モフ丸は変わった狐
「モフ丸~、ごはんですよ~。いっぱい食べるモフ」
「キュ!」
わたし特製の野菜たちをお皿に載せてモフ丸の前に置くと、モフ丸は尻尾をモフンモフン振ってごはんを食べ始めた。しゃがんでその様子を眺めていると、なにかの違和感に気付いた。
……んん? なんか今日はモフ度が異常ですね。
いつもよりもモフ成分が多い気がする。
「……モフ丸、尻尾増えました?」
モフ丸のお尻からは二本の尻尾がフサフサと動いていた。
「……オルフェ兄さま、モフ丸の尻尾が増えました」
わたしは近くにいたオルフェ兄さまのズボンを掴んでモフ丸に尻尾が増えたことを報告した。
「……本当に増えているな」
「モフモフが増えてお得ですね」
「……そういう問題ではない気がするが……まあミィが嬉しいならばそれでいいか」
「ミィの特別な野菜を毎日食べてるからきっとそんなこともあるよ」
「そうですか」
オルフェ兄さまとリーフェ兄さまがそう言うので、尻尾が増えたことはあんまり気にしないことにしました。
「モフ丸かわいいねぇ」
モフ丸の方に向き直り、二本に増えた尻尾にぎゅむっと抱き着いた。
そして翌日。
「……」
もう一本増えましたね。
わたしの目の前では三本の尻尾が揺らついてる。
「……まあいっか」
二回目だとあまり驚かない。わたしはいつも通り野菜とお肉をあげた。
そしてモフ丸の尻尾は増え続け、最終的には九本にまでなった。
「きゅああああああああ! モフモフ天国ですっ!!」
わたしは大歓喜で九本の尻尾に埋もれにいった。尻尾の数が増えるにつれ毛並みもよくなった気がする。
一本のモフ尻尾に抱き着いてもあとの八本がわたしを抱擁してくれる。なにこれ天国です?
「ミィがかわいい」
「ああ」
片手で口元を覆った兄さま達に頭を撫でられる。
「にしても、モフ丸は狐なのに随分頭がいいよな」
「確かにねぇ」
オルフェ兄さまとリーフェ兄さまがそう話していると、モフ丸が心なしか胸を張った気がした。
確かにモフ丸は賢い狐さんかもしれない。
夜になると、モフ丸はわたしが眠るまでわたしの寝床である棺桶の横にいてくれる。そして尻尾でわたしのお腹をポンポンして寝かしつけてくれた後に、いつの間にか棺桶のフタまで閉めておいてくれるイクメンっぷりだ。普通の狐ってこんなことができるもんなんですかね……?
本当はモフ丸と一緒に寝ようと思ってたんだけど、初めて棺桶を見せたらモフ丸はドン引いた様子で、棺桶の中で一緒に寝てくれようとはしなかった。
今は部屋に設置した巨大クッションで寝てるんだと思う。きっと九本のモフ尻尾を枕にクルンと丸まって寝てるんだろうな。かわわわわです。
***
朝はモフ丸が棺桶のフタをカリカリと引っ掻いて起こしてくれる。できたお狐さんだ。
そしてわたしが中々起きないと鼻先で棺桶のフタを開けてくる。
「んん……もふまりゅ、まぶちい……」
「キュ~!!!」
モフ丸は「起きろ!」とでも言うように大声で鳴く。
「キュイ~!! キュイ~!!」
「……おきたのですもふまりゅ、みみもとでなかないで~」
モフ丸がうるさいので大抵は目が覚めてしまう。
棺桶から出ると、洗面台までモフ丸に押されて歩いていきバシャバシャと顔を洗った。
「たおるたおる……」
目を瞑ったまま手探りでタオルを探すと、手触りのいい物に触れたのでそれで顔を拭った。
そしてモフ丸の不機嫌な鳴き声を聞きながら目を開いた。
「……キュウ……」
「あ」
わたしが顔を拭いたのはタオルじゃなくてモフ丸の尻尾だった。……まあよくあることだね。
モフ丸には抱き着いて謝っておいた。
わたしはしゃがんでモフ丸と目を合わせる。
「ねぇモフ丸、ミィ達の言葉通じてますよね?」
「きゅぅ~?」
モフ丸は真ん丸な瞳をして首を傾げた。いや首傾げるってことは絶対通じてるよね。
わたしは側にいたリーフェ兄さまの足に抱き着いた。
「リーフェ兄さま、あいつしらばっくれてます。取り調べの必要があるのです」
「お、いいねぇ」
リーフェ兄さまはノリノリで取り調べっぽい机を用意してくれた。その机に備え付けてあったライトをわたしはモフ丸に向ける。
「さあ、吐くのです!」
「キュ~、キュ~」
モフ丸は口笛を鳴らすように唇を尖らせて鳴き、誤魔化そうとしている。……なかなかかわいいじゃないですか。
「ミィをメロメロにして誤魔化そうって作戦ですか。その手には乗らないのです!」
「俺はそんなミィにメロメロだよ!!!」
わたしの座席になっていた兄さまが後ろから抱き着いてくる。
「ところでミィ、モフ丸が俺達の言葉が分からないって自称してることで俺達に何か不都合ってあるかな……?」
「…………ないですね」
多分モフ丸には言葉が通じてるし、それに対して反応もしてくれるし。
「―――モフ丸は釈放です!」
さあ解散解散、と取り調べセットを片付けようとすると、モフ丸のジト―っとした視線がわたしに刺さった。
「……なんですモフ丸?」
「キュゥ……」
随分不満そうな顔をしている。
「冤罪だろって抗議してるんじゃない?」
「キュウ! キュウ!」
兄さまの推測にモフ丸がうんうん頷いてる。
「でも、モフ丸はわたしの言葉を分かってるので別に冤罪じゃ……」
「キュイ~?」
モフ丸は片眉を上げてわたしを責めているような表情をしている。大方「無駄なことで責めやがって」ってところかな。
「ごめんねモフ丸。許して?」
「キュ~……」
モフ丸の首に抱き着いて謝ったらしょうがないなぁ、と言うようにモフ丸は鳴いた。
うん、意思疎通は問題なくできてますね。