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前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!  作者: 雪野ゆきの


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ミィ、はめられた……?





「君、なにか困ってるの?」

「!?」


 びっ……くりしたぁ。

 こんなに人気のない所まで来たのに話し掛けられると思わなかったのです。


「ああごめん。驚かせちゃった?」

「いえ……」

 わたしに話し掛けてきたのは若いお兄さんだった。外見年齢だったらリーフェ兄さまと同じくらいでしょうか。その手には紙袋に入ったパンや果物などを持っている。

「買い物に来たら小さい子が深刻そうな顔をしてたからどうしたのかと思って。なにか困ってるの?」

「えっと、お金がないのです」

「なるほどね」

 特に事情を突っ込まれることもなく、お兄さんは少し考えるような素振りを見せた。

 そういえばわたし今は角が丸見えなのにこの人間のお兄さんにはその様子を気にした様子がない。

「じゃあこれからちょっと僕のお仕事のお手伝いしてくれない? そしたらお小遣い程度ではあるけどお金をあげられるよ」

「ほんとですか!? ……あ、でもそんな何日もかかるお仕事はお手伝いできないかもです」

「大丈夫。長くても今日中には終わるから」

「じゃあお手伝いさせてください」

「おっけー。じゃあ僕の職場まで一緒に行こうか。ちょっと歩くけど」

「はい。モフ丸、行きますよ……って、寝ちゃってます」

 モフ丸は伏せの体勢になって寝ちゃってた。

 ……しょうがない、抱っこしていこう。幸い今のモフ丸は縮んでるし。


「あ、その前に角は隠しておこうか。魔族にはあまりいい感情を抱かない人もいるからね」

「……経験済みです」

 お兄さんは持っていた手ぬぐいでわたしの角を覆い隠すように結んでくれた。

「うん、これなら分からないね」

「ありがとです」

「じゃあ行こうか」

「はい」

 わたしはモフ丸を抱っこしてお兄さんについて行った。


 ……モフ丸ちょっと重いのです。




***





 あそこからまた街の中心の方に少し戻るとその建物はあった。この辺はさっきまでいた場所と違ってちらほらお店もある。

 わたしは他の家の何倍かはありそうな大きい建物に足を踏み入れた。

「……ここはどこですか?」

「教会だよ」

「教会……」

 なるほど、こういう建物が教会なのか。

 その中はたくさんの長椅子っぽいのが並んでいて、部屋の前方には大きな……肉球のマークがある。でもなんかちょっとかっこいい感じにアレンジされてる肉球だ。あれかな、これが教会のシンボルみたいなやつなのかな。ちょっと神聖さに欠けてないです?


「こっちだよ」

「あ、はい」

 肉球のシンボルを見つめてたらお兄さんに呼ばれた。わたしは慌ててお兄さんのもとに駆け寄る。


「ちょっと暗いし長い階段だから気を付けてね」

「はい」

 どうやら地下に続いてるっぽい階段を下りてくらしい。ほんとに薄暗い……。

 ……モフ丸抱っこしてくの大変ですね……ちょっと引きずっちゃお。


 うんしょ、うんしょとモフ丸の尻尾を引きずりながら階段を下りる。


 ……そういえば、買い物に来たって言ってたのになんでお兄さんはあんなお店もない街の外れにいたんだろ。お店はこの教会の近くにいっぱいあったからたとえ帰り道でもあんな所通らないんじゃないかな……?

 それに、今思えばわたしが魔族ってこともまるで最初から知ってたみたいな―――。


 そんな嫌な予感を感じつつ、わたしは地下に到着した。


「……お、お兄さん、わたしはなにをお手伝いすればいいんです?」

「ん? 簡単なことだよ」

 お兄さんは感情そうな扉を開けてわたしの背中を軽く押して部屋に入れた。






「君の血がほしいんだ」




 そこには、ローブで顔を隠した人間がズラリと並んでた。




「……へ?」



 ローブを被った人達がジリジリと近付いてくる。

 なんか怖くてわたしも後ずさった。

 わたしは緊張からゴクリと唾を飲み込む。




「……っ」

 わたしは思わず目を瞑った。









「「「お願いします! 血液をくださいっ!!!」」」



「…………はい?」



 目を開けると、そこには揃って土下座の格好になってる人間達がいた。

 ……何事ぞ。




***





 なぜかわたしの血を欲しがってる人達に襲い掛かられるかと思いきや、そんなことはなかった。

 わたし今きれいなカップに入ったホットミルクを出されて人間達の話を聞いてる。


「にゃるにゃる。お兄さん達は新しい神様が欲しいんですか」

「そうなんだよ~」

 どうやらこのお兄さんたちの信教は現在に存在する神様しか信仰しないらしい。一柱の神様をずっと信仰するんじゃなくて、信仰してた神様が死んだり消えたりしたらまえの神様と同じような思想を持った神様をたてるらしい。ちょっと不思議なありかただねぇ。


