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武装特別警察部隊の少女達  作者: 仮名
第10話 1950年 6月~7月頃
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淑女の塔⑤


1.3人組

2.予感

3.往く途


1.3人組


「彼女の名前は何と言うんだ」


「テレーズだと、本人は言っていました」

サーシャの声は長閑だった。


「とってつけたような名前だ」


ケリーは鼻を鳴らした。


「本当だと思うか」


「自分でそう言っていましたよ」


ケリーはまだぶつぶつ文句を言っていたが、サーシャは無視した。


(意気地がない人だ)


罠であろうとそうでなかろうと、今はこの少女についていく以外に選択肢がないのである。


「不満があるのでしたら、お一人でどうぞ」


むろん、足を怪我しているケリーも、二人についていく以外に選択肢はない。


暫くすると、階段の途中にがれきが積み上げられている場所についた。


旧い椅子や木切れ、雑多ながらくたが、見上げるような高さまで積み上げられている。


テレーズは困惑したような顔をした。


サーシャは、がれきの山を見上げた。


遥か上の方に、わずかだが、隙間があるようだった。


独りならよじ登って、超えられるかもしれないが、ケリーを抱えたままではとても無理そうだった。


「ここで待っていてください。先に行って、迂回路がないか探してきます」


「逃げるなよ」


「逃げませんたら」


サーシャはがれきに手をかけた。


「先に行ってくれ。私が下から支える」


テレーズは頷いて、がれきに足をかけると、するすると登り始めた。


サーシャも、崩れないよう足元を確かめながら、慎重に上り始めた。



2.予感


独り残されたケリーは、足の痛みに耐えながら、長い時を過ごしていた。


「くそっ、この足さえなければ。あいつら、調子に乗りやがって」


悪態をついていると、不意に、ふわりとどこからか風が吹いてきた。


その風に乗って、物音が聞こえた。


(化け物か!)


いや、違う。

明らかに、人間の話す声だった。


(どこだ、どこからする)


止せばいいのに、ケリーは足を引き釣りながら、声の元を探した。


元居た場所から、奥へ奥へと進んでいくと、ある場所で、床の羽目板の隙間から、かすかに光が漏れていた。

風に乗って、微かに声が聞こえた


ケリーは床に這いつくばり、床の隙間に片目を近づけた。


黄色のぼんやりした電灯の明かりと、人の話す声が聞こえた。


「・・・やる・・・を・・・」


「・・・時間がありません・・・を・・・実戦に・・・が・・・」


「・・・かし。まだ未完成・・・で・・・制御できな・・・」


「あちらの強い要望で・・・・我々に選択権は・・・」


「畜生」

一際大きな声がした。


「何をしようとしているのか、君もわかっているだろう」


「無論」

こちらも、うって変わってはっきりと聞こえた。


「我々は、歴史に名を遺すかもしれぬな。野蛮な殺戮者と、その主人としてな」


「元より、戦とはそのようなものかと」


暫く、言葉が途切れた。


はっきり見えないのに、表情だけで相手の心の内を探りあっている様子が感じ取れた。


「分かった。全て君に一任しよう」


「仰せの通りに」


「信頼している。全て君の判断だ、ロックハート君。良いな」


「もう一つだけ、いいですか」


「何だ」


「上に、汚い鼠が一匹。始末せねばなりません」

背筋が冷たくなるような声だった。


そして、その声は、明らかに床下ではなく、すぐ背後から聞こえた


ケリーは、跳ね起きるように振り向いた。


人影があった。


「ご覚悟」


キラリと抜身の刃が煌めいた。


「わああっ!」

ケリーは、尻餅をつくと、声をあげて後ずさった。


「く、来るな。あっちへ行け、助けて、助けて下さい」


「命乞いですか」


「助けて・・・お願いします!」


(いな)

