夢の中の惑星
僕はまたあの夢を見た。
夢の中の僕はいつも地球とは違う他の
惑星にいて、大空を自由に飛んだり、
念力で物を動かしたり出来るんだ。
不思議なのは、僕が空を飛ぶと、その
惑星の人達が拍手喝采してくれること
なんだ。
だから僕は調子に乗って、つい無茶な
飛び方をしてしまう。
一度なんか、その惑星の大気圏を超え
て宇宙まで行こうとしたら気絶して、
気がついた時は大地に叩きつけられる
寸前だった。
その時は、ジェット機みたいな速さで
大気圏に突入し、もう少しで大気圏を
抜けるとこだった。
だけど宇宙の暗闇が見えた途端、
僕は怖くなったんだ。
そしたらパワーが無くなって、
地面に向かって真っ逆さま。
僕は恐怖で絶叫し、次第に意識が薄れ
て行った。
地面すれすれまで来た時、
風圧で目が覚めたんだ。
僕の顔に目も開けられないくらい強い
風が当たってて頬っぺたもブルブル震
えてた。
地上まで残り百メートルのところで、
僕はパワーを取り戻し、間一髪で急
上昇、何とか一命は取りとめた。
僕が冷や汗たらたらで街の広場に
フワフワ舞い降りると、群衆が取
り囲み、僕は揉みくちゃになった
んだ。
「ショウタ! ショウタ!」
って、みんな大声で僕の名前を叫ん
でた。
それ以来、 危ない飛び方はもう止め
たんだ。
◇◇
その惑星は地球に凄く似てるんだ。
太陽も昇れば月も出る。
山もあれば川も海もあるし、
大陸もある。
でも、細部は少しずつ違うんだ。
その惑星の人達の体つきや顔つきは、
地球人と全く変わらない。
黒人も白人もモンゴロイドもいる。
でも寿命が凄く長いんだ。
平気で千年以上生きるらしい。
見た目もみんな若いんだ。
科学技術が地球より発達してて、
医療が進んでるからだと思う。
言語は統一されてるみたい。
その惑星には、南極以外に大陸が五つ
あるけど、どの地域に行っても、みん
な同じ言葉で話してる。
フランス語に少し似てるけど、
半濁音が多いみたい。
例えば、
「パチュピチュプチュペチュポチュ」
みたいな感じでみんな話してる。
初めて聞いた時は可愛いなと思った。
もう一つ、彼らはコミュニケーション
の手段として、テレパシーも使ってる
んだ。
これには僕も驚いた。
僕が日本語で話しかけても彼らは理解
する。
逆に彼らから、その惑星の言葉で話し
かけられても僕は理解できるんだ。
声が届く範囲なら、強く念じれば伝わ
るみたい。
僕の思考の中に、彼らの思考が突然
湧き上がって来る感じ。
最初はビックリしたけど僕の思考が
全て読まれている訳じゃないって知
ってホッとした。
お互いに伝えたい事しか伝わらない
みたい。
街の感じも地球とよく似てるけど、
所々に地球では考えられないくらい
高くて大きな塔が建ってるんだ。
どれも円柱形で千メートル以上ある。
街並みも変わってて、半球体か円錐形
の建物が多い。
円錐形の上に球体が載ってて、その
また上に立方体が載ってるのもある。
どういう仕組みかよく分からないけど
その球体や立方体はゆっくり回転して
るんだ。
車や電車も走ってる。
デザインは流線型が多いけど、基本的
には地球の車や電車によく似てる。
ガソリンでも電気でもなく、地球上に
はない特殊な動力で動くみたい。
道路や線路の上を走る時、少し地面か
ら浮いてるし、凄く静かで速いんだ。
許可を受けた車は、空を飛んでもいい
らしい。
飛行機は地球のみたいな形じゃなくて
みんな円盤型なんだ。
凄く大きいのから小さいのまで色々
ある。
海の上にプカプカ浮くこともできるし
