コウ君とお菓子作りするのです!
ミィの前世は猫でした。
前世のみーはご主人さまとならお風呂もへっちゃらな猫ちゃんだったのです。でも、一つだけ苦手なことがありました。
「ミィ、いらっしゃい」
「……や、です」
母さまが怖い顔をしてミィを呼んでますが、ミィは両手を背中の後ろに隠してプイッとします。
「……」
「み!?」
スッと表情を消した母さまに無理やり抱き上げられました。その拍子に隠していた手が母さまに見える。
「やっぱり、爪切りサボってたわね」
「……」
スッと目を逸らします。
ミィの爪は大分伸びて、白い部分の面積が結構大きくなっちゃってます。
「爪が割れたりして痛い思いをするのはミィなのよ? それに、コウ君とお菓子を作るならその長い爪を切らないと許可は出せないわ」
「うっ……だって……」
分かっていても怖いものは怖いんですぅ。
前世も爪切りの時だけはご主人さまから逃げてました。
「が、がんばれミィ」
「うぅっ……」
コウ君が拳をぎゅっと握りしめて応援してくれます、コウ君もきっと前世での爪切りを思い出してるんでしょう。
「コウ君変わってください~」
「いや変わっても意味ないだろ」
正論です。勢いで変わってくれると思ったのですが……。
「うぅ……」
「ミィ、すぐに終わるから目を瞑って我慢していなさい」
パチンッ
***
「み、短いのです」
ミィは自分の手を見て半泣きで呟きました。やっと恐怖の時間から解放されたのです。
「ミィ、よく頑張ったなぁ!」
これまた半泣きのコウ君がミィに抱き着いてきました。
「はい、ミィはがんばったのです……!」
ミィもコウ君にひしと抱き着きます。ミィのこの恐怖を分かってくれるのはコウ君しかいないのです。
母さまは「大袈裟ねぇ」といいながら切ったミィの爪を片付けている。
「母さま、もう厨房に行ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。コウ君と先に行っていなさい」
「はいです。コウ君、ミィが厨房まで案内してあげるのです!」
ミィはコウ君の手を掴み、厨房に走った。
ミィは入り口からひょっこり顔を出して厨房の中を確認します。中には料理長のおじいちゃんがいました。
「おじいちゃん、準備できてますか? ミィ達もう入ってもいいです?」
「ええ、準備は万端ですよ。どうぞお入りください」
今日はコウ君とクッキーを作るのです。母さまからの指令で魔法の使用はなしですよ。時間をかけて自分の手で作ることが大事らしいです。
厨房の台の上には白い粉とかボウルとかが用意されてます。ミィ、これが人生初料理なんですけど大丈夫ですかね? 失敗する気しかしないのです。
「じゃあ早速始めましょう。姫様と坊ちゃんはこのエプロンを着けてください」
「はいです」
「わかった」
ミィは猫柄、コウ君は犬柄のエプロンを手渡されました。
わたしはエプロンを着けて料理長の前で一回転する。
「似合ってますか?」
「はい、よくお似合いですよミィ様」
料理長は柔和な笑顔を浮かべてわたしの頭を撫でてくれる。
「にゅふ」
料理長の手は大きくて安心するのです。
「さあお二方、手を洗ったらこの台の上にのってください」
「「は~い」」
わたしとコウ君はしっかりと手を洗い、料理長が用意してくれた踏み台の上にのった。わたし達じゃ背が小さくて調理台に届かないですからね。
わたし達二人の前にはそれぞれボウルが用意されている。
料理長が既に量り終えた材料をそれぞれのボウルに入れてくれた。
「じゃあそれを混ぜてくださいね」
「素手でです?」
「ええ。先程しっかり洗ったので素手でも大丈夫ですよ」
「そうなのですか」
わたしは思い切ってボウルに手を突っ込んだ。
バターと小麦粉が手に張り付いてきます。これ本当にちゃんとまとまるんですかね?
こねこねこねこね
こねこねこねこね
コウ君もミィも無言で生地をこねます。
ずっと生地をこねていると、だんだんきれいに纏まってきました。
「ふむ、そろそろいいでしょう。生地を台の上に出してください」
「「は~い」」
料理長が綺麗に拭いた台の上にわたし達はそれぞれ生地を置いた。そして麺棒でころころして生地を伸ばしていく。
「生地が伸ばせたらここにある型から好きなものを選んで生地をくりぬいてくださいね」
「おおいっぱいあるのです」
料理長は子どもが好きそうな可愛い形の型をたくさん用意してくれていた。ううむ、迷います……。
ミィがどの型を使うか迷っていると、コウ君は既に生地をくりぬく作業に入っていた。
「コウ君選ぶの早いですね。どんな型にしてんですか?」
「!」
黙々と作業をしていたコウ君の手元を覗き込む。コウ君は集中してたみたいで、ミィが声を掛けたら肩がビクッてしてました。
そこには慣れ親しんだシルエット―――。
「あ、猫ちゃんですか?」
「別にミィをイメージしたわけじゃないぞ!!」
「ミィはまだ何も言ってないのです」
コウ君は照れたのか、くりぬいた生地をミィから隠してしまいました。ちょっと拗ねたように口を尖らせてるのがかわいいのです。
「ミィもさっさと型選べよ」
「はい。じゃあミィはわんちゃんにします」
「!」
ミィは山盛りの型の中からわんちゃんのを取り出しました。
遅れを取り返すためにちょっと急ぎ目で生地をくりぬき始める。
「ほらコウ君、なに固まってるんですか。早くしないとミィの方が先にくりぬき終わっちゃいますよ」
「……別に固まってないし」
今まで固まっていたコウ君はそう言って作業に戻りました。
料理長がわたし達がくりぬいた生地をオーブンに入れてくれる。ここのオーブンは大きいのでミィの分とコウくんの分が一気に焼けちゃうみたいです。
「楽しみですねコウ君」
「ああ」
返事はそっけないですが、コウ君もミィと一緒にオーブンの前に張り付いてクッキーが焼けていくのを観察してます。そして、料理長はそんなミィ達を微笑まし気に観察してます。
十数分後、オーブンがチンッと音をたてた。
「焼き上がりましたか!?」
「はい、できましたよ。クッキーを取り出すのでちょっと離れていて下さいね。熱くて危ないですから」
「はい!」
わたしとコウ君は料理長の言葉通りオーブンから離れる。
調理台の上に置かれたクッキーをわたし達二人はワクワクと覗き込んだ。
「あ、ちょっとくっついちゃってます」
「だな」
近くに置きすぎたのか、ミィのわんちゃんクッキーとコウ君の猫ちゃんクッキーが一部くっついちゃってました。
「でも、これはこれでかわいいのです」
わたしとコウ君のクッキーがくっついたことで、それは猫と犬が寄り添っているような形になっていた。
「えへへ、前世のミィとコウ君みたいですね」
「……そうでもないと思うけど」
「そうです? じゃあこのくっついちゃったクッキーはミィが貰ってもいいですか?」
「……だめだ」
「あ」
コウ君はそう言うと、くっついちゃった六枚のクッキー全てを素早く掻き集めてしまいました。
「これは俺がもらう。ミィはその分俺が作ったクッキーをやる」
「え~。まあいいですけど……」
それならミィが食べる量は変わらないですし。
「じゃあさっそくおやつの時間にしましょう。ミィ、クッキーを焼きたてのあったかいまま食べてみたいのです!」
その後、コウ君は合体クッキーを大事に、だけど名残惜しそうに食べてました。




