死命①
1.
基地に戻ると、クリスは外出中とのことで不在だった。
チャーリーは仕方なく、写真を戸棚の中の積んである本(ほこりをかぶっていて、一度開いたことがあるかどうかも定かではないが)のページとページの間に、しっかりと挟み込んだ。
念のため、戸棚にはしっかりと鍵をかけたことを確認し、それから部屋を出た。
チャーリーが玄関ホールで外の様子を見ていると、トラックが2台、どこからともなく現れて玄関先に停まり、その荷台から、クリスがぽん、と飛び降りてきた。
クリスは、玄関の方に歩いてきて、待ち構えているチャーリーに気が付くと、不思議そうな顔をした。
「どこにいたんですか。探してたんですよ」
「ちょっと出かけてた」
クリスはどことなく浮かない顔をしている。
「どうしたんですか?」
「うん、ちょっと・・・。また妙な事件が起こった・・・。しばらく大変になるかもしれない」
2.
クリスは、また聞きした話なので、どこまでが本当のことなのか分からないが、と前置きをしてから、事件の概要を話し始めた。
そもそもの発端は、3月ほど前までさかのぼるらしい。
その日、とある男が、夜更けに帰り道を急いでいた。とある会合の帰りで、かなり酒も入っていた。
町はずれの公園のわきを通りかかったとき、急に、足元の茂みから何かが飛び出してきた。
あっ、と思った時には、もうそれに足をとられて、前のめりに倒れるところだった。
とっさに地面に手を突くと同時に、背中に重みと、熱い痛みを感じた。
振り向くと、何かが背中の上に乗っていて、刃物が光るのが見えた。
とっさに振り払おうとしたが、そいつは飛びのいて逃げて行った。
出血はあったが、幸い、大けがではなかったので、近隣の家に駆けこんで事なきを得た。
それが最初の事件らしい、とクリスは言った。
「始めは一般の事件ということで、武装警察ではない普通の警察が捜査をしていた。ところが、何も分からないまま、立て続けに似たような事件が起きた」
クリスはメモ帳をぺらぺらとめくった。
「今のところ死人こそ出てないが、被害者は増え続けている。今月だけでもう5人。聞く限りどう考えても同じ犯人だ。だが、普通の警察はもうお手上げらしい。3か月も経っているのに、何一つわかっていない」
「とはいえ、連中としても、これ以上、進展の見込みがない捜査に時間をかけるわけにはいかない。何しろ、被害者が続々と増え続けている。それでこっちに協力を仰いできた」
被害者だが、とさらにクリスは続けた。
「調べてみたら、全員、元々は軍にいたそうだ」
「西部ですか」
「そう」
「そうじゃないかと思いました。それもあってこっちに話が」
「よくもまあ、飽きもしないものだよな」
「逃げたって。相手は人間ですか」
「それがよく分からない。人間みたいだった、という話だ」
「みたいだった、とは?」
「人間にしては、やけに小さかったそうだ。暗くてよく見えなかったそうだが、子犬か子猫ぐらいの大きさに見えたそうだ」
「野犬とかでは?」
「刃物が確かに見えたそうだ。実際に背中に刺し傷があった。野犬は刃物を使わない」
それに、とクリス。
「そいつは、二本足だったそうだ。確かに見たと言っているらしい」
「・・・」
チャーリーは言い様のない薄気味悪さを感じた。
「ほかの被害者でも、二本足で走って逃げていくのを見たと言っている者がいる」
「気味悪いですね」
(小人だろうか?童話の小人のような奴がいるのだろうか?)
チャーリーはよくわからない。もっとも、誰にもわからないからこちらに話が回ってきたのだろうが。
「それにしても、最初からこっちに言ってくれればいいですよね。初動が早ければ、何かできたかも」
「連中には連中のプライドがあるからな」
(それに私たちはいろいろ嫌われてるからな)と、クリスはぼそりと呟いた。