海中に潜ることだってできるんだ。
だから地球みたいな船は無い。
◇◇
テロや戦争は無いし、気候も良くて、
病気や貧困も無いから、凄く暮らしや
すい星なんだけど、ただ一つ、この星
の人たちが悩んでることがある。
それは、アーリン星人の奴らがこの星
の姫を攫って、高い塔の上に幽閉した
ことなんだ。
アーリン星人っていうのは変な奴らで
二千年くらい前に他の惑星から宇宙船
に乗ってやって来て、この星に住みつ
いた奴らなんだ。
僕等と同じヒューマノイド型の宇宙人
なんだけど、見た目は化け物みたい。
全身が豚毛のような細かい蜜毛で覆わ
れてて、小さな黒い眼玉が顔の左右に
二つずつ、合計四つ付いてる。
細長い左右の耳は角のように上に伸び
てて、耳元まで裂けた口には邪悪そう
な牙がぎっしり生えてる。
だから地球の般若のお面にそっくりな
んだ。
体が大きくて、みんな二メートル以上
ある。デカいやつは三メートルを超え
ている。
奴らはよく響く、低音の恐ろしい声で
話すんだ。
テレパシーも通じないし、何を言って
るのか全然分からない。
奴らは野菜や果物を全く食べない。
乳製品が大好きで、いつもチーズとか
バター、ヨーグルトみたいなものばか
り食べてる。
だから恐ろしい外見とはちぐはぐに、
奴らは赤ちゃんみたいに乳臭いんだ。
こいつらが姫をさらって高い塔の天辺
に閉じ込めたから、この星の王様は、
カンカンになって怒ってる。
この星の人たちはあんまり怒らない
から、これは珍しいことなんだ。
無理もない。
ミュレーナ姫はこの世のものとは思え
ないほど美しい姫なんだ。
あの青く輝く大きな瞳で見つめら
れたら、男はとても冷静じゃいら
れない。
シミ一つない桜色の綺麗な肌に、
長い金髪が輝くようで、細っそり
した彼女の体には、常に後光が差
してるみたいなんだ。
初めて姫を見た時、同級生の美緒
ちゃんに姿形がそっくりなんで、
僕は二重に驚いたんだ。
後で詳しく説明するけど、美緒ちゃん
っていうのは学校一の美人で、皆んな
の憧れの的なんだ。
それはさておき、僕が初めて
ミュレーナ姫に会ったのは、
つい最近のことなんだ。
もちろん夢の中でだけど。
◇◇
その時僕は、惑星で一番高い塔の近く
を飛んでた。
その塔は三千メートルくらいあって、
塔の天辺は雲の上に突き出てた。
僕が面白がって、塔の周りをグルグル
回ってると、奴らが攻撃して来やがっ
たんだ。
あいつらは小型のスクーターみたいな
乗り物に乗って空を飛んでた。
五、六機くらい居たのかな。
突然僕の後方に現れて、機関銃みたい
な武器で攻撃して来たんだ。
背中のところをいきなり弾丸が掠めて
行ったから、僕はハッとして気がつい
たんだ。
僕は慌ててシールドを張って防御
した。
高速で飛ぶ時、僕はいつも念力で
体全体にシールドを張るんだ。
そうしないと顔や体に風圧をもろに
受けるからね。
シールドは強化ガラスみたいな物質で
出来てるわけじゃないから、結界って
言った方が良いかも知れない。
僕の念力は非物質のエネルギー。
僕の念力で出来た結界はアリ一匹
通さない。
高速で飛ぶ時は、体の周りに空気
ごと結界を張って、空気ごと移動
する感じ。
僕はジェット機以上のスピードで自分
の体を飛ばせるから僕の念力は物凄く
強力なんだ。
やり方は簡単、ただ念じるだけ。
弾丸が弾き返されるんで、奴らは驚い
てた。
弾丸が掠めた肩のところが火傷したよ
うにヒリヒリして痛かった。
もうちょっとで死ぬところだったと思
うと、僕は無性に腹が立ってきた。
