バラムの侵攻
街に近づくと、僕は奴らから狙われ
ないようにかなり減速して飛んだ。
音速を超えると轟音が凄いから。
夜だし、僕のシールドはレーダーで
捕捉出来ないから、奴らは気づかな
かった。
街に着くと僕は驚いた。
街の至る所に空爆を受けた跡が
あって、地面にボコボコ穴が開
いてたんだ。
僕は低空飛行で街の様子を見て
回った。
素敵な未来都市みたいだった
街並みは、建物のほとんどが
壊れてて、まるで廃墟みたい
になってた。
所々でまだ火が燃えている。
姫が囚われてたジューク塔も真ん中
から真っ二つに折れて、折れた部分
が地面にめり込んで、街中に長々と
横たわってた。
何層にも連なってた駅のホーム
は崩れ落ち、車両が何台も地面
に投げ出されてた。
墜落した円盤が何機もあり、街中に
は至る所にヒューマノイド兵の残骸
が無数に転がってた。
特殊軽量柔金属で出来た彼らの白銀
のボディーは、無残にも首や胴体や
手足が散り散りになってそこかしこ
に転がってた。
相当激しい戦闘があったことを
物語ってた。
僕は悲しくて涙が出そうになった。
白銀のボディーを別にすれば、彼ら
の思考は人間と全く変わらない。
学習能力はあるし、人間と同じ様に
想像や同情だって出来るんだ。
人間じゃないから、テレパシーだけ
は通じなかったけど、彼らはいつも
プログラムされた日本語で僕に話し
かけてくれたんだ。
[ひど過ぎる! チックショー、
バラムの野郎!]
僕はまた目が眩むほどの怒りが
込み上げて来たんだ。
でも、今は冷静にならなきゃ
いけないって思った。
僕は戦士にしては動揺し過ぎだって
さっきセシルから注意されたばかり
だったから。
不思議だったのは、街の広場がそこ
だけスッポリと無くなってたことな
んだ。
東京ドームくらいある大きな広場だっ
たんだけど、そこの地面全体が五メー
トルくらいの深さで根こそぎえぐれて
跡形も無くなってた。
着地して平らな断面を触ってみると、
ツルツルしててスケートでも出来そう
な感じだった。
ただ一つだけ僕がホッとしたのは、
ヒューマノイド兵の残骸とアーリン
星人の死体はたくさんあったけど、
人間の遺体が一つも無かったことな
んだ。
バラムが攻めて来る前に、王様が
街の人たちを全員避難させたんだ
ろうと思った。
この星の人たちはみんな優しくて、
争いや喧嘩を好まないし、戦争なん
かとても出来るような人たちじゃな
いんだ。
王様やカミュは、この星の人たちの
中では特殊な部類かもしれない。
◇◇
街外れの方まで飛んで行くと、
郊外の広い平原の中にバラムの
本隊が居ることに僕は気づいた。
奴らは巨大な円盤の周りを大、中、小
の円盤で取り囲み、編隊を組んで駐屯
しているようだった。
あの空飛ぶスクーターみたいな乗り物
も周りにたくさん並んでた。
奴らの円盤はみんな、円と言うよりも
六角形に近い型だった。
所々が歪に膨らんでて奇妙なデザイン
なんだ。
色もゴキブリみたいに、テラテラした
茶色で気持ち悪かった。
たぶん奴らの美的感覚は、僕らと
全然違うんだろうと思った。
スピィア星の円盤は、王様のお城みた
いに輝くような白でカッコ良いんだ。
奴らは、各所に衛兵とサーチライトを
置いて警戒してた。
連中は方々にかがり火を焚いて、
野営してるみたいだった。
奴らは牛乳やヨーグルトを飲みながら
チーズを焼いて食べてた。
バターは溶かさずに、大きな固まりを
そのまま頬張ってた。
僕は平原そばの林の中から様子を
伺ってたんだ。
しばらくすると、巨大な円盤の扉が
開き、大きな歓声が上がった。
「ガルル、グルル、バルル!」
って、連中は叫んでた。
みんな拳を突き上げて
立ち上がってる。
何を言ってるのか全然
分からなかった。
すると、円盤のタラップのところに
バラムが現れて、大声で話し始めた
んだ。
毛並みが黒いから、奴だって直ぐに
分かった。
血のように赤い四つの目玉が燃える
ように光ってた。
「諸君! 我々はスピィア星の征服
まで、とうとうあと一歩のところ
まで来た。我々は昨日までにこの
惑星の五つの大陸のうち三つまで
を攻め落としていたが、残り二つ
の大陸も陥落したと、たった今、
同士より報告があった」
バラムの話す言葉だけはテレパシー
で僕にも分かった。
連中の歓声が一段と高くなった。
[残り二つの大陸も征服したって?
姫や王様は無事だろうか?]
って僕は物凄く心配になった。
するとバラムはこう言ったんだ。
「だが諸君、まだ安心するのは早い。
なぜなら敵の本隊はこの惑星のどこか
に潜み、虎視眈々と反撃の機会を狙っ
ているからだ。決して気を緩めるな。
ミュエル王とミュレーナ姫はまだ生き
ている。この星の象徴であるあの二人
の首を取らなければ、我々はまだ勝っ
た事にはならない」
連中はシーンと静まり返って、
バラムの話を聞いていた。
二人が生きていると知って、
僕はホッと胸を撫で下ろした。
すると奴はこう言ったんだ。
「それに我々には、もう一つやらな
ければならないことがある。それは
あの地球から来た小僧の始末をつけ
ることだ。奴を片付けなければ我々
の勝利はないものと思え。あの小僧
は不死身らしいが、俺様がこの偉大
なる暗黒エネルギー砲で、奴の魂も
ろともブラックホールに放り込み、
二度と出て来れなくしてやる!」
ってバラムが言うと、奴らはまた
拳を突き上げ一斉に声を上げた。
そして奴は最後にこう言った。
「諸君、奴はすぐそこにいる!
あの小僧をぶち殺せ!」
そう言うと、奴はいきなり燃えるよう
な赤い目玉をこちらに向け、林の中に
隠れてる僕の方を指差したんだ。
僕はギョッとして息が出来なかった。