「でもそれとミィになんの関係があるんです?」

「俺達が次の信仰対象にしたい神様を呼び出すには魔界の王族の血が必要なんだよ。だから何人かがどうにかして血を持ち帰ろうと魔界に行ったら箱の中でのんきに寝てる君がいたから梱包して送ってきたってわけ。その時に睡眠薬も盛ったって言ってたんだけど、途中で効果切れちゃったみたいだね」

 自分ちの庭で寝てたら梱包されて郵送されちゃう世の中こわすぎるのです。

「だから慌てて追いかけて君を追いかけて怪しまれないようにここに連れてきたってわけ。すぐに逃げられないようにその狐さんには君に気付かれないように睡眠粉を掛けて眠ってもらったんだ」

 プロの犯行です!

 このスキルって教会で学べるものなんです?


「理由はわかりましたけど、ミィ痛いのはいやです」

「まあそうだよねぇ」

「はい」


 ……ん? なんか若干声が違ったような……。

 パッと顔を上げてキョロキョロする。


「やあミィ、久しぶりだね」


「―――お、オズお兄さん!」

「ふふふ」

 いつの間にかオズお兄さんがわたしの真後ろに立ってた。

「久しぶりだねぇミィ。いや? 久しぶりでもないか」

「なんでこんなところにいるんです?」

「ん? ミィが人界こっちにいる気配がしたからきちゃった」

 どういうこっちゃ。


「ゆ、勇者様!!」

「ふぇ?」

 勇者様?

 オズお兄さんを勇者様と呼ぶ誰かの叫び声がしたした途端、場がざわめき始めた。


「まあ細かいことは置いといて、とりあえず神獣様起こしちゃうね」

 細かい(?)ことを置いておいたオズお兄さんはモフ丸の額に手を当てた。


「きゅ……」

「モフ丸、起きました?」

「む……? ここはどこだ?」

 前脚でクシクシと目を擦るモフ丸。かわいい。

「教会です」

「んぬ? なぜ我らは教会におるのだ? ……ミィ、まさかとは思うが知らない者にほいほいついて行ったりはしてないだろうな」

「知らない人にほいほいついて行った結果ここにいるのです」

「お主には警戒心が備わっておらんのか!!」

 しょぼん。モフ丸に心配かけちゃった。

「だってちょっと仕事をお手伝いしたらお金くれるって言うから……」

「そんなうまい話があるか!!」

「うぅっ……」

 ミィだって起きたら知らない場所で気が動転してたんですぅ~。


「まあまあ神獣様、とりあえず怒るのは後でミィの父君達とにしてくれませんか? 事情聴取もその時で」

「うむ。だがなぜ勇者であるお主がここにいるのだ?」

「ミィの気配がしたんで駆けつけました~」

「……勇者は変態だったかのう……」

 モフ丸はオズお兄さんが勇者ってこと知ってたんだ。

 勇者はどの時代でも人界に一人はいる存在で、魔王である父さまとほぼ同等の力を持ってるらしい。魔界と人界はあまり仲はよくないけど敵対してるわけでもないので勇者は主に魔界側が好き勝手しないように抑止力の役割をしてるんだって。


「さてさて、それで? 君達はこの魔法陣でどの神を呼び出そうとしたわけ?」

 オズお兄さんが床に描かれた複雑な魔法陣を見ながら教会の人達に言った。

「魔界にいるというリシューラ神です」

 リシューラ……どっかで聞いたことある名前だな……。


「あれ? それって人界では邪神って呼ばれてる神だよね。なんでそんな神を選んだの?」

「リシューラ神は主に魔界を守護している強力な神だからそう言われてるだけですよ。実際は結構ゆるい性格の神らしいんです」

「へ~、そうなの。じゃあ呼び出しても危険はないの?」

「いえ、リシューラ神はあくまで魔界を守ってる神なので人間である我々が呼び出したら怒りを買うかもしれません」

「よくそんな危険な橋を渡ろうとしたねぇ」

「アホだのう」

 モフ丸とオズお兄さんは教会の人達に頭が可哀想な子を見る目を向ける。

 たしかに、神様の怒りを買って死んじゃったら信仰するどころの騒ぎじゃないもんね。


「まあそうでなくともミィをさらった時点でミィの父や兄達が激怒してると思うがのう」


 ゆるい神様……兄達……。


「あ、そうだ!」


 わたしは痛覚を遮断して指先をちょっと切り、魔法陣の上にポタっと血を垂らした。すると魔法陣がパァッと光り出す。


「「「おおっ!!」」」

「なっ……!!」

「ミィ!?」


 背後でモフ丸とオズお兄さんの慌てた声がする。教会の人達はなんだか嬉しそう。


 ふむ、こういうときはなんか言っておくべきかな……。


 よし、




「いでよ! リシューラ神!!」




 わたしは両手をバンザイしてそう叫んだ。






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[一言] ミィ…いきなり何を(笑)
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