だから僕は、猛スピードで奴らの背後
に回り込み、
「こんチクショー!」
って叫んだんだ。
意識を集中し、僕は大気中のたくさん
の空気を野球のボールくらいに圧縮し
一発ずつ奴らにブチかましてやった。
奴らは爆風に吹き飛ばされて、空飛ぶ
スクーターもろとも地上に向けてまっ
逆さまに落ちて行った。
「やーい、ざまあ見ろ!」
って言って、僕はせいせいしたんだ。
◇◇
僕はシールドを外して風を受けな
がら、しばらく空中に佇んでた。
ふと顔を上げると、高い塔の天辺の
大きな窓から、ミュレーナ姫が僕を
見てたんだ。
青く輝く大きな瞳に、僕は魂が吸い
込まれそうになった。
豊かなブロンドの長い髪が、
艶やかにきらめいてた。
彼女はスラリとした体に淡い紫の
シンプルなドレスを着てた。
信じられないほど美しかった。
年は僕と同じ十七歳くらいに見えた。
もっとも、この惑星の人たちは長生き
で年齢不詳だから、実年齢はもっとい
ってるのかも知れない。
彼女は僕の目を見て何か呟いてた。
一瞬後、僕の思考の中に、彼女の思考
が湧き上がって来たんだ。
「私はミュレーナ。お怪我はありませ
んか? あの人たちを退治してくれて
ありがとう。私も今日は、少し胸が晴
れました。あなたはなぜ空を飛べるの
ですか?」
ってね。
だから僕はこう答えたんだ。
「僕は翔太、怪我は大したことな
いよ。何で飛べるのか、自分でも
よく分からない。自分の星じゃ飛
べないんだ。僕はこの星に来ると、
なぜか飛べるし、念力も使えるんだ」
「あなたは他の惑星からいらしたので
すね?・・不思議な方。あなたはとて
もお強いのですね。ぶしつけなお願い
ですが、どうか私を助けて頂けません
か? 私は長い間、この塔に閉じ込め
られているのです。この星の王も民も
皆、私のことを心配しています。特に
私の父である王の怒りは頂点に達して
いると聞いています。このままでは、
父は戦争を始めてしまうかも知れませ
ん。この争いの無い穏やかな星で、私
のために戦争が起こるなんて」
その時まで、僕は事情を知らなかった
んで驚いた。
同時に、奴らに対してますます怒りが
込み上げて来たんだ。
「あなたのような美しい方を閉じ込め
るなんて、何て酷い奴らなんだ。非常
識にもほどがある。あんな奴らは僕が
絶対に許しません! ミュレーナ姫、
今すぐそこからあなたを出して差し上
げましょう。少し手荒いですが今から
その窓を破壊します。お手数ですが、
窓から離れて物陰に隠れて頂けません
か? ガラスの破片が当たるといけま
せんので」
って、僕は気取って言ったんだ。
「分かりました、仰るとおりにいたし
ます。どうも、ありがとう」
って言って、彼女は室内を見回した。
僕は念を込めて大量の空気を凝縮し始
めた。
この窓は頑丈そうだから、クレーン車
についている鉄球くらいの大きさでや
ってみようって僕は思ったんだ。
「あのタンスの陰で、よろしいで
すか?」
って、彼女が僕を見て聞いたんだ。
「ええ、結構です。念力でシールドを
張って、あなたを守りますので、どう
かご安心下さい。念のため一応タンス
の後ろに隠れて下さい」
って僕が答えると、彼女が青い瞳を
大きく見開いて、こう叫んだんだ。
「翔太、危ない! 後ろ!」
って。
直後に僕は、奴らから全身に弾丸を
食らい意識が吹っ飛んだ。
姫に集中しすぎて、自分にシールド
を張るのを忘れてたんだ。
気がつくと、僕は自分の家のベッドの
上で、
「うわああー!」
って、大声を出して目が覚めた。