言うが早いか、剣筋が一筋の白い光となって、ケリーの肩口に吸い込まれていった。



3.往く途


同じ頃、サーシャはようやくがれきの山を乗り越え、反対側に降りた。


ふーう!、サーシャは床に腰を下ろすと、大きく息を吐いた。

普段から鍛えていない体には堪える。


腕も、足も重く、燃えるように熱かった。


テレーズはそれとは対照的で、こちらは息も切らしていない。


「身軽なんだな」


「・・・」


何も言わず黙っている。


「怪我はないか」


「・・・」


「すまない。ないならそれでいいんだ」


「・・・」


テレーズは黙って階段の上の方を指さした。


「行くのか?分かってる。ただ、少し休ませてくれないか。手も足もクタクタでね」


「・・・」


テレーズは手を降ろした。


「ありがとう」


サーシャはほっとした。その時、上着の内ポケットに何かが入っていることに気が付いた。


引っ張り出してみると、ひしゃげた軍用チョコレート(Dレーション)の箱だった。

行きがけに、ポケットに突っ込んできたのを忘れていたらしい。


不意に、空腹感を覚えた。そういえば、昨日の昼から何も食べていなかった。


サーシャが苦労して、チョコレートにへばりついた銀紙を引きはがしていると、テレーズがそれをじっと見ているのに気が付いた。


「食べたいのか」


テレーズは頷いた。


「手を出して」


サーシャはその差し出した掌の上に乗せてやった。


「一気に噛まないよう。硬いから、歯を痛める。食べるときは、まずこうやって」


サーシャは口に含んで見せた。しばらく口に含んで、柔らかくしてから食べるのが作法である。


その顔が可笑しかったのか、彼女はくすりと笑いを溢した。


サーシャも、少し肩の力が抜けるのを感じた。


暫く会話が途切れ、チョコレートを咀嚼する音だけが響いた。


「そういえば」


サーシャは思い出したように言った。


「君はあの時、どこへ行こうとしていたんだ?」


小刻みに動いていたテレーズの口が、ぴたりと止まった。


沈黙が流れた。


「もしかして」


「・・・」


「上に行こうとしていた?」


テレーズは黙ったままだった。


「そうなのか?」


「・・・」


「そうなんだな?」


「・・・」


「教えてくれ、どうして上に行こうとしていたんだ?」


「・・・」


「この上には、いったい何があるんだ?」


「おうち」

それまで黙っていたテレーズが、突然言葉を発した。


「私の、おうちがあるの」


(うち)?」


サーシャは、背中にぞわりとした気配を感じた。


(何だ?「家」があるとはどういう意味だ?いったい何を言ってるんだ?)


混乱していると、不意にテレーズが呟いた。


「でも」


「どうした」


「もう行けない」


「なぜ・・・」


テレーズはじっとサーシャの顔を見ていた。


いや、目が、サーシャを見ていなかった。


肩越しに、背中の先あたりをじっと見つめていた。


サーシャは、振り向いた。


10メートルほど先、階段上に、何かの影が這いずるのが見えた。


影が、音もなく立ち上がった。


見上げるほどの高さに、怪物の顔があった。

その燃えるような紅い目が、サーシャを見据えていた。


思わず、腰に手をやった。

その手が、何にも触れないまま、空を切った。


サーシャは、今更、武器探しを忘れていたことを思い出した。


背後は、今乗り越えてきたがれき。


(逃げられない)


サーシャは丸腰のまま立ち上がり、両手を広げて、テレーズの前に立ちふさがった。


何を考えてそうしたのか、彼女自身にも分からない。


影が、ゆっくりと近づいてくるのを見た。


(私の最期なのか。これがか)


人のいのちとは、かくも呆気ないものか、と思った。


(ここに来たことが、そもそもの間違いだったのだ)


吐き気を催すような悪臭を帯びた風が、一瞬顔面に吹き付けてきた。


えずく間もなく、瞬時に視界が暗転し、サーシャの意識はそこで途切れた。





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