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魔王城の使用人





~メイド~


 魔王所には至る所に変な張り紙がある。


 例えば『箱を捨てる時や潰す時には中身を確認しましょう』や『廊下に箱が落ちていたら片付けずそぉっと通り過ぎて下さい』などだ。

 それらの張り紙は全て魔王陛下の末娘、ミィ様のためのものだ。

 ミィ様は大体は箱を持ち歩いていらっしゃる。小さな体でズルズルと箱を引きずるミィ様はとてもお可愛らしい。

 そしてミィ様は移動の途中で力尽きてしまわれるのか、廊下のど真ん中で箱の中でくるんと丸まって寝ていらっしゃることが多い。使用人達はそのミィ様のお顔を眺めた後にミィ様を起こさないようにそっと立ち去るのだ。


 魔族はとても寿命が長い分子どもは生まれにくい。それゆえに子どもをとても大切にする風習があり、魔族の最年少であらせられるミィ様はそれはそれは大切に育てられた。

 初めてお兄様であるリーフェ様のお仕事のお手伝いをされた時には使用人を含めた魔王城の全員が感動に涙したものです。


 そんなミィ様が最近狐をペットにされた。

 自分と同じくらいの狐を一生懸命抱っこされるミィ様は控えめに言っても激カワでした。顔が毛に埋もれてほとんど前が見えない状態でよたよた歩く姿はハラハラしましたが胸がときめきもしました。だってとってもお可愛らしいんですもの。

 お狐様の方もミィ様が倒れないか心配なさっている様子で、既に飼い主とペットの絆のようなものが感じられましたわ。


 私がそううっとりと語ると、同僚のメイドがそれに付け足した。

「ミィ様が転んでしまわれた時もお狐様は率先してクッションになっていらしたわ」

「まあ賢い」

 それにとってもいい子ですね。ミィ様のペットに相応しいですわ。


「私はミィ様が『もふもふ……もふもふ……』と呟きながら走ってお狐様の尻尾を追っていらっしゃるのを見ましたわ」

「「―――っ!!」」

 その光景を頭に思い浮かべて私達は悶えた。

「中々自分から走ろうとしないミィ様を走らせるなんて……」

「飼い主の健康にも気を遣える、なんて優秀なお狐様なんでしょう」

 そんなお狐様を拾ってくるミィ様のご慧眼たるや……。


「ミィ様もそのそのお狐様のために畑をつくられたのですよね」

「本当にミィ様は可愛らしくてお優しい」

「私も一度はミィ様のお野菜を食べてみたいです。噂ではミィ様の野菜は疲労回復や癒しの効果があるらしいですわ」

「まあ、さすが癒しの手を持つミィ様」


 ミィ様はたまに料理長におすそ分けで野菜を渡しており、それを料理長がランダムで選んだ相手の食事に入れる。なので、使用人がミィ様の野菜を口にするためには料理長に選ばれるしかないのだ。そのため、最近は料理長に親切にする(媚びを売る)者が増えたため珍しく料理長が「随分遅めのモテ期だな」と冗談を言っていたそうです。



 私もぜひ一度はミィ様の野菜を口にしてみたいものですわ。






~騎士達~



 この前魔王陛下の末娘、ミィ様が騎士団の訓練場にいらっしゃった。兄であるイルフェ団長の職場見学らしい。


 ミィ様は普段、ご家族の皆様が独占なさっているのであまりお見掛けする機会はそう多くはない。つまりレアキャラだ。


 ミィ様を見かけたり話せたりしたらその日一日は何かいいことがあると俺達は本気で信じている。

 ミィ様は使用人達の……いや、魔族の間では幸福の象徴のような存在だ。

 魔王様の末娘という立場にありながらその特殊な能力を使って積極的に民を癒してくれる。

 魔法の治癒にも限界があるが、ミィ様の癒しの手は魔法での治癒を軽く凌駕していく。なので、ミィ様は定期的に魔界の病院へ視察に行き、魔法では力が及ばない重傷者を治しているのだ。

 なぜ重傷者だけなのかというと、「ミィが全部治しちゃったらお医者さんのお仕事がなくなっちゃうから」だそうだ。偉かわいい。妖精さんなのかな?


 そしてミィ様はかわいい。とにかくかわいい。


 俺達が訓練をしているのを箱から顔だけ出して見学するミィ様。

 ん~!! かわいい!! 捨て猫さんなのかな? 俺が拾ってあげたい!!

 俺以外のやつらもミィ様に気を取られてあまり訓練に集中でいていないようだ。団長も今日は仕方がないと思っているのか黙認してくれているみたいだ。


 俺達が重たいボールでキャッチボールを始めると、ミィ様は無意識なのかクイックイッと頭ごとボールを追う。そして終いにはボールに飛びつこうとしたところを団長にキャッチされた。

 ふぅ~。危ない。ミィ様にボールが当たるかと思った。

 俺達は一斉に胸を撫でおろした。


 そして暫く団長にもらったボールで遊んでいたミィ様はボールを段ボールの中に入れて、ボールを抱くようにクルンと丸まってしまった。

 かわいい、かわい過ぎる。

 団長が膝から崩れ落ちて悶えたのも無理はないだろう。


 そんなミィ様も剣での打ち合いが始まると怖がっていらした。

 団長に抱っこされて少し話した後、ミィ様はリーフェ様に出された宿題の絵日記にいそしんでいた。クレヨンを紙に一生懸命グリグリする様子は子どもみたいで可愛らしい。




 まあ、とりあえずなにが言いたいのかといえば、ミィ様が可愛かった。







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― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼの読ませて頂きました! またゆっくり読ませて頂きます
2020/09/06 20:49 退会済み
管理
[一言] とりあえず、コミカライズしましょう!(笑)
[良い点] 作者さまの溺愛者のお話はどれもハズレがなく、今回の新作もほのぼのとして最高です! 今回は遠い未来にヒーロー役が現れるとのことで、その時の家族の反応が今から見ものですな。笑
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