卒業式前に試験なんて聞いてないっつーの!!
「さてと・・・いってきまーす」
寮生活なので誰もいないんだけどね。
俺の名前は沢渡 凌。魔法学校に通う中学生だ。
この国には普通学校の他に魔法学校というものがある。
二酸化炭素排出問題や少子高齢化の対策として国策で魔術師の育成を行っているそうだ。
・・・それ魔術師と関係あるの?って思ってはいるが、適正テストに合格すれば入学できるし学費や教材などはもちろんのこと、生活にかかる費用も全て国が出してくれる。
それに魔法使えたらかっこいいじゃん!
・・・とまぁそういう理由で入学したのはいいが、これがなかなか厳しい。
普通の中学と同じで1年を3つの学期に分けてそれぞれに期末試験があるのだが、この期末試験で「不適合」の烙印を押されると退学処分となってしまう。
義務教育だから退学になった場合は普通の中学校に編入させられる。
そんな途中で編入させられたら友達もいないし完全アウェーでぼっち確定になってしまう!ってな勢いで必死にやってきて何とか今日の卒業式まで在籍することができた。
ちなみに1年の時は1クラス40数人いたのだが、3年の今となっては19人しかいない。
全校生徒も1年が圧倒的に多く300人~400人いるのだが、3年になると80人くらいしかいなくなる。
長く辛かった3年間・・・今日でようやく終わる・・・・。
あ、高校はエスカレーターで試験も無く上がれるらしい。今までの苦労を考えたら当然っちゃあ当然だな。
さて・・・のんびりしてたら遅刻してしまう。皆勤賞の俺が卒業式で遅刻するわけにもいかないしな。
― 通学路 ―
女性の声「凌くんおはよーーー!!!」
凌「孔美か。おはよう。」
いきなり声をかけてきた女子生徒は同じクラスの大山 孔美だ。
容姿端麗、成績優秀、クラスのみんなにも人気がある。天は二物も三物も与えたような奴だ・・・。
虫も殺せない性格で、なんで魔術を習いたいのか聞いたら
「みんなが笑顔になれる魔術があるといいねっ」
だってさ・・・
別次元の人間を見てるみたいだ・・・
孔美「いよいよ今日で卒業だねー!卒業試験ってどんな試験なのかな?」
凌「ちょっとまて。卒業試験って何だ?」
孔美「え?前に先生が言ってたじゃない。卒業式の前に試験があるよーって。」
凌「・・・」
孔美「おーい。凌くんどうしたの?」
凌「なん・・・・・だと・・・・・」
凌「この試験に落ちたら卒業式直前に編入なのか!?何の思い出も無い卒業式に参加させられて、行ったこともない学校から卒業証書貰うのか!?」
孔美「ちょっと凌くん、おちついて・・・」
凌「これが落ち着いていられるか!?なんでオマエは冷静なんだ!?この試験で何人落ちるのか・・・その中に俺は入っているのか・・・先日の期末試験もヤバかったからなぁ・・・朝から憂鬱だ・・・」
孔美「違うよ凌くん!クラス全員で卒業するんだよっ!凌くんも頑張ったらきっと合格できるよ!」
凌「・・・・」
(孔美の脳内では俺はかなり優秀な生徒らしいな・・・)
女性の声「孔美ー!凌ー!おはよーー!!」
凌「このアホっぽい声は恵美だな。」
孔美「ちょっと凌くん怒られるよ・・・」
恵美「誰がアホっぽくて頭のネジ数本抜け落ちた女よ!」
凌「そこまでは言ってねぇよ。」
このアホっぽい・・・もとい、ギャルっぽい女は同じクラスの落合 恵美だ。顔だけは良いのだか、ひんに・・もとい、スレンダーだ。ちなみに俺はコイツがちょっと苦手だ。
恵美「ちょっと二人とも!聞いてよ!今日の卒業式の前にすごいことがあるんだよ!」
凌「卒業試験のことか?」
恵美「何で知ってるのよ。」
凌「孔美に聞いた。」
男の声「凌くん。ここは知ってても知らないフリをしてあげるのが紳士だよ。」
凌「俺は紳士ではない。」
このいきなり意味のわからないことを言い出した男は同じクラスの桐山 康介だ。紳士だ淑女だレディーファーストやら御託を並べるキモいやつだが、イケメンだから女子に人気がある。好きか嫌いかと言われれば当然嫌いな部類に入るのだか、なぜかコイツとは仲が良い。
恵美「そうよそうよ!凌も康介みたいにファーストレディーしなさいよっ!」
凌「レディーファーストだ。オマエのような騒がしい女には無縁の言葉だ。それにファーストレディーは大統領夫人だ。」
恵美「失礼ねっ!誰が騒がしくて薄汚い女よっ!」
凌「そこまでは言ってねぇよ。」
孔美「まぁまぁ。恵美ちゃんといると賑やかで楽しいじゃない。」
恵美「孔美大好きーっ!!」
凌「賑やかか・・・ものは言いようだな。」
康介「みんな。ちょっと急がないとまずいかもしれないよ?」
孔美「ほんとだっ!みんな急ごう!」
凌「こいつらに出会わなければ余裕で間に合ったのに・・・」
― 教室内 ―
凌「ふぅ・・・なんとか間に合ったな・・・」
男の声「凌!オマエがギリギリに来るなんて珍しいじゃねぇか!」
凌「光平か。騒がしいヤツとキモいヤツに遭遇したんだよ。」
光平「恵美と康介か。お前ら仲良いよな。」
この見るからにアホそうなヤツは有田 光平だ。なぜ今日まで残れたのか不思議なくらいだ。まぁ悪いヤツでない。
光平「今日であの爆乳教師も見納めになるわけか・・・。」
凌「先生に聞かれたら殺されるぞ・・・。」
光平「1年も2年も担任はオッサンだった!だが3年の担任は違った!」
凌「ああ・・・心躍ったな・・・初日だけは」
光平「酷かったよな・・・悪魔って本当にいたんだって思ったよ・・・」
男の声「フッ・・・試験前だというのに余裕だな・・・沢渡凌!」
凌「またややこしいヤツに声をかけられたな。」
このいけすかないヤツは神宮寺 輝彦。
金持ちオーラ全開でコイツだけ制服が豪華だ。国営の学校といえど金の力には弱いらしい。
あと理由はわからないし聞きたくもないんだけど人の事をフルネームで呼ぶ。
光平「おい・・・試験って何のことだ?・・・・」
凌「もう座ってろ・・・そのうちわかる。」
ガラガラ!
