヘルメスはその護衛。
全身鎧の騎士は鎧を着ているにも関わらず、音を立てずにどこかへ行ってしまった。