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第12話 殿、それでは子供でござる



1600年(慶長5年) 9月15日  近江国滋賀郡和邇郷




「堅崎とかいう郷がこの先にある!逃げ込んだ京極を討つのだ!」

主だった武将達を前に立花宗茂が最後の軍議を開いていた



ざわざわざわ



なにやら陣外が騒がしい


「殿、何やら、…その、妙な旗指物を差した兵達が西近江路の北より現れたとの報告にございます!その数、約20騎!」

「妙な旗指物?」

大将宗茂以下、主だった武将達が何事かと陣幕の外へ出る




西近江路の北から我らが小舟木勘三郎が騎馬(鹿?)20騎と共に立花勢に相対していた

その背には手書きの旗指物がひらめく


本来、旗指物とは戦場で自分の居場所や所属を示すためのものだ

そのため、主家の家紋や自身の主義主張などを示す場所としても使われた

『風林火山』『天下布武』など

要するに精一杯格好を付けるものだった


我らが勘三郎達の背に負った旗指物には



『立花公 脱糞致候』



………






現代語で意訳してみよう


『ヘイ立花!ウ〇コ漏らしてビビってんじゃねぇぞ!この〇ソが!』





………子供かっ















ギリギリギリ…



………んん?




顔を芯から真っ赤にした立花宗茂以下立花勢の()()()()()()()が、勘三郎目掛けて突撃した


「「「「〇すぞコラァァァァァァァァァ!!」」」」




ええ~……



「おおお…掛かった掛かった。 逃げるぞ!」

勘三郎の号令一下、小舟木勢は一路北へ駆け抜ける


大将以下主だった武将達が突撃したことで、やむを得ず配下の兵たちも一路北へ突撃した



木戸郷の街道は東に向かった後、(うみ)に沿って北への曲がり角となっていた

曲がり角の先で孫六が勘三郎を迎えていた



「おかしらぁ~」


「と、殿と呼べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

孫六!仕掛けを早くぅぅぅぅぅ!!!」


言い終わらぬうちに、山が動いた と思った瞬間立花勢1万5千が全力で街道を走ってきていた



「「「「待てやゴラァァァ!!」」」」

「ひぃ!」


孫六は驚きながらも、後ろに控えさえた猪50頭を次々と檻から解き放った

正面に向かうよう、後ろからムチを入れて追い立てる



ドドドドドドドドドド!!!


わぁっ!

ぐえっ!

ぎゃぁぁぁぁ!



立花勢の先頭が次々と跳ね飛ばされる

(うみ)と山に挟まれた狭い街道で、逃げ道もなく兵達は次々と跳ね飛ばされるか、(うみ)に飛び込んで難を逃れた



「おのれぇぇぇ!鉄砲!!」


少しだけ冷静さを取り戻した宗茂が、鉄砲兵200を構えさせる


「放てぇぇぇぇぇ!」


ダダダダダーーーン




「ああ!猪次郎!猪助ぇぇぇぇぇ!」

勘三郎が吼えた

「おのれ立花!わしのかわいい猪次郎達を!」

「言ってる場合ですか!逃げますよ!殿!」

能見山に鹿三郎を引っ張られ、大物(だいもつ)の坂を比良山中へ進路を取った


「逃がすな!追え~~~!!!」



思わず挑発に乗ってしまったことを恥じながら、宗茂以下武将達がようやく兵を指揮し始める

西国無双と言われた立花勢は、まともにやれば小舟木勢の山賊衆に遅れを取る弱兵ではなかった



比良山中に逃げ込んだ小舟木勢は、途中の忍び兵達と合流し、罠を発動させながら山を登った



山を転がり落ちる丸太

乱れ飛ぶ蚊帳

落とし穴の先の竹槍に串刺しにされる者

しなる竹に脳天を打ち抜かれ、白目をむいて倒れる兵達

スネを押さえてうずくまる者もいた



しかし、所詮総勢で330名のゲリラ隊は、1万5千の立花勢に徐々に押し詰められていった

次々と打ち取られる忍び兵と堅崎兵に焦りを感じながらも勘三郎達は山中で必死に防陣を張っていた



「この!この!このぉ!」


ジリジリと三方から押し詰められ、勘三郎も自ら刀を振るっていた

足軽たちの槍先が勘三郎へと突き出された



その瞬間




ヒュンッ




ぐえっ

グシャッ




縄で吊られたひと抱えほどもある太い丸太が、空中を舞って横から足軽たちを薙ぎ払っていった

見上げると鹿に跨った鈴が颯爽と見下ろしていた


「「「あねさん!」」」

「お方様と呼びな!勘三郎!ひとまず棚田へ!」

「応!」


間一髪危機を脱した勘三郎本陣は、田を開いた場所へ逃げ込んだ

田には水を張ってあり、あぜ道以外はぬかるんで行軍に不自由だった



ターーーーン  ぐえっ

ターーーーン  あがっ

ターーーーン  おぶっ



田に足を取られた者たちのうち、物頭と見える者たちを小舟木狙撃隊が順次撃ち殺していった

効果は絶大で、徐々に逃げる兵が出始めた


もう夕日が傾き始めていた


本陣があぜ道を駆け抜けた所で、周辺に潜んでいた忍び兵達が田全体に煙玉を投げて煙幕を張った

視界が効かない中での追撃は危険と判断した宗茂は、一旦麓に兵を退き、陣を張った






夜、勘三郎達は小舟木館で京極高次を中心に軍議を開いていた


「今日一日が限度ですな。明日は守り切れんじゃろう」

今日一日の戦いで、小舟木勢330は半分以下にまで数を減らしていた


「明日、わしが敵を引き付けまする。その間に京極様は抜け道から高島に下り、船で八幡を目指して下され。八幡は京極様のご領地。きっと商人達が尾張まで逃れる手はずを整えてくれましょう」

「そなたはどうするのだ?」

「京極様に拾われた命でござる。ここでお役に立てるならば本望というもの」

「勘三郎…」


京極高次は軽く頭を下げた

「そなたの忠勤、忘れぬぞ」



「鈴、嘉太郎。そなたらは京極様をお守りして八幡を目指すのだ。よいな」

「……嘉太郎。京極様をお守りしなさい。仁助殿、京極様と嘉太郎をお願いします」

「鈴!」


鈴がプイと横を向く

「……先に死ぬのは、許さないから」

「鈴…」

全員がニヤニヤと勘三郎を見た

一瞬空気が和んだ



「小舟木殿。京極様と嘉太郎殿はお任せ下され。我が主も必ずや力になってくれましょう」

「仁助殿、どうか良しなにお願いしまする」





一方その頃


比良山麓に布陣する立花の本陣へ、伝令が駆け込んでいた


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