生徒「!?」
生徒全員が凍りつく。この教室だけ気温が氷点下になっているようだ・・・
先生「皆、席につけ」
言われる前に全員座っている・・・教室内は静かだ・・皆、呼吸の音も出さないよう文字通り息を潜めているのがわかる・・・
先生「先日話した通り、今から卒業試験を受けてもらう。試験の説明をするからよく聞くように。」
先生「卒業試験はクラス内のサバイバルだ。君達は所持している魔法を駆使して他の生徒を倒し、生き残った者が試験合格者だ。
試験は別のフィールドで行ってもらう。仮想フィールドはこの学校と同じ作りになっている。
試験開始と同時に君達はフィールド内にランダムに転送される。転送されてから10分間は準備時間とする。準備時間内は攻撃できない。
10分後、事前に渡しておいたブレスレットの端末が作動し、マップと全員の位置が表示される。そこから15分毎に位置表示がなされる。隠れててもバレるわけだ。この位置表示でわかるのは生徒全員の現在位置とHPだ。HPに関しては後で説明する。尚、この位置表示が見れるのは表示されてから10秒だ。15分毎に10秒間の位置表示がなされる。
君達は最大4人のパーティーを組むことができる。同じパーティー同士は攻撃できない。また魔法によってはグループに有効な物もあるが、それはパーティーを意味している。
一度組んだパーティーは外すことはできない。4人組んだ時点で追加も削除もできないから慎重にな。
HPに関してだが、全員に100HPが与えられる。魔法を受けることにより減っていき、0になった時点で脱落する。
最終的に生き残ったパーティーのみが合格となり、卒業できる。
君達が使える魔法だが、今までに習得した中で適応が高いものから3つ選ばれる。何が選ばれたかは君達のスマホを見れば確認できる。君達のスマホにアプリをインストールしておいた。魔法についてはアプリを確認するように。魔法に関する質問は一切受け付けない。
そして、魔法攻撃以外の攻撃は禁止だ。相手のHPは減らないし、仕掛けた方がペナルティーを受ける。注意したまえ。
今までの説明は理解できたか?」
スラスラと読み上げられ、みんなポカーンとしていた・・・
・・・と、ここに空気の読めないヤツが1人手をあげた・・・
光平「せんせー!アプリはありましたが起動できないっすよ?」
先生「試験が始まってないのだから当たり前だ。試験開始後に確認すれば見れるようになる。」
孔美「先生・・あの・・・魔法で倒すということですが、今まで攻撃魔法は取得したことないのですが・・・」
先生「先も言った。魔法については一切の質問を受け付けない。使える魔法は本人しかわからない。むやみに喋ったりすると不利になるぞ。」
孔美「あっ・・・・」
凌(・・・やっちまったな・・・自ら「攻撃魔法は持っていない」と宣言してしまった・・・)
先生「他はないようだな。では1分後に試験開始する。君達の検討を祈る。
参考になるかわからないが、昨年の私のクラスの卒業生は1人だったよ。」
生徒「1人!?」
「そりゃ生き残ったヤツだけだもんな・・・」
「今回も最大で4人しか残れないんだ・・・」
クラス内がざわめいてる中、1人泣きそうな顔で俺の方を見ているヤツがいた・・・
凌(・・・このまま放っておけないか・・・)
孔美の側に行き、他に聞こえないように伝えよう。
凌「孔美、転送されたらこの教室に集合だ。そこでこれからの事を考えよう」
孔美「うん・・・わかった・・・ありがとう・・・・」
先生「そろそろ試験開始だ。用意はいいな!」
先生の言葉を最後に目の前が真っ白になっていく。
凌(きた!これが転送か!なるようになれ!!)
ー続くー