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第4話 殿、新入りでござる


1571年(元亀2年) 9月  近江国滋賀郡比良山中




「ごめんください」

比良山中の小舟木一統のアジトに百姓風の男が2人と女が1人訪れていた


ガラッ

「どちら様でしょう?」

真野が戸を開けて来訪者を確認する

「ここはどなた様の村なのでしょうか?」

「小舟木勘三郎様が逗留されています。あなた方は?」

聞けば織田に焼き討ちを受けた堅田から逃れてきたらしい



「織田に追われておるのは我らも同じ。見捨てるわけにはいかぬな」

「しかし、口が増えれば食料が不足する恐れもありますが」

能見山が懸念を口にする


「畏れながら、集落には畑もあるように見受けます。私は百姓ですので農作業はお任せいただければ、食い扶持くらいは確保できまする」


商人から上納(?)された牛は能見山が木製の牛耒(うしすき)を作り、鈴が種を調達して真野が畑を耕していた

米作りには水源が足りないので断念していたが、その代り瓜・大根・菜・豆・粟・稗・里芋など貴重な食料生産地となっていた


「わしは野鍛冶ですじゃ。農具や鍋釜などはお作りできますし、炭の焼き方も心得ておりまする。決して足を引っ張るようなことはいたしませぬ」

「こう言うておるのじゃ。敵を同じくする者同士、ここは助け合っていこうではないか」

「まあ、殿がそうおっしゃるのであれば…」


「「「 ありがとうございます!お頭! 」」」

「………殿と呼べ」



こうして、我らが小舟木村に新たな住人が加わった



畑作担当…孫六(25歳)元百姓

鍛冶担当…太兵衛(50歳)元野鍛冶

雑務担当…すえ(22歳)孫六の妻



孫六とすえに1軒と太兵衛に1軒の空き家をあてがい、都合3軒の集落へと進化した

鈴は最近では1か月滞在して2か月留守にするという生活に変わっていた



1572年(元亀3年) 9月  近江国滋賀郡比良 白髭神社



「やはりこのお社の景観は素晴らしい物があるのぅ」

「ええ、真に心洗われる気持ちです」

「今年も豊作だといいですねぇ」


勘三郎・能見山・真野の3人は琵琶湖畔に建つ白髭神社を参っていた

他にも参詣者がいて、ヒソヒソと話し合っていたが特に気にせずにいた

近江の白髭神社は沖島を背にした琵琶湖中に鳥居が立ち、『近江の厳島』と称される美しい神社だ



神社の近くには市がある

孫六とすえに交易を託していた勘三郎たちは、太兵衛の焼いた炭と鹿肉・鹿皮・キノコ類を主な交易品として市で売り、米・麻・塩・鍛冶材料の鉄を調達させていた

しかし、最近では大胆にも自分たちも里へ下りて市を物色し始めていた

見た目が()()なのでほとんどの人には怪訝な顔をされたが、唯一西川という行商だけは機嫌よく相手をしてくれた



「これは何かの?」

「蚊帳というものです。夜眠る時に虫が入らず快適ですよ」

「ふぅむ…………一つもらおうか」

「ありがとうございます」

「殿、そんなものを買ってどうするのです?」

「良い考えがあるのじゃ」


(良い考え?眠る時に使う以外何があるのだろう?)


行商人 西川甚左衛門は疑問に思ったが、深く突っ込むことを控えた




-その夜-



「すえよ。この蚊帳という織物、だいぶ丈夫に織ってある。これなら、人の一人や二人持ちあげることもできるのではないか?」

「ええ、しっかりした作りですね。でも何に使われるのです?」

「猪を捕まえる罠にできぬかと思うてのぅ」

「猪ですか。正面から当たられれば破けると思うのですが…」

「わしが引き付けるゆえ、地面に敷いたこの蚊帳の上に来た時に、上に引っ張って吊り上げればどうじゃ?」

「やってみなければなんとも…」

「では、やってみよう!」


勘三郎は乗り気だったが、能見山と真野は眉間にしわを寄せていた

勘三郎が張り切っている時は、たいていロクでもないことになるのを承知していたからだ



最近、孫六の畑を狙って猪が度々作物を食い荒らす被害が出ていた

確かに猪対策は急務といっていい




-翌日-




「ぬ お お お お お お お」

「「やっぱり」」


猪を捕まえる為、地面に敷いた蚊帳を紐で竹に結び、竹を押さえておいてタイミングを計って離す

蚊帳の網が空中に吊り上げられ、猪を捕まえる




はずだった






「殿、何やってるんです」

「能見山ぁぁぁぁぁぁぁ!!きっさまぁぁぁぁぁぁぁ!!」



網の中でもがく勘三郎がそこに居た


罠の上に立って猪に石を投げて挑発する予定だったが、突進の速さに足が怯んだ勘三郎と罠を発動させるタイミングを計り切れなかった能見山の絶妙なコンビプレイの結果だった

空中に投げ上げられる勘三郎の尻の下を間一髪で走り抜けた猪は、そのまま比良の山中に走り去っていった



「あの~おかしら、素直に落とし穴を掘ればいいんじゃないかと…」

孫六がおずおずと進言する

「殿と呼べ。早くそれを言わんか!」


結局、落とし穴を掘って竹槍を地面から生やした定番落とし穴によって畑を荒らす猪は退治された



「あっぶらみ♪ あっぶらみ♪」


鈴は猪肉で燻製を作り、今でいう猪ベーコンを心ゆくまで堪能した





……果たして六角家の再興は成るのか!?




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