ミュレーナ姫救出作戦(その二)
自動通路はかなり速い速度で
動いてた。
スロープは塔の外周をはるか下の階
まで螺旋状に続いてるみたいだった。
所々に小さな窓があって外の様子が
見渡せた。
カミュたちはかなり苦戦している。
味方の円盤から煙りが出てた。
〈カミュ、想定外の事態だ!
今から援軍を送る!〉
って、王様が言ってる。
〈翔太の塔の方にもお願いします!〉
って、カミュが答えてる。
[カミュ、頑張ってくれ!]
って思いながら、僕がオートスロープ
を走ってると、次のフロアのエレベー
ターの扉から大勢のアーリン星人たち
が出て来た。
その辺りは踊り場みたいになってて、
スロープが一旦途切れてた。
奴らはバラムの指示で下の階から
上がって来たみたいだった。
僕は一番先頭の奴に飛び蹴りを
ぶちかましてやったんだ。
念力を込めて力一杯そいつの頭を
蹴った。
するとそいつは後ろにいた奴らを
なぎ倒しながら十メートルくらい
吹っ飛んで行った。
だけど残りの奴らが、次々と襲い
かかって来て、僕はその階でしば
らく奴らと格闘する羽目になった
んだ。
奴らは、
「ガルル、グルル、バルル!」
って、訳の分からない異言を発し
ながら襲って来た。
テレパシーが通じないから、何を
言ってるのか全然分からなかった。
奴らは手に自動小銃のような物を
持ってたけど、至近距離過ぎて誰
も発砲出来ない。
僕は奴らを蹴ったり殴ったりする
度に、一瞬の気合いと共に念力を
込めた。
まるで空手ファイターにでもなっ
たような気分。
僕は野球で鍛えてたから、運動神経
には自信があったんだ。
奴らはデカくて力も強いけど、
動きは鈍かった。
念力さえあれば、僕でも素手で充分
に闘えた。
だけど、奴らを全部片付けたと思っ
たら、エレベーターの扉が開いて、
また二十人くらいアーリン星人たち
が出て来たんだ。
僕はウンザリして、またスロープを
走って逃げ出した。
背後から銃弾が何発か体を掠めて
行った。
僕は慌ててシールドを張って、
スロープの上を物凄い速さで
飛行したんだ。
奴らは僕の速さについて来れな
かった。
◇◇
中腹の階まで来ると、さっきより大き
な踊り場みたいなスペースがあって、
奥の方に開きっぱなしの扉があった。
僕は一旦シールドを外し、注意しな
がら部屋の中に入って行った。
部屋の中は真っ暗だったけど、
下の方に舞台があって、そこに
だけ照明が当たってた。
そこは大きな円形劇場みたいだった。
目を凝らして舞台の上をよく見ると、
椅子に座ったミュレーナ姫がいた。
姫は後ろ手に椅子に縛り付けられ、
猿ぐつわを口に咬まされてグッタリ
と首をうなだれて座ってた。
僕は姫のその姿を見た瞬間、
目も眩むほどの怒りに襲われ
たんだ。
「うおおおー! チックショー、
バラム! ふざけんなよテメー!」
僕は大声で叫び、全速力で座席通路を
舞台に向かって駆け降りた。
姫がハッと顔を上げ、僕を見て
必死に首を振ってた。
僕が舞台に駆け上がった瞬間だった。
銃声が鳴り響いて、僕は舞台の上に
もんどりうって倒れてしまったんだ。
僕は慌てて舞台の上に半球体の
シールドを張って、姫と自分を
防御した。
弾丸が何発かシールドに跳ね返え
されて、カラカラと舞台の上に転
がった。
自分の左の脇腹を見るとポロシャツ
に穴が開いて血が流れてた。
脳天が痺れるほどの激痛で、
気が遠くなりそうだった。
「ウーッ、痛ッテー!」
僕は手で脇腹を押さえて呻いた。
ミュレーナ姫が泣きながら僕を見
てた。
僕も仰向けになって姫を見上げると、
情けなくて涙が出てきた。
