地球への帰還(その一)
一瞬後、僕は美緒ちゃんの病室の
ベッドの下にいた。
意思からなる身体だけど、ちゃんと
肉体を持ってる。
美緒ちゃんの霊体が、彼女のオリジナ
ルの肉体の中に戻ったかどうか、僕は
心配だった。
◇◇
瞬間移動の時はスピードが速過ぎて
移動場所までのプロセスがよく見え
ないんだ。
さすがに千四百光年も宇宙空間を
移動する時は、周りの景色がよく
見えるけど、近い場所に行く時は
文字通り瞬間なんだ。
一瞬後には目的地に着いてる。
僕たちは千四百光年もの距離を
三十分くらいで移動して来た。
次元転移システムで別次元を通っ
ても、スピィア星から地球までは
二時間はかかるらしい。
「君は千四百光年もの距離を次元転移
もせずに三次元を通って三十分で着く
んだから凄いよ。しかも意思の力だけ
でやってるんだから、奇跡としか言い
ようがない!」
って以前、カミュが言ってた。
そう言えば、祝宴期間中は久し振りに
のんびり出来たから、カミュが僕の意
思からなる身体の分子構造を調べてく
れたんだ。
検査結果は普通人の肉体と全く変わら
なかったらしい。
細胞もDNAも染色体の数も、一般人と
全く同じだったそうなんだ。
「君の能力は純粋に意思の力による
ものだとしか考えられない。現在の
科学では分析出来ないけど、たぶん
そこには霊的な力も働いているよう
な気がする」
ってカミュは言ってた。
幽界や霊界を通って来た場合は
もっと速いと思う。
この間、美緒ちゃんと一緒に幽界から
スピィア星に瞬間移動した時は、本当
に一瞬だったから。
あの時は、三次元を移動する時とは
全く感覚が違った。
移動するって言うよりは、引き寄せる
感じだったんだ。
『幽界では自分の意思が実現化する』
って、美緒ちゃんが言ってたけど
まさにそんな感じだった。
あの巨大温室を、自分の意思の力で
目の前に引き寄せて、実現化した感
じだったんだ。
◇◇
それはさて置き、美緒ちゃんの病室
には人が二人居た。
僕は美緒ちゃんのベッドの下にうつ
伏せになってた。
ベッドの下から脚が四本見える。
恐る恐る覗いてみると、その二人は
美緒ちゃんのパパとママだった。
ベッドの下は骨組みがむき出しで
遮る物があまり無かったから腰を
屈めれば、僕の体が直ぐに見える
状態だった。
でも助かったのは、美緒ちゃんの
両親がソファーに座って、寛いで
たことだったんだ。
病室の壁時計を見ると、朝十時くらい
だった。
朝の健診が終わって、ひと段落ついた
ような雰囲気だった。
美緒ちゃんのパパは新聞に目を通し
てた。
ママは文庫本を読んでる。
僕は体の中で霊体を一ミリずらすと
フワフワ浮いて美緒ちゃんのベッド
の上に出た。
美緒ちゃんは、大きな瞳をキラキラ
輝かせて天井を見上げてた。
[良かった、上手く行った! 美緒
ちゃんの意識が戻ったんだ!]
って、僕は思った。
美緒ちゃんはもう、肉体の中に戻って
たから僕の霊体には気づかなかった。
だけど僕は死ぬほど嬉しくて、美緒
ちゃんの横にしばらく添い寝して、
彼女の頬に何度もキスをした。
彼女は両親の方を見て身じろぎして
たけど、流動食の管に声帯が圧迫さ
れて声が出せないみたいだった。
でも美緒ちゃんのママが気配に気づい
てベッドに駆け寄って来たんだ。
「あなた・・美緒が・・美緒が!
目を覚ましたわよ!」
美緒ちゃんのママが大声で叫んだ。
すると、親父さんがベッドに駆け
寄って来て泣いたんだ。
親父さんは美緒ちゃん手を握り
彼女の頭を何度も撫でてた。
美緒ちゃんも大きな瞳から涙を
こぼし、パパとママに向かって
何度も頷いてた。
病室のドアを開けて、看護師さんたち
が入って来たから、僕は慌てて自分の
肉体に戻り、都営住宅の自分の部屋に
向かって瞬間移動したんだ。




