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前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!  作者: 雪野ゆきの


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母は強しなのです




 コウ君の手をギュッと握ります。


「コウ君、また会えて嬉しいのです」

「う……俺は別に……」

 言葉とは裏腹にコウ君はわたしの手を強く握り返してきます。そうでしたそうでした、前世もこんな感じでしたね。

 そんなコウ君を母さまはやはり呆れた表情で見つめてます。


「なぁに言ってんのよ。コウ君が会いたい会いたいうるさいから私の愛娘に会わせてあげたのに」


 コウ君が母さまをキッと睨む。

「ミィの前でそういうこと言うんじゃねぇ!」

「はいはい。コウ君は照れ屋ねぇ」

 コウ君の抗議も母さまはどこ吹く風。そっぽ向いてひらひらと手を振ってます。





「―――ミィ、大きな音がしたけど……なにその男」

「浮気された彼氏ですか兄さま」

 部屋に入ってきたリーフェ兄さまの眼光がキッと鋭くなった。もちろんコウ君を睨んでいる。

 睨まれたコウ君も負けじとリーフェ兄さまを睨み返します。


「んで? うちのかわいいかわいい末っ子の手を握ってる小僧は誰ですか母上」

「リーフェ貴方……。子ども同士の淡い恋愛くらい見守ってあげなさいよ」

「恋愛!?」

 母さま逆効果です。兄さまが愕然とした表情になりましたよ。

 というか、人のこと「小僧」って呼ぶ兄さま初めて見ましたよ。


「おい小僧、名前は」

「……コウだ、よろしくお義兄さん」

「誰がお義兄さんだクソガキ」

 兄さま、珍しくお口が悪いです。いつもの穏やかな兄さま帰ってきてください。

 コウ君はリーフェ兄さまにプイッとしてわたしに抱き着いてきました。肩に顔を埋めてくるんですが、髪の毛がほっぺに当たってチクチクします。

 コウ君、言葉はツンデレなんですけど行動はデレデレなんですよね。


「お前なんかにうちの可愛い可愛い可愛い可愛いミィをやるか」

 兄さまフシャーッて威嚇する猫ちゃんみたいです。


「リーフェ……あなたほんとにシスコンねぇ」

 母さまが呆れ顔で言う。

「ミィが妹なら誰でもシスコンになります」

 兄さまはキリッとした顔でそう言った。

「兄さま、コウ君はミィの前世のお友達の生まれ変わりなのです」

「友達……」

「友達……」

「ん?」

 片やテンションが下がって、片やテンションが上がってます。対照的な反応ですね。


「コウ君の前世は白くてかわいいわんちゃんだったのですよ。きっとリーフェ兄さまもメロメロです」

「俺はモフ丸だけで十分かな」

「ミィは俺にメロメロだったのか……」

「ちげぇよ。何勘違いしてんだ」

 兄さまお口がどんどん悪くなってるのです。まるでイルフェ兄さまみたい。

 コウ君にはそんな兄さまの声は届いていないらしく、口元をニマニマさせている。

「ただただムカつく。さっさと帰れ」

 リーフェ兄さまが動物を追い払うようにシッシッと手を払う。


「あら、コウ君には暫くうちにいてもらうつもりよ」

「は?」

 リーフェ兄さまが固まる。

「せっかく天界からわざわざ来たのにこんな短時間ではいバイバイなんて可哀想じゃない。私がいる期間はコウ君も滞在させてあげるわよ」

「じゃあ今すぐ天界におかえりください母上」

「なんて心の狭いシスコンなの」

 流石の母さまも唖然です。


「に、兄さま、そんなこと言ったら母さまが悲しいしちゃうのです」

「そうだねミィ、つい熱くなっちゃった。母上もすみません」

「気にしてないけど、失言を許してあげる代わりにコウ君の滞在を認めてあげなさいね」

「うっ……」

 心の底から嫌そうな顔をする兄さま。


「クッ、兄上ヘル~プ!」

 リーフェ兄さまが走り去っていった。他の兄さま達でも呼んでくるんでしょうか。





 数秒後、イルフェ兄さまを連れてリーフェ兄さまが戻ってきた。というか、転移で現れた。

 何の説明もなしに連れてこられたのか、イルフェ兄さまは少し困惑顔だ。

「おいリーフェ、どういう状況か説明しろ」

 イルフェ兄さまの背中にはリーフェ兄さまがべったりと抱きついている。兄さまが兄さまに甘えているのを見るのは随分久々です。

 リーフェ兄さまはイルフェ兄さまの肩に顔を埋めてスンスン言ってますが多分嘘泣きですね。


「兄上、ミィを狙ってる間男がしばらくうちに滞在するらしいんです」

「ぁあ゛?」

 一気にイルフェ兄さまの目つきが鋭くなりました。

「そこのガキか」

「コウですお義兄さん」

「誰がお義兄さんだクソガキ」


 なんかさっきも聞きましたねこのセリフ。


「ミィ、お兄ちゃんはこんな男認めませんよ」

「ミィはまだ何も言ってないのです」

「あなた達はほんとに呆れたシスコンね。コウ君はこれでも天界の王子様よ? ミィの相手として不足はないでしょうに」


 母さまがそう言うと、兄さま達は心底恐ろしいものを見たというような顔になりました。


「聞こえた兄上?俺は耳が拒否してよく聞こえなかったよ」

「奇遇だなリーフェ、俺もいつの間にかしていた耳栓を外しそこねてたみたいだ」

「私の息子達は現実逃避が得意ね~」

 母さま、もはや冷たい目をしてます。


「いいじゃない、そろそろミィにも同年代のお友達が必要よ」

 母さまが有無を言わせない雰囲気を出してコロコロと笑う。威圧感がすごいのです……。

 さすがの兄さま達もこれ以上は文句が言えず、小さく「…………はい」って返事してました。


 その後、オルフェ兄さまと父さまも続々と文句を言いにやってきましたけど、誰も母さまには勝てませんでした。



 母は強しなのです。







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