[チックショー、怒りに我を忘れて、
またシールドを張り忘れてしまった]
って思うと、僕は自分の迂闊さが
つくづく嫌になった。
だけど、後悔しても遅い。
舞台の端からバラムが右手に拳銃の
ような物を持って現れた。
外れた右肩は、自分でハメ直した
みたいだった。
カミュが言ってたけど、奴らは
生命力が半端なく強いんだ。
地球の狼人間みたいに、心臓を銃で
打ち抜くか、首を切り離すかしない
となかなか死なないらしい。
奴は僕らに近づいて来て、
こう言ったんだ。
「おい小僧、お前が外してくれた
右肩のせいで狙いがそれてしまっ
たぞ。運のいい奴だ。だがもう、
時間の問題だ。お前の念力もやが
て底をつくだろう。二人とも一緒
にあの世に送ってやる。俺は姫を
盾に取り、この星を乗っ取る積り
だったが、それはもう止めにした。
どうせ乗っ取るなら力づくで乗っ
取ってやる。たった今、北極から
本隊を出動させた。こうなったら
俺はミュエル王と全面戦争で徹底
的に戦ってやる!その前に、二人
とも片付けておかないとな。恨む
なら頑固なミュエル王を恨め!」
奴は弾倉を交換し、僕が張った
シールドに向かって銃を連射し
たんだ。
その内の何発かはシールドを通り
抜けて床の上にカラカラと落ちて
来た。
姫は首を振りながら泣いてた。
猿ぐつわの隙間から泣き声が漏れ
ていた。
怪我をしたせいで、僕の念力は
パワーが弱くなって来てた。
奴が言う通り、もう時間の問題だ。
後どれくらい力が保つか自分でも
よく分からない。
「バラム、僕はどうなってもいい
けど、姫だけは助けてくれないか?」
って、僕は歯をくいしばって言った
んだ。
傷口が痛くて痛くて口がうまく回ら
なかった。
姫は僕を見て激しく首を振った。
すると、奴はこう言ったんだ。
「ダメだ! 姫を人質に取っても、
ミュエル王は首を縦に振らなかっ
た。俺が五大陸の内の一つだけで
も良いから領土をくれと、何度も
要求したのにな。奴は自分の娘さ
え愛せない心の狭い男さ。俺たち
を二千年も凍てつく北極に閉じ込
めやがって。アイツだけは絶対に
許さん! まず娘を殺して、奴に思
い知らせてやる。ミュレーナ姫の
死体を切り刻んで、アイツに送り
つけてやる!」
僕はこの星で死んでも、直ぐに蘇る
ことが出来るけど、姫を死なす訳に
はいかなかった。
いくらこの星の人たちが長生きだと
言っても、それは、再生医療が発達
してるからに過ぎないんだ。
生命力自体は地球人と変わらない。
姫は僕の目を見て、諦めたように
何度か頷いた。
僕は諦めちゃダメだという意味を
込めて、何度か首を横に振った。
僕は頭を振り絞って考えた。
もう奴と話し合っても無駄だ。
体力を消耗しないように、僕はもう
奴と口をきかないことに決めた。
とにかくシールドに集中して出来る
だけ長くこの状態を続けるしかない。
でもその時、カミュの声が量子無線
から聞こえて来たんだ。
〈翔太、聞こえるか? 僕たちは今、
塔の中に居る。王様が援軍を送って
くれたんだ。今、劇場の扉のすぐそ
ばだ。外から君たちを見てる。話し
の内容も集音器で聴いてる。残りの
アーリン星人たちはヒューマノイド
兵が全部やっつけてくれた。我々は
今から三十名で劇場の中に突入する。
狙撃兵もいる。次に奴が銃を構えた
ら行くぞ!翔太、分かったか?怪我
をしてるようだけど、何とかシール
ドを切らさずに持ちこたえてくれ! 〉
僕は舞台の上で誰にともなく頷いた。
バラムは僕の動きに気づかずに、
弾倉を取り替えた。
そして、奴は僕と姫に向かって
銃を構えたんだ。




